ケイ素とともに50年

著者: 藤橋 雅尚 講演者: 石川 満夫  /  講演日: 2011年07月21日 /  カテゴリ: 講演会  /  更新日時: 2011年09月02日

  

化学部会(2011月度)研修会報告

  時 : 2011721日(木)   (共催:近畿支部)
テーマ : 講演会

講演  ケイ素とともに50年

石川 満夫 理学博士 広島大学名誉教授
   日本化学会学術賞、ケイ化学協会功績賞受賞

1.はじめに

本日のテーマはわれわれのケイ素化学に関する研究を中心にお話する予定であったが、ケイ素化学についてご存知の方は少ないと思うので、研究内容の紹介を少なくし、一般的なケイ素化学(シリコーン、生物活性シリコン、シリコン化合物の構造・性質など)もお話しする。

2.シリコーン化合物

SiliconSiliconeは一文字違うだけであるが、Siliconはケイ素のことであり、Siliconeはシロキサン結合(-Si-O-)を骨格とする高分子化合物である。シリコーン製品としてはシリコーンオイル、シリコーンゴム、シリコーンレジンがある。シリコーン製品は、直接法( SiRClR2SiCl2 (Cu cat) )によって得られるクロロシラン類を原料として製造されている。

シリコーンオイルの構造と炭素化合物であるポリエチレンとの構造を比較したものが図1である。骨格を形成する-Si-O-の結合エネルギーが、-C-C-のそれより大きいことから前者は熱的に安定である。Si-O-Siの結合角は柔軟性があり、普通は140°程度であるが、90180°の広い範囲をとりうる、また、大きな熱振動のため、シリコーンは分子間の相互作用が小さい。

   1 シリコーンオイルの構造

シリコーンゴムは耐熱、耐寒性に優れていることから各方面に広く用いられている。特にRTVゴムは室温で硬化することから利用用途が広く、自動車工業界をはじめ、歯科での歯のかたどり、建築用シーリング材、コーテイング材等、いろいろな分野で利用されている。また、シリコーンは無機・有機の界面に対しておのおの親和性を持つ構造を付与できるので、カップリング材としても利用されている(図2)。

図2 シランカップリング剤

3.生理活性のあるシリコン化合物

 


 
シリコン系の化合物は、生理活性を持たない例が多いが、図3の化合物、シラトランは置換基Rにより大きな生理活性を示す。例えば、R = Phでは、ストリキニーネの約2倍の毒性を示すといわれている。

  図3 生理活性のあるケイ素化合物

4.ケイ素と炭素化合物の構造と性質の比較

ケイ素化合物と炭素化合物の構造を比較して、最も顕著な差があるのは不飽和化合物の構造である。炭素-炭素二重結合化合物ではC=Cと、これに結合する4つの炭素は平面状に、また三重結合化合物は直線分子である。しかしケイ素-ケイ素二重結合化合物および三重結合化合物は図4に示すようにベント構造である。

ケイ素化合物と炭素化合物の性質の大きな相異は紫外吸収スペクトルである。炭素-炭素単結合化合物は、炭素数が増えても紫外領域に吸収を示さないが、ケイ素-ケイ素化合物では紫外領域に吸収を示し、ケイ素の数が増すにつれ、吸収極大が長波長側にシフトする。

図4 炭素とケイ素化合物の違い

5.有機ポリシラン類の光反応

6員環化合物、ドデカメチルシクロヘキサシランは鎖状ポリシランと同様、紫外領域に吸収を示す。この化合物を炭化水素中で光照射すると、図5に示すようにジメチルシリレンを放出し4員環まで環の縮小が起こる。4員環は光照射によりラジカル的に開環し、水素を引き抜きテトラシランになる。テトラシランはさらにシリレンを放出しトリシランを生成する。鎖状ポリシランも同様、光照射によりシリレンを放出し、あるいはラジカル切断により低分子に変換される。

  図5 Si-Siの光反応

光反応の応用研究として、図6に示す半導体製造時のフォトレジストへの応用を検討した。この方法でサブミクロンの非常にきれいなレジストパターンが得られることを明らかにした。当時としては画期的な技術であったが、現像に有機溶剤を使わねばならないことがネックとなり工業化には至らなかった。その他、πー電子系ジシラン類の光反応、星型化合物の合成と性質など興味深いお話をいただいたが、省略する。

   図6 フォトレジストへの応用

Q&A

Q Cuを触媒に使われているがなぜか。またSiと合金になっての反応か。

A ラジカル反応と思われる。CuR-ClClを金属表面上でラジカル的に引き抜き、Rラジカルが生成し反応が進行するものと考えられる。反応の途中で合金になるかもしれない。

 

Q 光反応の時の光量子の収率はどれくらいか。

A この反応の量子収率については測定していないので分からない。

 

Q フォトレジストについて有機溶媒は駄目でないはずと思うが駄目になったのはなぜか。

A 当時は、現像にアルカリ水溶液が用いられていたので、有機溶媒の使用はプロセスを変える必要があり、結果的に採用されなかったと理解して欲しい。

 

Q Si-SiがUV吸収を持つ件について、なぜ発見できなかったのかもう少し説明して欲しい。

A 炭素―炭素σ結合は励起され難い、Si-Siはσ結合であるのでπ結合のように簡単には励起されず、紫外吸収があるとは予想できなかった

 

Q Si-Si化合物は面白いと思うが、ネガティブな化合物ができる可能性についてはどうか。

A ネガティブな化合物はほとんど聞いたことがない。

(文責 藤橋雅尚  監修 石川満夫


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