淀川水系から水問題を考える

著者: 上田 泰史 講演者: 荻野 芳彦  /  講演日: 2013年04月27日 /  カテゴリ: 講演会  /  更新日時: 2013年06月18日

  

【環境研究会 第58回特別講演会】 

日 時:平成25427日(土)10:0012:30
場 所:アーバネックス備後町ビル3階ホール

講演:淀川水系から水問題を考える

講師 荻野 芳彦 大阪府立大学名誉教授 農学博士
淀川水系流域委員会 委員

<講演について>

淀川水系には5つのダム(丹生ダム、大戸川ダム、川上ダム、余野川ダム、天ケ瀬ダム再開発)の計画があった。国土交通省近畿地方整備局(河川管理者)が20012月に設置した「淀川水系流域委員会」委員会では治水や利水の考え方をまとめて、ダムの必要性がないことを提言し、それに基づいて整備計画立案に反映することを求めたご経験をベースにして、ご講演いただいた。

◆河川法の改正

旧河川法(明治29年制定)は治水を中心にし、昭和39年の「新河川法」改正では治水と利水の法整備を行った。高度経済成長で河川の環境は見過ごされ、ごみや汚濁で河川環境は悪化の一途の状態であった。市民の生活環境から川は遠ざかり、市民は川について関心を持たなくなった。

こうした背景から平成9年に河川法の改訂が行われた。
河川環境の整備と保全(河川環境整備を第1の目的)
河川整備計画の策定にあたって住民の意見を聞く(第16条の2)(住民参加による河川整備計画の策定)

◆淀川水系流域委員会

目的は、整備計画策定の段階から、住民の意見を聴き、河川整備計画に反映する。
組織運営は、河川管理者(国)は委員選考にかかわらない。
委員会は全面公開、傍聴者発言、資料議事録公開で庶務は第三者機関が担当した。
提言、意見書なども委員が執筆し、三菱総研の会議室を借りて徹夜で作業を行ったこともあった。

・河川整備計画の審議過程

第1次委員会では
設立後、河川管理者の考えていることが見えてきて、中間とりまとめ→提言とりまとめ→「基礎原案」→意見書→ダムワーキングG設置→事業中ダム意見書→答申提出と進み、ダムにこだわる河川管理者と激論が交わされた。

第2次委員会では
「ダムについての方針+調査検討とりまとめ」を経て、「基本方針」が国から出された。しかし、基本方針の内容は委員会の意見が反映されたのでなく驚きと失望、長年の議論が生かされず誠に遺憾なものであった。

第3次委員会では
「整備計画案」の公表→中間意見書→「整備計画」公表→最終意見書→「整備計画」公表と審議することなく急テンポで進んだ。管理者は委員会提案を受け容れることなく、実質的な審議すら拒否し、ついに最終の「整備計画」を発表し、委員会は休止・取りつぶされた。

第4次委員会は
河川管理者主導で発足したが、河川法16条の2の精神は生かされなかった。

◆利水・水需要管理部会

河川の利水管理に水需要抑制(節水)を加えて検討する部会であった。淀川下流では、水利権水量と1日最大給水量(需要量)に大きな乖離があり、1日最大で230万m3/日、平均300万m3/日の未利用水が発生していることが明らかになった。
利水者は計画中のダムから撤退し、ダム計画は頓挫した。

◆主な論点・争点

河川環境の重視(生物・生育環境の評価・保全再生の指標・専門知識の習得)
生態的にみて水の連続性が重要で、ナマズ等の魚は川を遡って水田で産卵するので水の連続性を断ち切る川は好ましくない。

河川利用の問題として河川敷のグランドやゴルフ場ではなく、手を加えない自然環境に戻す。

治水対策として、一定の洪水を想定してダムと河川で洪水を流すのではなく、流域全体で分散的に洪水制御する、また、破堤しない堤防に強化する方針へ転換する。

◆ダム問題

既往最大規模洪水の想定、ダムありきの河川管理者
委員会の治水代替案の提案(あらゆる洪水に破堤しない堤防を目指す+流域対策)
利水者のダム事業撤退

◆ダムと原発 水とエネルギー:共通点が多い

利権・隠蔽体質、御用委員会の権威失墜、天下りの連鎖、非公開・密室
巨大公共事業、税金のつぎ込み、大災害・カタストロフィー
繁栄のシンボル、災害時に必ず出てくる、シビルミニマム

◆マスコミの力と地方自治体の長のはたす役割が大きい

 

質疑応答

Q:今のまずい現状を打開する方法をお聞かせください。

A マスコミと自治体の首長さんの力がやはり大きいです。無駄なものは無駄として不必要な予算をださない首長の姿勢が国の政策に影響を及ぼすようになってきました。

Q先生は農業がご専門ですが、溢れさせる治水というものは受容できるものですか?

A:日本の農業は溢れさせることに抵抗感があり、田は乾いた状態にしておくのが農林水産省の考え方です。一方溢れさせる治水は流域対応ではあり得るので、補償問題等との折り合いの付け方が必要になってきます。

Q:海から来る津波のように川下からくる水に対して治水面でどう考えておられますか?

A:手は打っておらず、結論も持っていません。河川自身はオープンで閉切ることはできない存在です。

コメント

荻野先生は国土交通省近畿地方整備局(河川管理者)が20012月に設置した「淀川水系流域委員会」で20071月まで6年間委員を務められ、淀川水系の治水と利水、特に、ダム開発についてご講演いただいた。 
淀川水系には5つのダム(丹生ダム、大戸川ダム、川上ダム、余野川ダム、天ケ瀬ダム再開発)の計画があった。
委員会では治水や利水の考え方をまとめて、ダムの必要性がないことを提言し、それに基づいて整備計画立案に反映することを求めた。しかし、国土交通省・河川管理者はダム建設に批判的な委員会提言を拒否し、委員会も事実上廃止した件にも言及いただいた。
環境研究会で推進しているGTCCのプロジェクトにも大変示唆の富んだ内容であった。

  (監修:荻野 芳彦  作成:上田 泰史)


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