環境・エネルギーの現状と将来

著者: 久保田 正博  /  講演者: 末利 銕意 /  講演日: 2020年8月1日 /  カテゴリ: 化学部会 > 講演会  /  更新日時: 2021年01月10日

 

化学部会 講演会(2020年8月度)報告

  時 : 2020年8月1日(土) 14:4517:00
  所 : 日本技術士会近畿本部会議室
web方式を併用)

 

講演1 環境・エネルギーの現状と将来

講演者 : 末利 銕意 技術士(化学、総合技術監理)

 

講師は、環境管理審査を専門分野とする技術士である。JICA研修生の受け入れ指導なども行っている。日本技術士会副会長も歴任されている。

 

1.地球温暖化の現状               

IPCC5次報告(左図)にあるように、気候システムの温暖化には疑う余地がない。気温は1880年から2012年の間に0.85℃上昇し、海氷面積や積雪面積の減少、海面水位の上昇が起きている。

温暖化が臨界点を超えると、中新世中期(15~17百万年前)に近い状態に移行すると予測されている。中新世中期では、CO2濃度300-500ppmで(現在400ppm)、世界平均気温は産業革命前に比べて4~5℃高く、海面水位は10~60m高かった。

化石燃料からCO2ゼロ排出エネルギーへの転換(脱炭素化)、CO2を吸収する生態系の保全、といった対策が必要となっている。

  IPCC5次報告抜粋

 

2.環境問題への国際的取り組み

2015COP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)にて、2020年以降の温暖化対策の国際枠組み『パリ協定』が正式に採択された。産業革命前と比較して、世界の平均気温上昇を2℃未満に抑えることを、パリ協定全体の目的としている。すべての国が削減目標を5年ごとに提出・更新し、更新の際には目標を深掘りすることになっている。また、気候変動の影響に適応しきれず、実際に「損失と被害(loss and damage)」が発生してしまった国々に対し、救済を行うための国際的仕組みも構築している。

持続可能な開発目標(SDGs)とは、20159月の国連サミットで採択された、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標である。17のゴール・169のターゲットから構成され、地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っている。

   

ESG投資(責任投資)とは、投資の意思決定において、従来型の財務情報だけを重視するだけでなく、ESG(環境:E、社会:S、組織統治:G)も考慮に入れる手法のことである。国連責任投資原則に世界の機関が署名し(2016年時点1759機関、23兆ドル)、ESGは一般的な投資手法(メインストリーム)になっている。

 

3.世界のエネルギーの現状とエネルギー政策

各国で、個別事情に適応しつつ、環境問題への対応を進めている。

EUは、①エネルギーの安定確保に努めつつ、②再生可能エネルギーの推進やエネルギー消費の抑制を進めている。また、③欧州全体で電力網を構築し、電力を融通し合う仕組みができており、④エネルギー自由化も進んでいる。

中国は、①国産の石炭資源を基礎とする、②エネルギー源多様化を図る、③安定的・経済的・クリーン・安全なエネルギー供給体制を構築する、などを原則とした第115カ年計画を進めている。

インドは、①石炭の増産、②エネルギー部門構造改革・規制緩和の実施、③需要サイドの管理による省エネルギー/エネルギー効率化を基本方針としている。

        出典)エネルギーバランスのためのワーキンググループ(AGEB2016.01.28更新版

 

4.日本のエネルギー政策

日本は、福島原発事故によるエネルギー供給危機など紆余曲折を経つつ、パリ協定目標に向けて脱炭素へ舵を切っている。中国の台頭、地政学上の緊張の高まり、EV化競争の激化、原子力発電への賛否、エネルギー市場の自由化など、いろいろ考慮すべき要素がある。

2030年に向けて、①温暖化ガスを年1.7%削減し、徹底した省エネルギーによってGDP当たりのエネルギー消費を2012年比35%削減することを目標にしている。また、②電源構成の約半分を非化石燃料で構成し、その半分を再生可能エネルギーで占めるとしている。

      日本の2030年目標:エネルギーミックス  出典:資源エネルギー庁

 

5.将来のあり姿に対する意見

2050年のあり姿は以下のようになると予測している。
 ①強靭な防災システム構築(温暖化対策)。
 ②一次エネルギーは、主力が再生可能エネルギー、補完的に化石燃料。原子力も部分的稼働。
 ③二次エネルギーの主力は電力で、補完的に水素。
 ④スマートエネルギーネットワークが張られ、電力市場を通じて時間的な売買が普及。
 ⑤蓄電装置の実用化が進んで、再エネの過不足を補完。 

 ⑥蓄電装置の実用化が進まなければ、水素で貯蔵・輸送するエネルギーシステムが補完。 
 ⑦自動車は高効率の電気自動車か水素自動車。
 ⑧AIIoTの活用による省エネ社会が実現。
今後、持続可能原則に従い、人間活動は生態系の機能を維持できる範囲内に留める必要がある。「持続可能な社会」に向けて価値観の大転換(パラダイムシフト)が起こりつつある。未来の地球は不確かさで満ちているが、人類は持続可能な未来を切り開いていかねばならない。そのためには、科学技術者だけでなく、技術を享受する一般人を含めた社会全体で考えていくことが必要である。

  価値観の大転換(パラダイムシフト)

 

(文責 久保田 正博、監修 末利 銕意)