マスクなど衛生関連の機能性試験方法について

著者: 城山 義見  /  講演者: 斎藤 寿叙 /  講演日: 2021年5月15日 /  カテゴリ: 化学部会 > 講演会  /  更新日時: 2021年10月13日

  

近畿本部 化学部会・繊維部会 合同講演会

日 時 :2021515日(土) 14:0016:45
場 所 :WEB方式

 

講演1: マスクなど衛生関連の機能性試験方法について

講師: 斎藤 寿叙 技術士(繊維)
一般財団法人 カケンテストセンター 大阪事業所 生物ラボ長

1.はじめに

講師は講演の最初に、米国の疾病予防管理センター(CDC)が202011月にWebで公表した新型コロナの感染情報を紹介された。無症状又は発病前の人からの感染が4045%と推定されるという。潜伏期間は約10日で発症直前と発症後の数日間が感染のピークである。従来の風邪やインフルエンザと異なり、外見では感染リスクの高い感染者を見分けられないことから、全ての人にマスク着用が求められている。マスクの有効性はよく知られているが、多くの実験を通して、飛沫排出側の着用が効果大で、吸引側もマスクを着用すれば一層効果が上がる。

2.マスクの各種の試験方法

1)マスクの分類と用途

マスクはその用途別に、産業用、医療用、一般・家庭用の3つに分類される。産業用は防塵マスクで、米国のN95 が広く知られている。医療用マスクは医療現場で使用されるが、日本では規定がなく、米国ではフェイスマスクとして、ASTM F2100の規定があり、材料は不織布で使い捨てとなっている。一般用は日米とも規定はなく、飛沫拡散防止、花粉対策、防寒、保温などの目的で使用される。

2)マスクの形状・材料と構造

マスクの形状には平型、プリーツ型、立体型があり、その材料は不織布、布、ウレタンが主流である。マスクの材料としては不織布がよいとされている。一般的な不織布マスクの構造は三層構造で、外層がSB(スパンボンド)、中間層はMB(メルトブローン)、内層はSBになっている。SBは比較的太い長繊維で構成され、通気性が高く強度があり、MBは直径が1-6μmの極細繊維で構成され、捕集性能に優れているが強度は低い。

3)マスクの微粒子捕集原理

空気中に浮遊している微粒子は細い繊維の表面に粒子を付着させて捕集する。フィルターは慣性衝突、重力、さえぎり、ブラウン拡散、静電気などが性能を決める要因となる。不織布マスクに多く使用されるポリプロピレン繊維の捕集効率を向上させるため、エレクトレット加工が施されることもある。

3.マスクに求められる性能

基本性能:呼吸ができる(通気性)、安全性(化学物質の含有)、耐洗濯性(布マスク)

フィルター性能:花粉、微粒子、咳、くしゃみの飛沫、エアロゾルなど

その他の性能:接触冷感性、抗菌性、抗ウイルス性など

4.マスクの試験方法

米国の医療用フェイスマスク基準(ASTM F2100)では、
 1)細菌飛沫のろ過(約3μmASTM F2101
 2)微粒子のろ過(粒径約0.1μm0.3μmASTM F2299
 3)圧力損失(息のしやすさ)DIN EN14683 などがある。

日本衛生材料工業連合会の自主基準には、上記項目に加えて
 1)ウイルス飛沫(約3μm)のろ過、花粉(約30μm)のろ過(いずれもカケン法)があり、品質の維持管理に使われている。

講演ではカケンで開発された試験機も紹介された。(HP http://www.kaken.or.jp

5.マスクへ抗菌・抗ウイルス加工する場合の注意点

SEKマーク基準では、マスクなど顔に長時間装着するアイテムの口唇や鼻腔と接触する部分に抗菌・抗ウイルス加工することを認めていない。また、全国マスク工業会の注意喚起では、抗菌・抗ウイルス加工は、飛沫がマスクに染み込んで長時間残留している細菌・ウイルスへの効果は期待できるが、呼気として瞬間的に生地を通過する細菌・ウイルスへの効果は謳えないとされている。(現在広く使われているJIS/ISOの抗菌・抗ウイルス性試験では瞬間的な効果を評価しておらず、呼気への効果の根拠とならない)

6.マスク使用時の留意点

1)用途・状況に応じて使い分ける

不織布マスク・・・医療従事者、体調不良時、満員電車、受験会場など

布マスク・・・・・健康な人の日常で使用、加湿、保温が目的など

2)機能性より安全性が大切

「呼吸のしやすさ」と「フィルター性能はトレードオフの関係にある。フィルター性が高くても通気性が低い(圧力損失が高い)マスクは、横漏れ、熱中症などの懸念があり、注意が必要である。

3)医療従事者は使い捨てマスクが必須である

4)適正なサイズのマスクを正しく着用する

7.&A

Q:エレクトレット加工を施したマスクを界面活性剤で洗浄した場合、その効果は減少するか?

A:実際に不織布マスクを洗浄しての捕集実験をした経験がないので不明であるが、エレクトレット加工や界面活性剤の特性を考えると効果は減少すると思われる。

Q:ナノファイバーを使った場合についてご意見を伺いたい。

A:繊維が細くなるので捕集効率は大きくなるが、同じ目付・厚さでMBと比べると圧力損失が大きくなる可能性があり、フィルターやマスクの設計で工夫が必要であると思う。

(文責:城山 義見 監修:斎藤寿叙)