グリーンインフラからカーボンニュートラルまで

著者: 宇田 毅  /  講演者: 木田 幸男 /  講演日: 2021年9月18日 /  カテゴリ: 環境研究会 > 講演会化学部会 > 講演会  /  更新日時: 2022年01月02日

  

近畿本部 4組織合同講演会(農林水産部会、繊維部会、化学部会、環境研究会)

日 時:2021918日(土) 133016:30
場 所:Zoomによるオンライン講演会

 

講演2 グリーンインフラからカーボンニュートラルまで

講師  木田 幸男 氏(一般社団法人 グリーンインフラ総研 代表理事)

1.現 状

世界経済フォーラム2021によれば、人間にとって大きな脅威は、気候変動による対応の不履行、生物多様性の喪失、天然資源の枯渇など、ほとんどが地球環境に関する項目で占められている。

 これからの社会は、単にコロナ禍以前の経済システムに戻るのではなく、エネルギー政策の転換や気候変動への対応などを含めたサスティナブルな社会作りを目指す復興プラン(グリーンリカバリー)が求められており、我が国においては、2050年温室効果ガス実質排出ゼロを目指す中で、グリーンイノベーション、グリーンインフラの2つのグリーン政策(自然との共生、再生循環)が進められている。

 

2.グリーンインフラとは

みどりや水など、自然がもつ多様な機能を賢く利用することで持続可能な社会と経済の発展に寄与するインフラや土地利用計画(国土交通省)を指すもので、環境保全、街づくり、防災・減災など、様々な分野を融合させる新しい街づくりの概念である。

本講演会では、現状分析~海外を含む都市での事例紹介を交えて、今後のわが国における社会資本整備の必要性、方向性について説明があった。

 

3.グリーンインフラがもたらす効果について

   1)解決する課題が新しいということ

   2)多機能性があり、自然を基本とした解決策であること(NbS:Nature based Solutiion

   3)グリーンがインフラとして価値を持ち、定量評価が可能である

 以下①、②、③が海外事例、④、⑤を国内事例で説明行われた。

① 創造的オフィスに優秀な人材を集めて、生産効率を上げる。
② 心身の改善に寄与できる。(出所:Vivek Shandas Portland State Univ.
③ 持続可能な街づくりによる不動産価値の向上。
  公園の植栽基盤に雨水貯留浸透層を設置し、雨の循環回廊(700m)の創出と冷える街づくりを実現した、横浜グランモール公園の事例。
⑤ 雨水を歩道下で貯留・浸透させ内水氾濫防止の取組を行った、埼玉県戸田市の事例。

4.SDGsな街づくりに取り組むグリーンインフラ大賞からの事例紹介

グリーンインフラ官民連携プラットフォームが主催し、令和2年度に創設され、応募部門は4分野にわたる。これまで実装してきた実例を応募団体が提出して、それを参加の約1,000団体が評価したものである。

応募部門には、Ⅰ.防災・減災部門、Ⅱ.生活空間部門(緑や水の活用による生活空間の形成)Ⅲ.都市空間部門(官民連携による投資や人材を呼び込む都市空間の形成)、Ⅳ.生態系保全部門(豊かな自然環境・景観・生態系保全による地域振興)がある。

コウノトリ保護を中心とした豊かな自然環境作りなどもグリーンインフラとして大きく取り上げられており、都市空間部門の中では、最上位の国土交通大臣賞として丸の内ストリートパークが輝いた。これは丸の内、大手町、有楽町一帯をグリーンインフラで整備した(一ヶ月間)実施例であるが、多くのグリーンインフラ技術の導入と賑わい空間作りが評価された。

このように、単に街づくりの中に良い環境を持ち込むだけでなく、その街特有の賑わいをどのようにして創出するかという点も大きな課題であり、そのような文化的サービスの実現もグリーンインフラの特徴であることが認識されつつあることが、国内での近年の大きな進歩といえる。

5.まとめ

国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第 6 次評価報告書 1 作業部会報告書(自然科学的根拠) 政策決定者向け要約(SPM)の概要(ヘッドライン・ステートメント)では、

A.1 人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない。大気、海洋、雪氷圏及び生物圏において、広範囲かつ急速な変化が現れている。

A.2 気候システム全般にわたる最近の変化の規模と、気候システムの側面の現在の状態 は、何世紀も何千年もの間、前例のなかったものである。

との報告がなされているとの説明があった。 

コロナ禍がいずれ収束するにせよ、求められる街のあり方が変わるという説明があったが、ヒートアイランド現象、都市型集中豪雨の頻発、インフラ長寿命化、省エネ、集中→分散、リモートワーク(偶発的な出会いのない世界)、ITストレス、バイオ・フィリックデザイン、ウォーカブル等のキーワードを内包した持続可能な社会を目指す事は喫緊の課題である。

グリーンインフラに関係する、樹木、緑地に関しては、農林水産部会にも親和性の高い技術分野であり、今後もこの分野の技術研鑽を続けていく必要性を感じた。

以上

 (文責:宇田 毅、監修:木田 幸男)