COVID-19リスクガバナンスを構築する感染経路制御技術の体系

著者: 久保田 正博、藤橋 雅尚  /  講演者: 藤井 健吉 /  講演日: 2021年10月9日 /  カテゴリ: 化学部会 > 講演会  /  更新日時: 2022年02月12日

 

近畿本部 化学部会 10月特別講演会 と パネル討議

日 時 :2021109日(土) 14:0016:30
場 所 :
近畿本部会議室 オンライン(Teams

 

講演 : COVID-19リスクガバナンスを構築する感染経路制御技術の体系

講師: 藤井 健吉氏  博士(医学)、
  花王株式会社安全性科学研究所

はじめに

講師は、花王株式会社研究開発部門安全性科学研究所レギュラトリーサイエンス戦略室長を務め、製品安全リスク評価と規制戦略に関する業務に従事をされている。

本講演で、講師は、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染制御リスクガバナンスは、どの様な要素技術の積み上げで実現出来うるのか」について、感染経路制御技術の社会実装の視点から概説し、さらに今後の新しい衛生規範社会の姿についても言及された。

1.COVID-19感染経路制御技術の体系

インフルエンザでのモデルの水平展開で、COVID-19感染リスク評価技術を開発した(図1)。

    

この評価技術によって、COVID-19の場合、3つの感染経路(空気感染、飛沫感染、接触感染)のうち、飛沫感染と接触感染が主であることが明らかになった(図2)。

  

接触感染経路の除染に関して、ウイルスの構造と不活性化機序を明らかにし、ウイルスを不活性化する化合物を体系化し、「接触感染経路のリスク制御に向けた新型ウイルス除染機序の科学的基盤」にまとめた。
これら感染経路制御に関する要素技術の積み上げで、感染経路制御技術の体系ができた。

2.COVID-19感染経路制御技術の社会実装

「社会実装」とは、得られた研究成果を社会問題解決のために応用、展開することを言う。感染経路制御技術の社会実装として、東京オリンピック開会式の感染リスクアセスメントと対策評価(図3)などを行った。さらに、ウイルス除染の社会実装に向け、COVID-19の接触感染に対するリスク低減実施規範として、「環境表面のウイルス除染ガイダンス」(日本リスク学会)をまとめた。

  

3.COVID-19リスクガバナンスと今後の新しい衛生規範社会の姿

リスクガバナンスとは、社会としてどのリスクにどのように対処すべきか、すなわち社会全体としての対処の最適化を目指すものである。COVID-19のリスクガバナンスは、感染症対策の3原則に基づいて設計され(図4)、感染経路制御技術の社会実装につながった。

   

COVID-19感染爆発の最初の数ヶ月間から学んだ経験を教訓にして、次の同様な事態に備え、バイオサイド規制など社会制度の刷新が必要である。 

Q&A

Q 環境のウイルス有無を検知する指示薬は作ることができるのか?

 作ることはできるが、検出レベルやタイムリーさの問題がある。感染者が来たことが後で判明するより、飛沫の付着した場所がその場でわかることの方が実用的である。

Q なぜ、今まで日本にバイオサイド規制が無かったのか?

A 法規制は必要だから設けられる。日用品の法規制は不必要だったので設けられてこなかった。ウイルスに対する有効性の訴求が医薬品以外で必要になったのは、日本では、今回が初めてのケースであった。

  

パネルディスカッション  大規模行事での感染制御策

パネラーが担当の行事実績または予定を発表し、藤井講師にコメントいただく形式で運営した。

1.近畿本部の事務所の運営について

司会(兼)パネラー  天野 武日古 技術士(上下水道) 近畿本部副本部長

近畿本部の事務室と会議室は検温と消毒に加えて換気を重視している。入口は開放し窓は開けサーキュレーターによる強制換気を行い、CO2濃度計も導入して測定(当日:883ppm)。

<藤井講師>

サーキュレーターで空気の動線を作ることは有効である。換気が不十分な部屋や、大人数になる際の対策は、チェックシート方式が有効とされている。

2.小規模行事での「感染症対策」 ~取り組み事例の紹介~

パネラー  伊藤 雄二 技術士(化学) 近畿本部化学部会長

1)202月末の50人規模(定員50人)の講演会は、通常の感染対策に加えて、出席者に体温管理法の伝授と講師に空間除菌法の検討はしたが、講師の出席辞退もあり中止した。

2)205月、最小規模10名(7割web)での勉強会は、会場側の対策に加え、出席者への体温管理法の伝授と帰宅時の(抗ウイルス)マスク(216JIS制定)の提供をした。

3)209月、50人規模(定員100人)の講演会は、5月以来の実施経験も踏まえ、主催者側は、換気、手指除菌、検温の記録、出席講師への感染防止策としての口元シールドの採用をした。なお、万一時は、救急車の手配と保健所への報告を予定したが、何事もなかった。

4)21年は、近畿本部主催行事は少人数での会議室出席とのweb併用式で行っている。なお、冬場の換気不良を考慮して、会議室と事務室に据置き型の空間除菌法を設置した。

5)主催者側としては、日用品での感染防止の実用試験を試みていたが、もとになった技術について、専門家による「感染症収束に向けた技術力の発揮」と題する講演会も実施した。

<藤井講師>

空間除菌法は、多くの人がいる条件で安全性の確保に課題があるため、厚労省が懸念を表明し継続課題となっている。マスクについては、ウレタンマスクと不織布マスクでスコアが全く異なることに加え、洗濯により効果が下がることにも留意が必要である。

3.インフラメンテナンス国民会議への出展

パネラー  河野千代 技術士(建設)近畿本部副本部長 地域連携強化委員長 

建設系は幅広い分野のため、相互の連携が重要である。ここでは、マッチングを目的として開催したインフラメンテナンス国民会議近畿本部フォーラム2021 71,2日開催:会場は花博記念公園:2日間で約3000名来場)について報告する。 

感染症対策として、夏場のため冷風機の設置、入口での体温測定、マスク着用、アルコール消毒、講演でのアクリル板設置などを行い、且つ密を避けるため、会場内一方通行、通路での会話禁止、休憩室の隔離、屋外の活用など思いつくことは全て行った。特に通路での密を避けるための監視の強化を実行し、注意を受ける例もあったが改善されていった。

<藤井講師>

実行された対応に過不足は無いと思う。補足としてアルコール消毒についてインフルエンザウイルスの場合は濃度50%で充分である(北里大学から報告がでている)。市販品は70%以上あるので問題ないが、保管中徐々に薄まってくることと、手が濡れている場合(汗を含む)50%以下になる可能性があることに留意が必要である。

4.大阪勧業展2021出展事例の紹介

パネラー  間島 勝彦技術士(経営工学)近畿本部副本部長 技術士活性化委員長 

技術士活性化委員会では、128,9日に大阪ATCホールで開催される大阪勧業展に出展を予定している。目的は、資料の配布とプレゼンテーションなどであり、ブースのイメージは、間口3m奥行きは2.5m程度である。ブースには机を置いて密を避けながら、概ね23分程度の商談(会話)を考えている。主催者のルールに従うが留意点について教えて欲しい。

<藤井講師>

外部の人と接触するので、アプローチとブースの設営が大切である。感染者が来る確率は低いと考えるが、ウイルスが持ち込まれた場合で考えて見る。ウイルスは放出されても殆どがすぐに落下する。しかし一部が浮遊するので、いかにして追い出すかが重要である。扇風機を設置した場合、ウイルスをまき散らす結果となるように見えるが、見方を変えると薄めるにつながって行く。結論として全体の換気が有効であれば扇風機は効果があると思う。

5.2025年万博への出展計画について

パネラー  綾木 光弘 技術士(農林 総監) 2025大阪関西万博参画準備委員長 

2025年に大阪で開催される国際博覧会のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」に賛同して、近畿本部が中心となって出展を予定している。技術士会としては、大阪は医薬の発祥地であることと、新型コロナはエンドレスであるという発想の下で、来場予想2820万人(15万人/日)を前提として、リアル会場とバーチャル会場の相違など技術士が貢献できないかと考えている。ヒントがいただけたらお願いしたい。

<藤井講師>

今言えることは、東京オリンピックに較べれば準備期間があるので、①その間に準備できることを選んで目指していくこと。②コロナ対策の集大成を考えること。③普通の風邪やインフルエンザになるかも知れないことも配慮して、普遍的なセットで対応する道筋。などを進めて行く考え方はどうか。頑張って欲しい。

(文責 久保田 正博、藤橋 雅尚 監修 藤井 健吉)

 

6.アンケートによる質疑応答

Q 家庭用除菌剤などを現行の薬機法で日用品をカバーしようとすると、具体的にどういう問題が生じるのでしょうか? 販売業者が医薬品販売業の資格が必要になり、スーパーやコンビニで販売できなくなる、ということでしょうか?

A ・薬機法(旧薬事法)第66条以下に、広告規制と指定薬物等の販売等に罰則規定がある

・規制の対象は以下の3点で、疑わしいものには行政指導等も受ける
1.
疾病の治療や予防を目的とする効能効果
2.
身体機能の一般的増強・増進(補給・維持は除く)
3.
医薬品的な効能効果の暗示

・医薬品・医薬部外品には、販売許可(販売員)や国家資格の薬剤師による案内が必要であり、無資格者による業務行為は禁止

・今回の質問の回答としては、
医薬品・医薬部外品では「消毒」が用いられ、雑貨品では「除菌」や「ウイルス除去」が使用される。
「雑貨品」には、医薬品的な効能効果の暗示は規制対象になる。

(回答:伊藤雄二)