機能性フィルム開発に携わって

著者: 久保田 正博  /  講演者: 中田 将裕 /  講演日: 2021年12月11日 /  カテゴリ: 化学部会 > 講演会  /  更新日時: 2022年05月03日

 

近畿本部 化学部会 12月講演会

日 時 :20211211日(土) 14:0017:00
場 所 :近畿本部会議室 + オンライン(Teams

 

講演1 : 機能性フィルム開発に携わって
 ~コンデンサ用薄膜PPフィルム~

講師:中田 将裕 氏(化学/総監、王子ホールディングス株式会社)

(1)フィルムコンデンサ

コンデンサには、フィルムコンデンサ、アルミ電解コンデンサや積層セラミックコンデンサなどがある。フィルムコンデンサは寿命や耐電圧の点で優れている。フィルムコンデンサは、一般的に、金属蒸着フィルムを巻回して作られる(図1)。フィルムに使うプラスチックとしては、耐湿性、誘電損失、価格の面で、ポリプロピレン(PP)がよく用いられる。

  ダイアグラム, 設計図

自動的に生成された説明 1:フィルムコンデンサ
https://industrial.panasonic.com/jp/products-cap/film-capacitors

HEVEV等の電気自動車では電力変換が必要なので、コンデンサが必要である。パワーコントロールユニット周りの昇圧コンバータやインバータの平滑コンデンサは、高温環境下で高電圧に耐える必要があり、品質に対する要求も厳しいため、二軸延伸ポリプロピレン(BOPP)フィルムコンデンサが主に用いられる。軽量化のため、薄膜化も求められている。容量密度があがり、システム効率化にもつながる。

(2)フィルムコンデンサ用薄膜PPフィルム

HEV/EV向けBOPPフィルムへの要求特性を満たすためには、原料樹脂設計、製造プロセス最適化、表面粗化設計の3つのアプローチが必要である(図2)。

原料樹脂は低分子量成分を増やした設計にすることで、耐電圧性と延伸性を向上させた。耐電圧性が高くなるのは、結晶子サイズが小さくなるためと考えられている。また、高立体規則性PPを添加することで、必要な延伸力を上げ、結晶子サイズがさらに小さくなるようにした。

  ダイアグラム

自動的に生成された説明 図2:BOPPフィルム設計

 

製造プロセスは溶融押出→キャスト成形→縦延伸→横延伸→引取・巻取→断裁よりなる。常にしわ無く巻き取れるようにしつつ、なるべくゆっくり低温で延伸することで結晶子サイズを小さくし、耐電圧性を上げた。

PPフィルムは、ハンドリングのための滑り性付与、セルフヒーリングによる保安性確保のため、適度に表面粗化する必要がある。耐電圧性確保のため、フィラーを入れずに、PPの原料設計と製造条件調整で表面粗化している。

(3)機能性フィルム開発の概要・考え方や今後の展望

演者は、製紙関連事業を主軸とする会社の中では、唯一のプラスチックフィルム工場で、機能性フィルムの研究開発に携わってきた。一般に機能性フィルムとは、機能性材料を付与して新たな機能を付加したフィルムであるが、今回講演したHEVEV向け薄膜PPフィルムでは、高度な延伸による薄層性を高機能と考えている。

今後は、自前でコンデンサを作れる設備・技術を持っていることを強みとして、フィルムの性能を最大限に引き出すソリューションビジネスを展開したい。

Q&A

Q 車載用途では品質要求が厳しく、信頼性に関するメカニズム説明も顧客から厳しく求められると予想するが、どのように対処しているのか?

 わかる範囲でデータを積み上げ丁寧にメカニズム説明を行うしかない。また、ゼロディフェクトが当たり前なので、均質性に関する説明もよく求められる。

(文責:久保田 正博  監修:中田 将裕