マイクロプラスチック問題とプラスチック資源循環

著者: 出口義国  /  講演者: 府川 伊三郎 /  講演日: 2022年7月8日 /  カテゴリ: 環境研究会 > 講演会化学部会 > 講演会  /  更新日時: 2022年10月17日

  

近畿本部 化学部会・繊維部会・農林水産部会・環境研究会 四組織合同講演会

日 時: 79()   13:3516:30
場 所: オンライン(Zoom

メインテーマ:【循環型社会の構築】

講演2 マイクロプラスチック問題とプラスチック資源循環

~マイクロプラスチックとメカニカル&ケミカルリサイクル~」~

講 師: 府川 伊三郎 氏(株式会社旭リサーチセンター
 シニアリサーチャー 元旭化成株式会社・中央技術研究所長)

 

はじめに

本テーマは、一般社団法人 化学物質管理士協会から講師の推薦を受けて実施された。

講師の先生から、プラスチックの環境問題は昔から存在し、2018年ころに海洋汚染ゴミ問題からの派生でマイクロプラスチック(以下MP)が社会問題として大きく取り上げられたこと、SDGsなどにより、樹脂全体のサステイナブル問題が社会問題となっていることが述べられた。

本講では、前段で海洋プラ問題、後段でプラ資源循環を取り上げて解説された。

.海洋プラスチック問題

海洋プラスチック問題としてMPによる生体系や健康への影響、放置漁具、漂着ごみが挙げられている。漂着ごみの調査で大半が容器包装のシングルユースプラスチックであったが、繊維やゴム製品も問題にされるようになってきた。PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、PS(ポリスチレン)は酸素存在下で酸化劣化しやすく比重が軽いので、漂着した海岸や海面でMP化してしまう。

スクラブ用のマイクロビーズは米国では禁止された。下水処理場でMP(粒子、ファイバー)は大部分除去されるが、欧米では下水処理場の汚泥を肥料として農地に散布するので、MPが川から海に流れ込んでしまう。

海洋浮遊MPの測定は日本が進んでいる。湾内のMPは意外と少なく、外海で多いのは中韓からの漂着が多いためと考えられる。

MPの発生源と海への輸送経路が図のように考えられている。発生量が多いのは自動車タイヤが圧倒的に多く、道路塗装、人工芝などが続く。問題の解明には海洋学だけでは不足で、他分野からのアプローチも必要になる。PEは紫外線暴露で分子切断しカルボニル基が発生するが、生分解する分子量の500以下になるには長期間かかると推算される。

海洋学の研究者はMPとマイクロファイバー(以下MF)を区別せず、網(ニューストンネット)に引っかかるものをまとめてMPとして計数していた。欧米では、MFMPの中で占める比率はかなり高い。

   ダイアグラム

自動的に生成された説明

近年海洋を浮遊しているMPが推定排出量よりはるかに少ないという報告が相次ぎ、原因究明が進められてきた。350μm以下に微粒化すると網目に引っ掛からないこと、バイオフィルムの生成や魚の誤食による沈降、海洋の垂直混合現象が原因と考えられている。台風直後の湾内のMP量は台風前に比べ激増したが、すぐ外洋に排出されMP量は23日で低下してしまうことが確認された。海底を調査したところ、MPの沈降が確認されている。

20223月の第5回国連環境総会(UNEA-5.2)で、“プラスチック汚染を終わらせるため2024年までに国際的な法的拘束力ある合意を形成する”という決議が承認された。国際的な取り組みが今後加速される。

2.プラスチック資源循環

以下の項目について解説された。

①プラスチックリサイクルの背景

EUはプラスチックのリサイクル技術が優れ、法規制や基準・規格を含めて世界をリードし、リサイクル市場を席捲しようという意図が見える。リサイクル率の出し方には議論があるが、再生材含有量で規制されると逃げようがない。

②メカニカルリサイクルとケミカルリサイクルの比較

メカニカルリサイクルができるならそれが最良。ケミカルリサイクルはモノマーに戻すもの、油化してナフサに戻すもの、ガス化法等がある。日本の検討が世界で一番進んでおり、PET(ポリエチレンテ手レプタレート)ならPETPSならPSだけを回収できるなら、効率よくモノマーに戻す技術はある。再重合物は食品用途にも使える。

またPE/PP/PSの混合廃プラなら、熱分解してナフサに戻す技術ができている。このナフサからつくったPEPPPSは食品用途にも使える。リサイクルプロセスが長く、PVCを事前に排除する必要があり、コストが高いのが悩み。ガス化法はCO2副生の問題はあるが、PVC(ポリ塩化ビニル)やPETが入っていても問題ないのが利点。

各種樹脂の加熱熱重量曲線が取得されており、各樹脂の分解特性が説明できる。モノマー分解法と熱分解法の特徴はクローズドループ化が原理的に可能なことで、理想形になる。食品用途も可能で、化学メーカー主導で技術開発をやれる利点がある。

マスバランス方式は現代の魔法の杖で、熱分解油ナフサやバイオマス由来ナフサをバージンナフサに混ぜてクラッキング モノマー ポリマーとした時に、実際には存在しない100%再生品や100%バイオ品を計算上作り出すことができる。熱分解法の課題であるナフサ収率の低さは、触媒検討が行われている。PVCPSの混入が問題であるが、現実的には選別機をおいて対応するのが良かろう。熱分解後の精製に手間がかかるなどの問題もある。

PETボトルのリサイクル

日本ではリサイクルが非常にうまく進んでおり、ボトルをすべて無色に統一、キャップとラベルの材質統一、ポリマーの分子量まで統一と、まず関連部材の統一が図られた。表面をアルカリ洗浄する技術と固相重合により分子量を上げる技術が完成したことが成功の鍵になった。一方ケミカルリサイクルは、技術はあるがコスト高。

   ダイアグラム

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おわりに

世界のプラスチック資源循環の趨勢を考えると、燃焼によるサーマルリカバリーは通用しなくなり、リサイクルの拡充が喫緊の課題である。そのためにも、従来輸出している廃プラはすべて国内でリサイクルすべきだろう。将来はプラスチックの供給源として石油化学以外にリサイクル由来さらにバイオマス由来が加わるだろう。

(3)質疑応答

Q ロングスパンで見たときに、まだ化学の力でやれることはあるか

A 海洋プラスチックは使用量の35%の話なのに対し、廃プラ処理の話は全量が対象で、海洋プラ問題を解決しても廃プラ問題の解決には直結しない。欧州は電力でやったように、プラスチックリサイクルについても流れを作ろうとしていることを理解したい。

Q MP削減のためにPETボトル削減は効果があるか。

A PETは耐候性が良いので、MP化の可能性は小さいはず。むしろリサイクル工程粉砕時に発生する破片が海に流れるのが問題ではないか。

Q メカニカルリサイクルの粉砕時に分子量低下に伴う物性低下が起こり、100%リサイクルは難しいのでは。

A PETは固相重合で分子量を元に戻すことができるが、PEPPではそれは不可能。100%と言っているのは状態の良い部分を使っているのではないか。

Q メカニカルリサイクルが進まない理由は品質か、コストか、仕組み作りの問題か。

A いずれの理由もある。日本も廃プラ輸出をやめ国内でリサイクルする仕組み作り、エンドユーザーもリサイクル品を受け入れる意識改革が必要だろう。

Q 日本はリサイクルに関して優れた技術を持っているのに、世界をリードできないのは。

A 日本はサーマルリサイクルがうまく行ったので、そこで止まってしまったきらいがある。プラスチックリサイクル分野では、日本の技術が優れているとは言えないのではないか。

Q 超臨界流体による廃プラスチックのリサイクルの現状は。

A Mura Technologyが超臨界水技術をライセンスしており、三菱ケミカルがライセンスを受けてプラントを計画中。両社のHPを参照願いたい。

Q ポリエチレン繊維がどの期間変質・分解しないで存在しうるのか。

A 分からない。

Q PETのバージン原料とリサイクル原料の簡便な検査方法があるか。特にPETケミカルリサイクルの場合はバージンとの差が出ないと思われ、原料メーカーのガバナンスに頼りしかないと考えて良いか。

A 通常、樹脂の分子量と色(透明度)がチェックされるであろう。再生材の場合はさらににおいと、異物のチェックが必要で、例えば小さなフィルムを作れば、色、におい、異物はチェックできるだろう。

(文責:出口義国  監修:府川伊三郎)