微細藻類大量培養と技術開発
著者: 鈴木秀男、西島信一 / 講演者: 浜崎 彰弘 / 講演日: 2022年6月10日 / カテゴリ: 環境研究会 / 更新日時: 2022年12月03日
近畿本部登録 環境研究会 会員講演会
微細藻類大量培養と技術開発
日 時: 2022年6月10日(金) 19:10~20:30
場 所: WEB(Zoom)
講 師:
濱崎彰弘氏 技術士(機械・環境・生物工学・化学・総合技術監理部門)
NPO法人兵庫県技術士会
はじめに
微細藻類は古くから食品や飼料として注目され、次の①②③を通して研究検討されてきた。今まさに地球温暖化問題、化石燃料の枯渇問題、人口増加による食糧問題の解決のために 注目されている。
①1945年代の戦後食糧難での第一のブーム
②1990年代地球温暖化での第二のブーム
③2015年以降 パリ協定やSDGsでの第三のブーム
そこで微細藻類について長年研究されてきた濱崎彰弘氏にその特徴や問題点、今後の可能性について、実験研究の成果を交えてご講演いただいた。
1.微細藻類のブーム再来
1980年代、ゴルゴ13第189巻に石油を生産する藻類が登場するほどにブームが再来した。
日本は油を生産するのに有望な藻類株を複数保有している。福島産土着藻類による燃料生産実証事業が行われ、燃料も4,137円/ℓから95円/ℓと98%削減でき、燃料生産シナリオも見えてきた(福島PJ宮下修)。
Digesterでメタンと栄養塩を回収、メタンは発電に利用し、発生したCO2は藻類培養へ供給することができる。福島PJ処理フローを図1に示す。
図1 出典:筑波大学 渡辺信https://eeeforum.sec.tsukuba.ac.jp/3ef/1st/pdf/1st3EF_watanabe.pdf
2.微細藻類の特徴
バイオマスの特徴として、次をあげることが出来る。
①太陽光とCO2と水の光合成反応であり再生可能である。
②カーボンニュートラルである。
③貯蔵可能である。
④代替性がある。
⑤膨大な賦存量を有する。
⑥極地や砂漠などの極限環境の地域を除いてエネルギーを普遍的に生産可能である。
⑦適切な管理をすれば資源量が一定の割合で増加する、などをあげることが出来る。
微細藻類の特徴としては、次をあげることが出来る。
①生産速度が大きい(10~40tDry/(ha・年))。
②農地と競合しない。
③海水でも生育可能。
④連作可能。
⑤アルコール、油分、水素など燃料を直接生産する種がある。
⑥食糧や健康食品、飼料、餌料などの高価で高機能の製品への利用も可能。
地球温暖化解決に必要な6億haの微細藻の培養面積が、耕地や森林と競合しないためには砂漠(図2の黄色)か、海洋での培養が必要である。
図2 濱崎彰弘/The 3rd IPEJ-IMechE Joint Seminar/2021年12月
微細藻が大活躍するための課題は、次である。
①微細藻の光合成能力の計測。
②各種バイオリアクターの最適培養条件の明確化。
③高密度培養。
④窒素、りんなどの栄養塩リサイクルなど無駄の出ないシステムの合成。
⑤低コスト化。
3.微細藻類の光合成能力の測定
藻類の光合成曲線:kpを計測する光合成酸素発生測定装置を開発した。
光ストレスの影響評価、植え継ぎ後の健全性評価を行ったが、次の①~③により、藻類のスクリーニングには効果はなかった。
①日本のNIES株やアメリカのACC株、あるいは各地で海水を採取し、培地で単離した株などで光合成曲線を計測したが大差なし。
②屋外培養の場合、年間を通じての気温の変化、生産阻害(コンタミ)への耐性の方が、光合成曲線よりも重要な要件である。
③長期間(といっても1年間以上)の培養がどうしてもできず、あきらめて放置した培養槽に生えてきた株(野生株)が一番安定に培養でき、一発で1年培養できたという経験も持つ、などにより、藻類のスクリーニングには効果はなかった。
4.レースウエイ型培養槽
アメリカの国立再生可能エネルギー研究所(Sustainable
Energy Research Institute; SERI)の前身の太陽エネルギー研究所は、石油ショックの時に微細藻のエネルギー利用の研究を行い屋外開放型のレースウエイ(RW)型培養槽を開発した。地面を数十㎝掘り下げ、ゴムシートを引いて、低水深、低流速、低投入エネルギーで、日照量の高いアリゾナ砂漠で培養実験を行った。
その結果、長所として培養槽がとにかく安いけれども、短所として、藻体濃度(200~300㎎/L)を高くできない⇒エネルギー回収が困難、照度が変化する⇒光利用効率が悪い(5万ルクスは、1万ルクスの4割に効率が落ちる)、コンタミを受けやすい⇒エリート株のみの培養が困難、であることが分かった。
5.側面出光型光ファイバー培養槽
培養槽の解析計算結果、照度が3千ルクスから3万ルクスと10倍になっても最大光合成酸素発生速度は、0.21Nm3/(m3・h)から、0.85Nm3/(m3・h)と4倍しかならずに効率が悪いことがわかる。光飽和を超えると効率が悪化することもわかった。
6.LED照射濡壁塔型培養槽
側面出光型光ファイバー培養槽の課題は、藻類自身による光の減衰による効率低下を防ぐ光ファイバーや高い光合成速度によるCO2消費に見合うCO2を供給する中空糸モジュールなどを使用していることである。
濡壁塔の特長は次である。
①反応効率がきわめてよい。
②反応条件(流量、温度、圧力)の調節が容易。
③連続反応が可能。
④構造が簡単で取り換えが容易。
⑤建設費が低廉で据え付け面積も少なくて良い
⇒光合成バイオリアクターに応用できること。
LED照射濡壁塔型培養槽(図3)の特長は、次である。
①反応効率(CO2吸収)がきわめてよいので、疎水性中空糸膜を合理化できる。
②反応条件(流量、温度、圧力、CO2濃度や栄養塩濃度)の調節が容易。
③高価な光ファイバーを使用せず安価なLEDで照射可能。
④光路長が0.4mmと、RW(20~30cm),光ファイバー数mmに比べて極短なので、
藻体密度が高くても照度分布が小さく光利用効率が高い。
⑤構造が簡単で取り換えが容易、⑥建設費が低廉で据え付け面積も少なくて良い。
図3 LED照射濡壁塔型培養槽
RW型培養槽と比較すると、RW型培養槽の微細藻の生産速度10g/(m2・日)藻類のC含有率を50%とした場合、油炊きの発電所(1kWh当たり750gのCO2が発生)に相当するCO2を固定するのに必要な1kWhあたりの面積は、750gCO2/kWh×24h/日×12gC/44gCO2/{10g藻体/(m2・日)×0.5gC/g藻体≒1000m2となる
10万kWの出力の場合、照射濡壁塔型培養槽(RW)では、100㎞2が必要なことに対して、3km2と大きく効率化出来る。
図4に考案したエネルギー安定利用システムを示す。出力調整できない太陽光と風力の余剰電力を安く買い取り、微細藻を培養し燃料に転換し貯蔵して、電力需要に応じて発電する。微細藻培養は発電所に併設することで、CO2とO2もリサイクルできる。
図4 再生可能エネルギー安定利用システム
詳細は濱崎他執筆の下記参考文献を参照されたい。
1)
松本・濱崎他 クロレラの酸素発生速度及び酸素消費速度の簡便な測定法、化学工学論文集、第18巻、第5号、pp-763-766(1992)
2)
松本・濱崎 微細藻類の健全性評価への酸素反応モニタ-の適用 日本水産学会誌59(2)279-283(1993)
3)
濱崎彰弘 微細藻類の最適培養法の検討、第12回バイオマス科学会議論文集p27-28(2017)
4)
濱崎彰弘 微細藻類の大量培養法の検討、第13回バイオマス科学会議論文集p117-1182(2018)
5)
濱崎彰弘 微細藻類の高効率バイオリアクターとそれを利用した火力発電所ガス交換システム 第14回バイオマス科学会議論文集p19-20(2019)
以上
(文責 鈴木秀男 西島信一 監修 濱崎彰弘)