バイオエネルギーの現状:実用化は可能か

著者: 藤橋 雅尚  /  講演者: 牛山 敬一  /  講演日: 2012年04月19日 /  カテゴリ: 講演会  /  更新日時: 2012年10月12日

 

化学部会(2012月度)研修会報告

  時 : 2012419日(木) 18:2020:00
  所 : 近畿本部会議室 
テーマ : 講演会


 

講演 バイオエネルギーの現状:実用化は可能か

牛山 敬一     株式会社植物ハイテック研究所 取締役
元奈良先端科学技術大学院大学 客員教授

1.代替エネルギーの動向

原子力発電にはCO2の発生抑制の効用に対し、永続性の問題、廃炉や廃棄物処理の問題など解決されていない面も持っている。原子力以外の代替エネルギーとしては、シェールガス・メタンハイドレート・バイオマス・エタノール・植物油等があげられている。

シェールガスは実用化が進んでおり、メタンハイドレートは実用化開発の段階であるが、本質的に化石燃料であり持続性の観点から見ると問題がある。代替エネルギーの中で、バイオマス・エタノール・植物油は、食料を自動車燃料や発電に使うことであり問題がある。また、燃料の製造過程を勘案したCO2収支は本当に大丈夫なのかなど問題点が多い。
本日はバイオマスについてその課題と、新しい技術についてお話しする。

2.エタノールについて

エタノール燃料は米国・カナダ・ブラジル・中国で実用化されている。米国ではトウモロコシを原料としているが、発生エネルギーを投入エネルギーで割った係数は1.27であり、効率が良いとはいえない。サトウキビは同係数が9.7 であり有利であるが、食料という面で問題であり、エタノール燃料全般で見ると係数は低い目である。これは酵素反応でできる20%アルコールを蒸留で100%にする必要があり、蒸留工程で使うエネルギーが原因である。

3.植物油について

油脂は大切な食料である。主な油脂とその生産量は、大豆油、パーム油がそれぞれ約3000t/yと双璧であり、なたね油、ひまわり油が約1000t/yで続いている。植物油のディーゼル燃料(BDF)としての利用は、欧州特にドイツで近年大幅に伸びており、なたね油がベースである(図1)。油脂については食用に使った後BDFにすると、食品との競合が無くなり有利な方法となるが、集め方や集める過程で使用する燃料への対策が課題となる。

  図1 EUにおけるBDF生産量と原料の割合 

この課題を解決するため生産場所で燃料に加工でき、食料とも競合しない油脂として食用不可の油脂(ヤトロファ(ジャトロファともいう):ナンヨウアブラギリ)を栽培する案が注目されている。しかし、単位面積あたりの油脂生産能力を見ると、パームは4.9t/ha、ヤトロファは1.74t/ha、大豆は0.35t/haであり、大豆より大幅に有利であるがパームの半分以下であり効率が良いとは言えない。

加えて、燃料用作物を栽培するために熱帯雨林を焼き払う農法については、その環境破壊の影響を考える必要がある。最近の研究で上記農法で生産されたバイオ燃料は、環境破壊の影響を、燃料として利用することだけでは埋め合わせできないことがわかってきた。

4.化石燃料から植物資源への文明の転換

最初に考えておかなければいけないのは、生命体は大部分を植物に依存して成立していることである。植物資源は太陽エネルギーの産物であり、化石燃料もバイオマスも、源は太陽エネルギーである。言い替えると持続可能にするための律速条件は、太陽エネルギーからの再生産能力の範囲内に設定する必要があることに留意しなければならない。

 植物バイオマスが現在の使用量をまかなえるかどうかを考えてみる。図2は再生可能なエネルギーの量であるが、前述したようにBDFの普及には植物油の生産量が律速であり、植物油を得るためにはその約30倍の植物体が必要である。以上に加え食料の恒常的な不足を考えると、BDFが地球にとって本当に良い方法であるかは疑問と考える。

   図2 再生可能なエネルギーの量  

5.バイオマスを確保するには

植物バイオマスエネルギーの現状を図3に示す。全植物バイオマスエネルギーは100TWであり、そのなかで森林の維持に必要なバイオマスは33TWである。未利用のバイオマス(60TW)を、林業・農業・畜産で活用することは必要であるが、これは過去の地球からもたらされた資源であり、増産(1330TW)を考えなければいけない。

   図3 植物バイオマスエネルギーの現状と将来

増産の手段として、遺伝子工学の活用が考えられる。遺伝子の操作は嫌われているが、自然界では遺伝子の交換は日常的に行われており、強いものだけが生き残って現在の生物界を構成しているのが現実である。私の研究所では光合成(カルビンサイクル)能力の高いラン藻の持つ遺伝子を、移転することによる植物の増産を研究している。

ごく最近の実績であるが光合成能力の増大した芋をつくることに成功した(図4)。

  図4 光合成能力を増大させることに成功した芋

以上、バイオマスをエネルギーに使うことについては否定的な見解である。しかしバイオマスの増産そのものは太陽エネルギーの有効利用であり、持続性の向上につながる見地および食料の生産性を上げる意味で重要な研究であると認識し、成果の一端をご紹介した。

質疑応答

Q 有機物を科学的に作り出す方法は。
A 二酸化炭素と水からギ酸を作る触媒が見つかっていると先日新聞で見かけた。
  有機物合成の基点であり、効率的なこの種の触媒技術の研究は重要と思われる。

Q 海の中で栽培するバイオマスが話題になっているがどう考えられるか。
A 褐虫藻というサンゴに共生する生物がおり、原始の海で酸素を生産したもので、藻類の利用も考えられる。
  実用化には海の深さとの関係などコスト面が課題になる。

Q 石油を合成する藻類はどうか。
A タンク栽培の場合、栽培密度のアップが課題である。
  栽培密度は高いもので10%と言われているが乾燥ベースでは1%程度であり効率が悪い。

Q 遺伝子組み換え生物による、アレルギー発現の可能性について、どう考えるか。
A 全く関係ない。医学的な解析ができるだけの被験物質量が存在しないため、証明もできない。
  遺伝子を組み替えても核のDNAのベースの一部が入れ替わるだけで、異質なものができるわけではない。

       (図は講演資料から転載)

(文責 藤橋雅尚、監修 牛山敬一)

 


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