合わせ方とその効果 <複合と混合>

著者: 藤橋 雅尚 講演者: 岡本 秀穂  /  講演日: 2012年12月01日 /  カテゴリ: 講演会  /  更新日時: 2013年03月03日

 

化学部会(201212月度)研修会報告

  時 : 2012121日(土) 15:0018:00
テーマ : 講演会

 

講演1 合わせ方とその効果 <複合と混合>

岡本 秀穂   技術士(応用理学)、工学博士、元住友化学、前九州大学特任教授、マイクロ・テクノ・リサーチ(MTR)代表、近畿化学協会化学技術アドバイザー

はじめに

複合とは「足し合わせ」、混合とは「混ぜ合わせ」であり、同じ「合わせ」の表現ではあるが異なった概念である。本日は、それぞれの具体例を交えてその意味をお話したい。

1.複合について

辞書で複合を調べると、「二つ以上のものを合わせる」と記載されているが、複合化後の機能には触れていない。本日は、複合化について次のように定義してお話しする。
『異なった特性をもつ複数の構成要素を組み合わせることにより、要素の単なる混合(足し合わせ)では持ち得なかった特性・機能を発揮する全体システムを、合成・生成(→設計)すること』。
すなわち、形態の混合だけではないことに留意願いたい。

複合には二つの系がある。
  ①材料/モノに関する系:(例)複合材料、複合触媒、生体の材料と構造など
  ②プロセスに関する系 :(例)多段決定過程での最適化
複合化の背景となる思想には、西欧流の要素論的自然観 [要素(部分)に分けることによってわかろうとする志向] と、東洋的自然観 [全体を部分に分けることによって要素間の相互作用がなくなり、全体が成り立たなくなるという認識] の違いを理解することが必要である。

複合系を設計していくためには、各要素の特性と要素間の相互作用を配慮して機能を最大限に発揮させる必要がある。毛利元就の3本の矢の話しは矢を3本束ねるだけであるが、3本を接着剤で接合して要素間の相互作用を加えれば、もっと強固になる。図1は、複合化により各要素の性能のたし合わせ以上のものを引き出すことが可能であることを示している。

 図1 相互作用のある複合材料の特性

実用化例としてアルミナ繊維で強化したアルミ製のクランクシャフトがある。開発に際して力学的な検討を行い、繊維による補強方向を見極め最適化したものである。
光触媒による水の分解反応で複合効果の出る例を示す。基本触媒はGaN:ZnO固溶半導体(触媒活性はない)である基本触媒の上に共(助)触媒  ①Rh2O3、②Cr2O3を担持させても触媒活性は出ない。しかし ③Rh2O3Cr2O3(1:1.5)にすると、多量のH2O2を発生する。これはクロム酸ロジウム(Rh2-yCrO3)が共触媒として作用するためである。 
生体系を考えると力学的には性能の低い材料指数でできているが、複合材料として評価すると高い構造指数を有する例が多い。
なお、複合化にあたって多数の要素を組み合わせて一つのものにする場合、各要素個別には最適な解を選んで組み合わせたつもりでも、全体としてみると最適解を選べていない例がある。

最適な複合化効果を得るために次のことを考えることが必要である。
  ①反対効果をもつ質な要素の組合せ。
  ②要素の特性へのゆらぎ(ムダ)の付与。
  ③要素の構成順序の変更。
  ④目的とするシステムの機能に応じた構成要素数の最適化。
  ⑤要素間の相互作用の変動の許容。
穴太積(図2)の石垣は異質な石の組み合わせであるが故に強固である。異質な存在を許容することが人間社会に於いても必須であると考える。

 図2 穴太積み(あのうづみ)

2.混合(マイクロ反応工学)について

ミクロのレベルで完全に混ぜ合わせることは意外に困難である。解決手段としてマイクロリアクタがあり、その工業化と課題について説明する。
マイクロリアクタの基本は、反応場のダウンサイジング化である。ダウンサイズ効果が大きく出てくるのは、比表面積の大きさに起因する効果(加熱、冷却、放熱、化学反応など)と、層流域での拡散時間の短縮化効果である。

図3はY型マイクロリアクタ(流路径200μmサイズ)であるが、左右から流入する反応液が界面での拡散により混合される。混合に要する時間は通常の攪拌槽での乱流混合よりマイクロリアクタでの拡散時間の方が短く、反応が速やかに完了する。これらの特長を活用して、爆発性の反応、熱的に不安定な物質の反応、毒性物質やファインケミカル分野での高付加価値品製造など多岐にわたって利用できる。大量生産のためには反応器の数を増やすことで対応でき、ドイツやアメリカでは実用化検討が進んでいる。

 図3 マイクロリアクタ

質疑応答

Q マイクロリアクタでバルク品の工業生産を行うVelocys社の方法は、積層によるのか?

A そのとおり。従来の工業化のためのスケールアップ過程で、マイクロリアクタではリアクタの数を増やして(ナンバリングアップ法で)対応している。

文責 藤橋雅尚、監修 岡本秀穂

 


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