リン資源のリサイクルをめぐる課題・枯渇対策、食品工場におけるリン資源回収への取組

著者: 綾木 光弘 講演者: 大竹 久夫、鈴木 秀男  /  講演日: 2013年01月17日 /  カテゴリ: 講演会  /  更新日時: 2013年03月03日

 

環境研究会 第55回特別講演会 (近畿本部共催)

日時;2013年1月17日(木)1815分~2030
場所;大阪市 アーバネックス備後町ビル3階ホール

 

講演-1  リン資源のリサイクルをめぐる課題・枯渇対策

講演者:大竹 久夫 大阪大学大学院工学研究科教授 工学博士
リン資源リサイクル推進協議会会長

リンは、英語でphosphorusと綴り、ギリシャ語の語源があり、phosは光、phorusは運ぶものという意味である。17世紀にドイツの錬金術師ブラントが発見したリンは、DNAを構成する5元素のひとつであり、演者は「いのちの元素」と呼んでいる。人の体重の約20%が骨であり、その10%がリンである。人間は、1日約1gのリンを摂取する必要がある。元々海鳥の糞であるグアノからリンを得ていたが、これはほぼ枯渇しており、現在はリン鉱石から得ている。

リン鉱石は世界中に710億トン(約300年分)埋蔵されているといわれているが、モロッコ・中国・イラク・アルジェリアに偏在している。採掘されるリン鉱石の約85%は、食糧生産に使用されている。現在、戦略的観点から、米国はリン鉱石の輸出を取り止めている。

    

日本は、年間約72万トンを輸入しており、下水道の分野の他に発酵、化学産業や電子部品産業などの分野において、リンのリサイクルが実施されている。製鉄プロセスからもリンが排出される。

世界的に見れば、リン資源の枯渇に危機意識が高まっており、欧州では、この3月にリン資源の持続的管理に関する第一回欧州会議をベルギーで開催する。リン鉱石からリン酸を得る方法として、湿式法と乾式法とがある。
乾式法は、リン鉱石にコークスと珪石を混合し、電気炉でリンをガス化させて黄リンを製造するもので、リン酸の純度は高い。ただし、大量の電力を消費する。
一方、湿式法は、得られるリン酸の純度は落ちるが比較的製造価格が安いので、肥料用の原料が得られる。

また、下水等からのリンの資源回収法には、MAP法やHAP法などいろいろある。とくに、有機性廃水からリンを回収するには、活性汚泥による生物学的処理システムと余剰汚泥からのリン分離を組合せる方法に期待が寄せられている。

    

国家にとって、リン資源は大切なものである。2008年にリン資源リサイクル協議会を立ち上げて産業の幅広い分野でのリン資源リサイクルの普及に取り組んできた。リン資源問題の理解、対策についての意識の共有、国への働きかけによる政策提言など、この2,3年に取組みは大きく前進している。国家戦略として、今後の活動・対応を拡げていきたい。

   

講演-2 食品工場におけるリン資源回収の取り組み(事例紹介)

講演者:鈴木 秀男氏 株式会社 Jオイルミルズ神戸工場 総務部安全環境課

まず、株式会社 J-オイルミルズにおける植物油製造プロセスとリン回収のとりくみについて紹介してみたい。当社においてリン酸を扱っている工場は4工場ある。私の勤務している工場の神戸工場もそのうちの一つである。
4工場のうち、千葉工場は、比較的リンの回収が進んでいる工場である。その千葉工場での植物油脂製造工程を説明したい。

工程は大きく分けて、搾油工程と、精製工程に分かれる。精製工程の脱酸工程において、リン成分を取って再資源化している。
植物油脂には、多くのリン脂質が含まれているが、物質構造により水和性のものと、非水和性のものとがある。水和性のものとして、フォスファチジルコリンやフォスファチジルイノシトールがあり、非水和性のものとして、フォスファチジルエタノールアミンやフォスファチジン酸があり、それぞれに対して別の処理工程を設定している。

一方、神戸工場では、リンの回収・再利用については、まだ対応できていない。すなわち脱酸工程のリン脂質を排水処理工程に回して、すぐ隣の敷地の甲南ユーテイリテイ会社に委託して産業用廃棄物として出しており、焼却灰として処理されている。
その意味では、千葉工場と神戸工場では、リンの資源としての回収力に差があると言わざるを得ない。

現在、神戸工場でもなんとかリンの積極的回収を行うべく、大阪大学の大竹教授に指導を仰いで、研究・検討中である。
大竹理論として、非晶質ケイ酸カルシウム(CSH)とリン酸の反応を解明することにより、リン酸イオンの回収率を上げるための研究が進んでいる。それに関連して、神戸工場の排水を使い、太平洋セメント様の協力を得て、実験を進めている。

     CSH法の原理

神戸工場では、リンの回収ができるようになると年間7080トンのリンが回収できそうである。これは、現在の千葉工場のリン回収の約2倍となる。千葉工場と神戸工場の比較を行ってみたが、神戸工場でリンの回収ができるようになると、量的にも非常に大きい値となる。

植物製造プロセスにおけるリン回収ができるようになると、大きな意義が見込まれる。食品工場からのリン回収は重金属などがなく、安心・安全に肥料用途等に利用できることに加え、世の中の一般的な回収に比べ、非常にコスト安で回収できることになる。

 

質疑応答 ― 両講演に対して、一括しての質疑応答

① 畜産産業では、過剰のリンが問題になっていると聞いているが?

→ ヨーロッパでも畜産廃棄物の処理は厄介な問題であり、家畜糞尿の農地還元により環境問題などが発生している。日本も同様な課題を抱えており、畜産廃棄物中のリンの有効利用の検討を進める必要がある。

② カニや貝の中のリンは、有効利用できないか?

→ リン含有率の低いものは今のところ使えない。日本には肥料取締法があり、リン酸質肥料の定義として、8%以上の含有がないとリン酸肥料にならない。

③ 化石から、リンはとれるのか?

→ 化石中のリンの含有率と存在量が問題。現在日本では年間約70万トンの使用。それに対して、資源量の多い大東島でさえ、10万トンの埋蔵量と言われている。何年にもわたり、相当量の供給が可能でなければ、資源にならない。

④ リンのリサイクル協議会の活動は?

→ 産官学で作った戦略会議を2か月に一度開催している。政府4省からも非常によく協力を頂いている。

⑤ リサイクル協議会の特徴は? 

→ 参加者の心が熱い団体である。

文責 綾木光弘    監修 大竹久夫、鈴木秀男


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