日本の森林資源による将来産業ー里山ビジネスと山林放牧ー
★環境研究会【第27回特別講演会】★ 050613
日 時:平成17年6月13日(月)
テーマ: 日本の森林資源による将来産業―里山ビジネスと山林放牧―
講 師:佐野 寛氏 (地球エネルギーシステム研究所・所長、産総研客員研究員、工学博士)
●1932年生まれ。1955年新潟大学理学部卒業、通産省大阪工業試験所(大工試)入所。燃焼化学研究室長、無機材料部長を経て地球環境研究企画担当。
その後大阪ガス技術顧問を経て、地球環境産業技術研究機構(RITE)CO2プロジェクトに従事。
現在、日本エネルギー学会バイオマス部会事務局で「日本の森林資源有効利用WG」を通じバイオマス利用開発を研究。
1.はじめに
日本の面積の大半を占める森林はその88%が資源化されていない放棄林である。今回の特別講演会では、利用をあきらめ崩壊しつつある日本林業を打開するため、製材業から脱皮した新ビジネスを追求するべく具体的な取り組み方とその実現の可能性について熱演された。
2.日本は森林の国
日本は2/3が山林で、フィンランドと並んで世界トップの森林国。だが、伐採林は僅か12%で大部分が放棄林である(そして日本の木材の半分以上が輸入)。しかし以下の理由により、生産林維持が困難となり、結果として放置・腐朽されている。
(1)森林の2/3を占める30度前後の急傾斜面では、丸太も間伐材も搬出コスト高である。
(2)日本はフィンランドに比べ温暖で木の成長が早いため、育林・間伐作業に手間取る。
(3)緩傾斜の伐採林でも、高級木材以外の発生資源(柴等、純生産量の約3/4)は嵩張るので搬出コスト高となり放棄されている。
3.新里山システム
一方、里山では産出地と需要地に密着しているので、輸送損失を回避できそうである。里山の有利な立地条件を活かし、合理的で自立経済性を持つ里山を成立させるには抜本的な新里山システム設計が必要になる。新里山システムを構築するには、里山の特徴(森林の生活需要への密着)を最大限に活用し、木材以外の産物を獲得する新ツールをいくつか提案し、里山への導入可能性とその効果を予測する。
里山成立への基礎を見直すこの新里山システムが、多くの国民のライフスタイルを生き甲斐ある自然共生型の方向へ変革し、現在の膨大な放棄林を、資源林として活用する道を示す。
4.林間放牧
山林から、木質採取の代わりに、畜産品を回収する。エネルギー生産性としては、直接利用に劣る(農産物→畜産物転化率は30~10%;牛・豚・鶏など畜種により異なる)が、伐採不能な放棄林からも資源採取の可能性が生まれる。
牛馬の放牧は平坦林では実績豊富だが、急傾斜林では事故を起こし易く不適である。豚の山林放牧事例、山羊の山林放牧事例、鶏の山林放牧事例などを調査し、有望なものを見出した。
最近、ダチョウ放牧も、日本には最近5年間で急速に導入された。南アフリカ原産、家畜改良種(African black)は温和で、体重120~150kg、肉35㎏/年・羽,産卵は約40個/年・羽(1個≒鶏卵25個)である。気候順応性はよく、沖縄から北海道まで飼育実績がある。
以上の山林放牧候補種を概観すると、山羊・ダチョウ・鶏がもっとも有力である。新規参入のダチョウ牧場は現在、データが数件しかないが、緩傾斜林~休耕田組合せ地域には好適である。ただし採卵用としては鶏よりも単位が大きいので家庭消費向きでなく業務用向き(たとえば、老人ホーム経営)である。
5.里山柴材等の直接利用による里山住民のエネルギー自給可能性
里山住民が日本人平均値の2倍の森林を保有できるとすれば、その柴採取エネルギー相当値は、日本人の平均エネルギー消費量(工業エネルギー消費を除く)をはるかに越える。そこで民生需要の中のA.熱、B.電力、C.食糧、に限定して自給を検討する。
A.熱需要(給湯・厨房・暖房)
面積的には、木質燃料材供給力に大幅な余力があり、生産過剰分をチップやペレットとして市場に販売できる。山からの柴材搬出の困難性は、重力利用搬送シュラシステムで打開される。
B.電力需要
火力発電率が低く、里山規模では経済規模に達しないので、電力自給は当分難しい。
C.食糧需要
里山システム内部で畜産品を生産する山林放牧は、畜産物の生産に必要だった化石燃料を節減でき、森林を薪炭利用に匹敵する高効率エネルギー生産系となり得ることが示唆される。
6.まとめ
里山利用には文化・娯楽等に使う風潮が盛んで森林出力を放棄している。経済性追求よりも「豊かな生活内容」も追求することはいい。だが住居を森林に直結すれば森林出力をエネルギーロスを最小にして利用できる。日本人は、バイオマスの有効利用をもっと多角的に検討すべきである。森林バイオマスを使って、エネルギー自立度・食料自給度の向上を目指すには、新里山システム設計が必要である。ただし、この新里山システムの究極目標は従来の林業のような木材利用・増産ではなく、燃料や畜産品の生産によって豊かな生活を獲得することにある。
里山の民生エネルギー消費を、どの程度に新里山システムがまかなえるか、概算した結果、里山林から発生する柴により、その熱需要は充足しさらに外販する余裕が生まれる。食料エネルギーは、LCA的にかなり大きなもので、山林放牧=森林の畜産業化による自給化効果は、社会全体として大きな省エネをもたらす。
進化した形態の新里山システムは、木材生産にさえ適しない急傾斜林を、山林放牧によって資源化利用する。山際集合住宅、老人ホームなどが初期の実施モデルとして考えられる。
「人工シュラ」(無動力搬送路網)を利用して急斜面から森林資源を切り出し利用するシステムは、すべての山林を燃料エネルギー源として活用する突破口になる。
★コメント
本講演の出席者の中に森林を保有・管理している人がおられ、以下のコメントをされた。
「本講演は、私共が常日頃思っていたことをそのまま代弁して頂いた内容で大変感謝しています。私共がコストをかけてまで頑張り続けて森林を管理しているのは、先祖代々管理を続けてきた森林を容易に手放したくないことと、手放すと森林が荒れて周辺の森林保有・管理者に多大な迷惑がかかるため、それを避けるためです。しかし、私共森林保有・管理者の殆どが高齢で何時迄も管理し続ける訳には行きません。早急に何らかの手を打って、日本の森林が活用出来るすべを見出していただきたい次第です。」
(山崎 洋右 記)