北九州市の産業政策とエコタウン見学

著者: 末利 銕意 講演者:  /  講演日: 2008年09月29日 /  カテゴリ: 北九州エコタウン・山口  /  更新日時: 2011年03月03日

 

北九州・山口研修旅行報告   080929

 

北九州市の産業政策とエコタウン見学

末利銕意   技術士(化学、総合技術監理)

キーワード  北九州、エコタウン、新エネルギー、バイオマス、国際貢献

 

北九州市役所にて「北九州エコタウン事業の概要」説明  (9/29AM)

1.歴史的な背景

1901年官営八幡製鉄所が開設し、「ものづくり」の街として発展したが、1960年代に激甚な公害を経験し、市民・企業・行政が一体となって克服。1980年代に環境国際協力を推進(海外技術者の受入れと専門家の派遣)。1990年国連環境計画から日本の自治体初となる「グローバル500」及び1992年国連環境開発会議(地球サミット)で「国連地方自治体表彰」を受けた。 

2.灘埋立地活用の検討

1988年(平成1年)検討開始、1996年国が「エコタウン事業」を立上、早速、応募して「北九州エコタウン」地域承認を得た。 

3.エコタウン事業スタート時点での課題

1)エコ産業の原料確保(他の自治体での分別収集の働きかけ)と販売経路
2)産業としての見通しの不透明さ(環境関連技術会への助成制度創設)
3)法整備(1995年容器包装、1998年家電、2000年建設と食品、2002年自動車リサイクル法)、2000年循環型社会形成推進基本法施行。
4)住民感情(市民にとっては不安、不快、不信感の要因だったので、施設の公開をした。) 

4.エコタウンの現状

投資額:610億円(市10%、国20%、民間70%
従業員数:1000
視察者数:65万人
17実証研究中、26事業施設が稼働中 

5.エコタウンの効果

1)環境産業(26事業)の創出。
2)環境技術開発の振興(3つの常設研究施設、17研究プロジェクトが進行中。20の研究は終了)。
3)経済効果(610億円の直接投資と1000人の雇用)。
4)CO2削減効果(21万トン/年)。
5)市民の理解や環境への意識向上。
6)アジアや中国からの関心(H182300人視察) 

6.エコタウン事業の拡がり

エコタウン内部でのコンビナート化、エコプレミアム産業の創造、EA21取得支援

7.現在の課題と今後の展望

1)高付加価値化

日本磁力選鉱による廃基盤、廃ケーブルから希少金属の回収
バイオマスプラスチックの普及とケミカルリサイクル技術の開発
新菱による半導体ウエハーの再生
北九州自動車用軽量化高度部材加工技術研究会 

2)既存事業の競争力強化

薄型テレビへの対応、混合廃プラリサイクル困難物のリサイクル技術
容器包装プラの分別開始、古紙回収率の向上 

8.新エネルギー

次世代エネルギーパーク構想(風力、廃棄物発電、石油備蓄、石炭ガス化など集積)
バイオマスエネルギー(生ゴミからバイオエタノール、廃油からBDF、菜の花プロジェクト)
先端技術研究(九州DME研究会、色素増感型太陽電池研究会

9.国際展開

アジア中国へ国際資源循環
エコタウンのノウハウをアジア、中国へ移転
アジアの環境人材の育成拠点の形成

 

北九州市役所にて「バイオマスエネルギー地域システム化実験事業」  (9/29AM)

経済産業省から全国で採択されたテーマは以下の7

1)山口県「総合的複合型森林バイオマスエネルギー地産地消社会システムの構想」
2)阿蘇市「草本系バイオマスのエネルギー利活用システム」
3)最上町「ウエルネスタウン最上」木質バイオマスエネルギー地域冷暖房システム」
4)高知県仁淀川町「バイオマスエネルギー自給システムの構築」
5)北九州市「食品廃棄物エタノール化リサイクルシステム実験」
6)穂高公設施設組合「先進型高効率メタン発酵システム実験」
7)真庭市「木質バイオマス活用地域エネルギー循環システム実験」

 

食品廃棄物エタノール化実験事業の概要   9/29PM 

処理規模:食品廃棄物12トン/日(スーパーなど業務用)
無水エタノール生産量(計画):400リットル/日をほぼ達成。
課題として廃食品の収集のために収集車を改良して一般ごみと食品廃棄物に2室化しているが、使い方が難しいなど
プロセス:食品廃棄物前処理糖化発酵無水化エタノール製品
残渣排水ガス化溶融炉で処理排熱(蒸気)電力他ユーティリティとして利用

 

北九州PGB廃棄物処理施設(日本環境安全事業株式会社(JESCO))訪問  (9/29PM)

PCBを巡る経緯
2001年難分解性有機汚染物質(POPs)に関する条約採択
ポリ塩化ビフェニル廃棄の適正な処理の推進に関する特別措置法(PCB処理法)施行

全国に5事業所(北九州、大阪、豊田、東京、北海道)
九州ではPCB処理方法:ナトリウム添加分解(特徴:水を使わない)
処理費用は全国一律で320万円/トンと高い。
日本環境安全事業株式会社(JESCO))の株主は100%日本国政府

 

感想

北九州は活気がある。北九州市の環境関係の職員の方々が、明るく希望に満ちて仕事に励んでいると感じた。事実、響灘エコタウンには30を超えるエコ事業所が林立しており、活発に事業活動をしている。 

三重大学の舩岡教授が開発した木材からセルロースとリグニンの分離技術は、現在、このエコタウンでパイロットプラントが稼働している。三重県から、大阪を通り越して、北九州市のエコタウンに建設されたのはなぜか? 北九州市は経済産業省にエコタウン計画の申請をし、採用されて、政府より20%の補助金を確保している。更に北九州市が10%の補助金を出しているので、エコタウンのテナントは建設費が30%も補助されることになっている。 

PCB処理設備は全国に5ヵ所ある。カネミ油症事件でクローズアップされ、処理場の立地に苦慮した政府が、全額出資の処理設備を全国5ヵ所(北九州、大阪、豊田、に建設した。しかし、1トン当たり320万円の処理費用はいかにも高価。豊島直島の産業廃棄物(60万トン)の処理費用は600億円。これらは税金で賄われている。環境汚染の代償はいかにも大きいことを実感した。しかし、かけがえのない美しい地球を子孫に引き渡す責任は現世代に生きる我々にあるとも思う。 

いずれにしても「エコ」は大きな産業に発展しつつあると実感した。


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