兵庫県南部地震の建物被害の再現と地域防災計画への活用
環境研究会 5月度例会報告 050519
日 時:平成17年5月19日(木)
テーマ:兵庫県南部地震の建物被害の再現と地域防災計画への活用
講 師:石川 浩次 氏 中央開発㈱技術顧問、技術士(応用理学部門、建設部門)、工学博士
● プロフィール:1933年生まれ。秋田大学で地質学を学ぶ。現在、建設コンサルタント会社で、地質・土質及び基礎/建設、環境、防災等に関する地盤岩盤特性の工学的評価並びに総合解析コンサルタント業務に従事している。その他活断層調査や地震防災のための地震動解析評価、環境影響評価、ごみ減量対策と地球温暖化防止対策、土壌汚染・浄化対策関係等の仕事も行っている。
1.はじめに
1995年兵庫県南部地震(Mg7.2)では、六甲山南山麓の神戸市街地に、町丁目毎に建物の被害度が複雑に変化する震度7の帯状・島状被害が生じた。この研究紹介は、震災直後からの組織的な行動と科学技術的な広域の詳細建物被害度調査から始まり、その後の深部地下データ及び浅部地質・地盤資料を収集整理の上、動的地盤モデル図を作成して地震応答解析を行い、深部地下構造や表層地盤動特性が地震動に及ぼす影響について、検討した。この深部地盤条件を考慮した地震動評価の総合解析により、建物の帯状・島状被害の再現を試み、建物被害が加速度・速度等レベルの違いによる事を明らかにしたものである。この解析手法により求められた地震動分布図は「動的地盤図」とも称されるものであり、都市地震防災への地域防災計画にも活用される事を狙いともしている。
2.動的地盤モデルの作成と応答解析の方法
神戸市域において、主に震災後に実施された反射法地震探査や深層ボーリング調査を用いて、地質構造断面図とS波等動的物性値を用いた2次元地盤モデルを作成した。次に、浅部地盤資料を収集整理の上、表層1次元モデル(250mメッシュ)を作成した。次に深部地盤野応答解析には擬似スペクトル法を用い、基準点で得られている観測波形のフーリエ変換を周波数応答解析に掛け合せ逆フーリエ変換する事により時刻歴波形を求めた。表層1次元解析には1次元重複反射理論(SHAKE)により、工学的基盤から地表までの計算をこの深部2次元モデルと表層1次元モデルを組合せて準3次元モデルとして、平面解析を行った。
3.解析結果
解析結果による各側線の最大加速度の分布形態は、盆地端部形状の影響を受けて、基盤の形状により、例えば逆断層構造の場合は、ピーク値が端部から急激に増幅する事が分かった。また、岩盤に対する増幅率も基盤構造の影響を受け、山麓から500~1000m程度の位置から1~2km程度の幅で基盤の加速度200~250cm/s2程度の地震力が400~1,000cm/S2程度に増幅する傾向が見られた。浅い地盤の1次元解析結果は表層地盤の増幅特性の影響を受けて、工学的基盤の地震動(600~800cm/s2)からさらに、800~1,000cm/s2程度に増幅する傾向が見られた。応答解析結果は震度7以上の被害分布の傾向と大まかに良い対応を示した。さらに、表層地盤の強い影響で島状分布を示す事が分かった。これら解析結果から震度5~7の町丁目毎の複雑な被害の差は、深部地盤構造の形状と地表の地震動力の影響によるもの大と考えられた。
4.「都市地震防災地盤図」の地域防災計画への活用
神戸市全域の地震動分布図は、或る地震の訪れた時の震度分布図、即ち「ハザードマップ」に代わる物とも言えるものである。即ち本解析手法を用いて、他都市のハザードマップを作成し、地域防災計画の基礎資料となり得る事が期待される。
5.本検討結果より判明した事項
(1)神戸市全域に渉り、震災の帯が生じた原因は、主として深部地下構造による盆地端部効果による地震動増幅によるものである。
(2)さらに震度7以上の島状被害が生じた原因は、表層地盤の増幅特性によるものである。
(3)以上の結果は、被害想定等地震防災計画の策定に当っては、事前の深部地下構造調査実施や浅部地盤情報の詳細データ収集とデータベース化の重要性を示すものとも言える。また、簡便な解析手法の適用可能性、適切性を示すと言えよう。
6.まとめ
(1)深部地質構造及び浅部地盤特性を考慮した準3次元動的地盤モデル(Vs、密度、Q値、G~γ、h~γ)よる強震動応答解析を行い、神戸市全域の工学的基盤面及び表層の強震動分布を推定した
(2)解析結果は、各地点の観測記録並びに被害分布共おおむね調和的であった
(3)本解析手法は、一般に建築基礎調査に利用されている従来の「(静的)都市地盤図」に替り、地震時の地盤挙動を考慮した「(動的)地盤図-都市地震防災地盤図」としての利用が期待される
(4)ただし、他都市域の活用には、事前に深部地質データや詳細な表層の動的地盤情報が必要であり、また震源モデル化、入力地震動設定等の検討が必要である
7.今後の検討課題と展望
(1)国、研究機関等の地震防災研究の推進(①活断層調査と強震動の評価②堆積平野地下構造調査③「地震動予測地図」④地震ハザードマップ⑤強震動評価手法の作成等)
(2)全国規模の深部地下構造調査、活断層調査の推進
(3)全国規模の「準3次元深部地盤モデル図」作成の推進
(4)地域別「動的地盤図-都市地震防災地盤図」作成の推進
(5)地域別「地震動及び地震被害予測地図」作成の推進
(6)地質・地盤情報D.B.の一元化と情報公開システムの推進
(7)地域防災システムへの活用推進
Q&A
Q:文部科学省が地震予知について出しているが?
A:文部科学省は、30年以内に震度6以上の地震の来る確率(確立論的地震動予測地図)を公開している。
・ 30年で0.3%(震度6強)は、1000年に1回の確率。
・ 東海・南海道沖地震で7%位(30年以内)。
・ 30年の確率で2%以上(震度6強)の地震は明日来てもおかしくないと思った方がよい。
・ 30年以内に震度6弱の地震の発生する確率(大阪市:21%,和歌山市:32.2%)
(石川 浩次氏監修、山崎 洋右 記)