海外へのODAにおける環境社会配慮について
著者: 苅谷 英明 講演者: 森 和義 / 講演日: 2009年04月21日 / カテゴリ: 講演会 / 更新日時: 2012年08月17日
【環境研究会第43回特別講演会】 ★ 090421
日 時:平成21年4月21日(火)
テーマ:海外へのODAにおける環境社会配慮について
講 師:森 和義氏 (有)森テクノマネジメント 技術士(電気電子、経営工学、総合技術管理)
プロフィール:早大理工学部卒、神戸製鋼所入社、その後神鋼電機を経て工場技術管理支援、ISO構築支援などの他、JICA海外プロジェクトなどに参画して技術支援。また、中小企業診断士など幅広に活動。著書も数種あり。最近は、訳書「アラブの文化とビジネス」を発刊
1.日本のODAについて
日本のODAは、小泉改革で一時期海外援助が減少したが、近年また増加している。また、日本のODAは、「日本政府開発援助大綱」に基づき実施されている。この大綱には、開発途上国の自助努力支援や公平性の確保等の方針のもと、極度の貧困の撲滅、持続的成長など、ミレニアム開発目標と関連した内容が盛り込まれている。
2.JICAの環境配慮業務について
旧JICAの協力機能は、技術協力のみであったが、国際協力銀行(JBIC)と統合された新JICAは、技術協力の他に、有償・無償資金協力の機能を持つ。どの協力においても、日本政府が途上国から援助要請を受け付けて、協力準備調査に入る。調査の段階に応じて、作業名称が分けられる(要望段階:スクリーニング、事前調査段階:予備的スコーピング、本格調査:スコーピング・概要検討・ドラフトファイナルレポート)。
また、調査の種類として、協力準備調査、プログラム準備調査、プログラム形成準備調査、マスタープラン調査協力準備調査、プロジェクト詳細計画策定調査がある。
3.JICA環境社会配慮ガイドラインについて
JICAの調査においては、JICA環境社会配慮ガイドラインに基づいて進められる。プロジェクトに対する環境社会配慮の主体は相手国政府にあり、JICAはガイドラインに沿って相手国政府の行う環境社会配慮の支援と確認を行う。また、新JICAでは、援助期間短縮のため、相手の要請書が無くても要望段階で調査を実施することが可能であり、これまで援助までの期間が3年かかっていたものの半減を目指す。このガイドラインの特徴として、
* 基本的事項(環境社会配慮の基本方針、JICAの責務、相手国政府に求める要件など)、環境社会配慮のプロセス、環境社会配慮の手続き、が記載されている。
* 初期の要請段階から戦略的環境アセスメント(SEA)を取り入れる。
* スコーピングは、自然環境・公害・社会環境の三本柱で行う。
4.実施例1 : シエラレオネ(アフリカ)電力関係調査
【国】シエラレオネ
(面積:北海道と同じくらい、人口:約530万人、首都:フリータウン(200万人))
【プロジェクト名】フリータウン電力供給システム緊急改善計画
【森氏担当】発電に関する調査と環境に関する調査を担当
【内容】内戦で破壊された発電機の代替となる発電機の無償提供の要請である。要請に基づく電力供給状況及び発電・配電設備の現況調査を実施した。
【調査結果】
* 実発電実績を見ると、200万人で3万kWしかなく(神戸市は、150万人で、200万kW程度)、不足していることが分かった。
* 土壌及び地下水・海洋汚染:油・化学物質がサイト内の土壌を汚染。雨季は油水分離層から油漏れ、海岸に流出。
* 電力庁では、現状の33.5MWをベースにした環境影響評価結果があるが、2×5MW追加する際は、新たに環境影響評価が必要となる。
5.実施例2:カイロ電力調査
【国】エジプト
【調査名】大カイロ圏持続型都市開発マスタープラン調査(2008年1月(3週間の調査))
【調査内容】電力需要予測(EEHC作成の予測と検証)、電力供給プロジェクトとその妥当性、効率問題に対する提案、環境社会配慮
【森氏担当】電力に関する調査
【内容】大カイロ圏では8つのニュータウンの建設予定で、その電力需要の調査。火力発電所の排ガスは、SOxの濃度が高い。使用している重油の硫黄濃度が3.5%程度であり、3%以下のものを使用する必要がある。
6.クールアース・パートナーシップ
国(JICA)は、地球温暖化防止に関する支援で100億円の支援を計画しているが、省エネ、太陽光・風力発電などの支援先を探すのに必死である。2008年5月に横浜で開かれたアフリカ開発会議では、福田元首相は、アフリカ50カ国の要人と15分ずつのヒアリングを実施し、各国の要望を聞いた。
7.ODAに取り組むために
JICAの調達コンサルタントの募集は、毎週水曜日10時に公示されている。調達コンサルタントの種類は、役務案件、実施案件、簡易実施案件の3種類である。応募に関しては、自分の経歴を整理しておき、応募案件に類似の業務経験を3件選んで記載する。また、英語力として、何らかの試験の検定書を添付する(TOEIC650点以上が望ましい)。
質疑応答
Q:カイロの電力調査において、調査項目に「送配電線路による電磁的環境の人の健康への影響の検討」があるが、実際のところ人への影響について演者はどう考えるか?
A:アメリカおける送配電路下の住人にガンが多いという報告が国際的に広がったが、電気屋(演者)のセンスから考えると、人への影響は無いと思う。
Q:海外のコンサルがSEAを実施していると話しがあったが、日本の環境コンサルティング会社で実施しているところはあるか?
A:東京の大低のコンサルではできる能力があり、実施している。日本工営などが挙げられる。世銀が世界中に援助しているが、その際に様々な調査をしているが、調査内容に関する要求も強いものである。
Q:途上国でのSEAにおいて、上位計画は存在しているのか?
A:途上国は上位計画が作れず、世銀や依頼を受けたコンサルティング会社が作るケースが多い。
コメント
JICAの技術者は不足しており、また、JICA調達コンサルタントに簡単に申し込むことができるので、是非とも申し込んでいただきたい、とのことであった。聴講者もJICAの調達コンサルタントに興味を示しているようで、活発な意見交換で締められた。
(監修 森 和義 作成 苅谷英明)