最新の環境トピックの制度動向とその背景 -資産除去債務会計基準、国内排出量取引-

著者: 苅谷 英明 講演者: 魚住 隆太  /  講演日: 2009年11月09日 /  カテゴリ: 講演会  /  更新日時: 2012年08月17日

 

【環境研究会第46回特別講演会】  091109

日 時:平成21119日(月)

 

テーマ:最新の環境トピックの制度動向とその背景

(資産除去債務会計基準と国内排出量取引制度)

講 師:魚住 隆太氏(KPMGあずさサステナビリティ株式会社 代表取締役社長)
大阪大学基礎工学部電気工学科卒。あずさ監査法人で会計監査、環境会計導入指導等を経て、あずさサステナビリティ株式会社を設立し、現在に至る。国の各種専門委員会等の委員を歴任。

資格:公認会計士、環境計量士、公害防止管理者、EA21審査人等
著書:「環境会計導入の実務(共著)」「環境報告審査のしくみとノウハウ(共著)」等

 

1.排出量取引制度とその背

1-1.地球温暖化と懐疑論

地球温暖化に関する報告書として、IPCC4次評価報告書があるが、これまでの温暖化に関する研究機関の論文を纏め上げたものである。これにより、人類・社会が温暖化対策に舵を切ることが政治的に明確に決定される契機となった。
一方で、科学者の中には、温暖化そのものに疑問を呈する人も、また温暖化に疑いの余地はないが、人為的起源のGHG増加が原因でないと考えるグループもある。
地球温暖化に対しては、今後も、正確で詳細なデータを取り続け、古気候をさらに研究すること、気候モデルを改善(水蒸気の影響を考慮する等)することなどした対応が必要と思われる。

1-2.国内外の動向

【日本動向】

日本における2020年の削減率(1990年比)について、限界削減コストを同じにする前提で、二つの研究機関がそれぞれ公表している。

RITE(経産省管轄):数%程度、MAX10%
国環研(環境省管轄):1215% MAX17%

この結果を踏まえ、麻生内閣は2005年比15%削減(真水ベース)を提案していたが、鳩山内閣は、真水以外の対策も含めて2005年比30%削減(1990年比25%削減)を提案している。

EU動向】

2007年のEU環境大臣非公式会合では、「技術革新により、低炭素社会を実現し、雇用創出を行うことで、世界でのEUの経済的ポジションを高めるための方策の検討」を目的としていた。現在の環境規制、排出量取引等の方針もこの目的に基づいていると考えられる。

【米国動向】

米国では、グリーン・ニューディール等により、環境政策に力を入れている。また、20096月に下院で排出量取引に関する法案(W-M法)が可決された。現在上院で同様の法案(K-B法)が審議されている。

1-3.低炭素社会に向けて

EUが低炭素社会を急ぐ理由として、気候変動対策が一番の理由としているが、ピークオイルへの対応、そのほかにEUのエネルギー安全保障上の理由と、EUの世界での経済ポジションの向上と雇用促進、EUの技術優位の確保・維持の理由もある。
また、英国では、有価証券報告書等で、企業のGHG排出量を情報開示させる法律制定の動きがあり、法律が制定されれば、日本でも同様に開示が必要となる可能性がある。
EU
や米国は、気候変動対策により産業構造の大転換を行い低炭素社会の実現を進めることで、大きなビジネスチャンスにつなげようとしている。しかし、対応を誤るとビジネスリスクになる恐れがある。

1-4.排出量取引制度

日本では、鳩山政権下で本格的な排出量取引制度の導入に動いており、最短で2011年導入といわれている。その動向には最も注目する必要がある。

 

2.資産除去債務会計基準について

2-1.国際会計基準について

会計基準は、EU主導の会計基準と米国主導の会計基準があったが、米国では2000年のエンロン事件等により、世界的に米国会計基準の地位は弱まり、結果的にEU会計基準が国際会計基準となった。日本では2015年に強制適用となる可能性が高いといわれている(強制適用は上場会社のみ)

2-2.資産除去債務会計基準の影響

資産除去債務の適用は、前出の国際会計基準とのコンバージェンス(融合)の動きに先立ったもの。同会計基準は20104月より強制適用(上場会社のみ)となる。

【資産除去債務の概要】
法令又は契約で要求される有形固定資産の除去時のコストについて、当該除去コストの割引現在価値を債務として認識
相手勘定として当該有形固定資産の帳簿価格に上乗せし、減価償却を通じて毎期費用化
時の経過による債務の増加(利息費用)
除去時の債務と支出額の差を履行差額として処理

2-3.「環境負債」における法的義務

資産除去債務に該当する主な環境負債は、PCB、アスベスト、土壌汚染、特別管理産業廃棄物等が挙げられる。
現状の日本の環境法令では、有害物質の除去についてアスベストを除いて具体的に要求されていない場合が多く、「資産除去債務を合理的に見積もることができない場合」が想定され、注記のみによる開示が頻発し、海外投資家からの批判を招くことが懸念される。その場合、今後、会計基準を意識した環境法令の改正も考えられる。
稼動中で除去できない場合は、稼動停止後の除去費用を見積もり、引当金計上することが、CSRの観点からは、期待される。

質疑応答

Q:資産除去債務の見積もりは、企業の私的な判断でどうにでもできるのか?

A:数字の見積もりは、土壌であれば調査会社に見積り依頼することになるであろう。また、過去の実績があれば類推でも良い。ただし、監査人がその見積もりを合理的と判断するかが問題である。

Q:資産除去債務の適用により、中小企業の土壌汚染の土地も調査されることになるのか?

A:資産除去債務の適用は、実質的には上場会社のみであり、上場していなければ適用しなくても良い(中小企業では、税務に影響しないため)。しかし、誤解にもとづいた調査等は増加するかもしれない。

Q:民主党の温室効果ガスの25%削減は、何とかなるものだろうか?

A:民主党が出した25%削減は、根拠が薄いように思われる。25%削減達成については難しいと思われる。しかし、排出枠を買うのは好ましくなく、日本経済を減速させずに目標を達成するために、できるだけ排出枠購入を少なくして達成できれば、評価されるであろう。

Q:古い資産の処理が進まなくなるのでは?

A:この会計基準では、投資の意思決定は、廃棄コストを含めて考えることが必要となることから投資の意思決定が慎重になる方向に働く。しかし、廃棄コストを含めて考えることは良いことと思われる。

(監修:魚住 隆太 作成:苅谷 英明)


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