新規酸化技術とその工業化学的検討(見学会:ダイセル化学工業株式会社 総合研究所)

著者: 藤橋 雅尚 講演者: 井上 慶三  /  講演日: 2005年02月17日 /  カテゴリ: 見学会  /  更新日時: 2011年05月24日

  

化学部会(20052月度)見学会報告

  時 : 2005217日(木)
  所 : ダイセル化学工業株式会社 総合研究所

2月度の化学部会は、姫路市網干区のダイセル化学工業株式会社総合研究所を訪問し、同社における最新の重点研究開発についてのご講演などを受けた後、所内見学を行った。

 

講演1 新規酸化技術とその工業化学的検討

研開企画部 コーポレート開発センター 井上 慶三氏

この研究は、関西大学の石井康敬教授とダイセルが共同で開発した、NHPI(Nヒドロキシフタルイミド)を代表例とする日本発の革新的なラジカル酸化触媒技術として、文部科学大臣賞を受賞した技術である。既にフォトレジスター用等のファインケミカル分野で実用化しているが、大量生産用途にも拡大できる可能性を期待し、重点開発テーマとして研究中であり、取得特許は370件を越えている。 

ラジカル生成反応の内、R-Hをスタートとするラジカル反応において、通常の反応条件は金属触媒を使用し180 300atm などである。これに対し本法は、25100℃ 常圧の条件でラジカルを得る事ができる触媒反応であり、加えて選択率・転化率ともに従来法に勝っていることが特長である。

生成したラジカル(PINO)の触媒作用により、R-Hを選択的に酸化できる。基質Rは炭素に限らず窒素や硫黄などでも可能であり、カルボン酸、ケトン、ニトロ体、スルフォン酸など広範囲の官能基の導入が可能となる。

汎用の化学物質への展開として、ナイロン原料のアジピン酸や、ポリエステル原料のテレフタル酸への応用を開発中である。アジピン酸の場合はシクロヘキサンを原料とする場合、現状の2段階反応を1段階反応で製造でき、添加率・選択率とも70%を超える事がわかっている。テレフタル酸の場合も、現在使用しているハロゲンを使用せずに製造できるなど有望である。

実用化の例として、フォトレジスト樹脂としての用途がある。これはアダマンタンのアクリル酸やメタクリル酸誘導体をシリコン基盤に塗布して光照射し、照射された部分のみを除去した後、シリコン基盤をエッチングする方式であり、この用途で現在使用されている物質の中では高性能である。
アダマンタンに官能基を与える手段として、選択性の高いNHPI触媒技術を応用することにより、日本でのシェアは60%を越えた。次式に代表例を示すが、3級アルコールを選択的に得る事が可能となった。

 

触媒の種類については、ターンオーバー重点型、溶解性重点型、高温型、低温型など目的に応じて種々開発し、用途展開に努めている。

質疑応答

Q ターンオーバーはどの程度か。

A 10mol%で酸化ができるので10回程度と考えている。もちろん後処理工程で回収を行うが、ほぼ回収できるタイプのものも見つかっている。

 

Q 特許取得は多いけれども製法特許と思われる。権利侵害を検証できるのか。

A 難しい問題だが、有望な製法であり色々なところで開発してもらうことも期待している。また、当社開発の技術を売ることも視野の内に入っている。

 

Q 開発開始後10年近いが、その割に開発が遅いのではないか。

A 当初は実用化用途の探索で手間どり、ファインケミカル分野に絞って開発した。結果としてバルク製品の開発が後回しになってきたのは事実である。工業化のためには周辺技術の開発が重要であるので現在注力しているところである。

研究所見学

質疑応答終了後、研究施設を見学させていただいた。

文責 藤橋雅尚


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