神戸医療産業都市構想、細胞培養センター(CPC)について
化学部会(2005年6月度)講演・見学会報告
日 時 : 2005年6月16日(木)
場 所 : 財団法人医療振興財団 先端医療センター(神戸市のポートアイランド)
6月度の化学部会は、政府の構造改革特区の一つである神戸先端医療産業特区にある、先端医療センターを訪問し、中原佳子氏(財団法人先端医療振興財団 専門役 理学博士)の総合司会のもとで、講演を受けた後所内見学を行った。
講演1 神戸医療産業都市構想について
神戸市企業誘致推進本部 医療産業G グループマネジャー笹井 徹氏
神戸医療産業都市構想とは
神戸経済を復興させるため、政府の構造改革特区の一つとして、医療関連産業(福祉を含む)の規模拡大を目標に平成9年閣議決定された。目的は次の3つである。
・既存産業の高度化と雇用の確保による神戸経済の活性化
・医療サービス水準と市民の健康福祉の向上
・アジア諸国の医療技術の向上など、国際社会への貢献
全体の構成
神戸医療産業都市は、ポートアイランド2期工事地区を中心に施設を整備し、中核機能として、次の3つの機能の相互連関による日本初のクラスター形成を試みている。
・先端医療センター (トランスレーショナルリサーチ:実用化に向けた研究開発)
・メディカルビジネスサポートセンター (起業支援)
・トレーニングセンター (人材育成)
具体的には、高度医療技術の研究開発拠点を整備(医療関連産業の集積)することにより、基礎研究・臨床応用・産業化までの一体的な仕組みを作って、日本の医療関連産業の国際競争力の遅れの回復を図る事を期している。
以上の目的のため9つの中核施設(3つの中央省庁相乗り)を持ち、延べ床面積は11万㎡である。人員は全体で1500名おり、内研究者は550名が34グループに分かれて研究している。
「知的クラスター」とは、地域のイニシアティブの下で、地域において独自の研究開発テーマとポテンシャルを有する大学をはじめとした公的研究機関等を核とし、地域内外から企業等も参画して構成される技術革新システム。
先端医療センターについて
主な研究開発項目は次の通りである。
・医療機器
・医薬品の臨床研究(知験)
・再生医療の研究(臍帯血培養、皮膚・軟骨・骨の再生、神経細胞・血管組織の再生)
<質疑>
Q 日本国内で、同様な組織があると思うが競合は
A 5年前にスタートしたが、最近多くの自治体が進出している。近隣では大阪にサイトがあるが、共同実行を行っている。
世界に残りうるクラスターになるためには、500社10000人規模を集めたい。
Q 投資額はどれくらいか。又国際的展開はどう考えるか。
A ハードだけでこれまでに700億円(神戸市は内100億円、残りは殆ど国)を使った。 国際展開では、隣接の神戸空港は国内用だがビジネスジェットなどを使い、アジアの患者の治療や医師のトレーニングセンターとしての発展を目標にしている。
講演2 トランスレーショナルリサーチにおける、CPC〈細胞培養センター〉の役割
財団法人 先端医療振興財団 専門役 工学博士 千葉 敏行氏
トランスレーショナルリサーチ
新しい医薬品や医療用具、治療方法などを研究し、基礎データを臨床に応用するためには橋渡し研究が重要である。橋渡しをするための研究をトランスレーショナルリサーチと称している。
臨床試験を行うためには、安全性の確認、厚労省に申請し許可が必要など、様々な関門がある。審査においては、ボランティア(患者・健康人)本人の自由意思であることの確認と安全性の確認や、臨床試験を行うための価値があるかの確認などが行われる。
医薬品の臨床試験においては世界標準が決められており、P1(フェーズ1) 健康者への投与、P2 対患者投与、P3 用法用量の検査(2重盲験試験)、P4 市販後検査、などが順次行われる。これらの試験を経て認可されるまでには、10年以上の時間と200~300億円が必要といわれている。
先端医療での臨床試験の現状
一方、先端治療法の開発に関しては、日本ではガイドラインを準備中ということになっている。米国においても垣根を示すガイドラインはあるが、細かい規則はなく担当者が個別に対応しているのが現状である。米国でのガイドライン化は進行しているので、日本はそれを待っているとも思われる。
先端医療の開発におけるトランスレーショナルリサーチを行う事が認められるためには、次の条件が必要である。
①患者ボランティアの安全性
②人での臨床試験を行うことの意義
③どのような資金で臨床試験を行うのか
④臨床審査委員会が機能しているか
①は、医師とTRで共通だが、②以降は考え方が違っている。例えば、医学的興味なのか、今までにない優れた治療法として有効なのかの検証、多くの人の病気の治療・予防・症状改善に役立つなどのメリットをどう評価するかなどが異なっている。
臨床審査委員会においても、上記条件を医師の目からだけではなく患者の視点でも捉える必要がある。
細胞培養センター(CPC)について
CPCでは法規制に基づいたハードとソフトで患者毎に細胞培養を行っている。このようにして培養した細胞を提供することにより、患者の安全性、医療従事者の責任を含めた安全性が担保される。CPCで実際に行っていることは次である。
バリデーション的手法を用いて、安全性・有効性・個別審査などを行っている。しかし化学製品とは異なり技術的に未成熟な分野のため、ドナーの選択基準や培養液の選択、品質の確保やその調べ方など、ガイドライン設定が必要と考えている。
別途、CPCの立場から見ると、クラス100の職場環境を維持しての作業のため、作業者は一旦入室すると数時間出てこられず、しかもGMPの条件確保のため監視者のついた一人作業であることや、患者に確実に供給するため失敗が許されないなど、作業者のストレス対策が重要になってきている。
まとめ
新薬や新規医療を開発するため臨床試験は必要である。また、臨床試験を行うためには患者ボランティアの安全性の確保が最優先項目である。
一方再生医療は期待されているのでCPCは医療の安全確保のためにも必要であり、そのためには製品品質の確保が必要である。しかし、製造施設の環境維持だけでも膨大なコストがかかり、コストに見合った医療であるのかの判断も今後行っていく必要がある。
<質疑>
Q 安全性の問題で、細胞培養液に人工血清を用いることは可能か
A 実験段階では、牛を利用したがBSEのためだめとなった。このため人の蛋白を細菌に作らせる方向となっている。しかしどのような方法をとったにしても、培地の成分を細胞から抜くのが大切である。
Q 臨床試験には200億円超が必要とのことだが、フェーズごとの内訳はどんな具合か
A 大まかであるが、P1で0.1~0.5億円、P2で5~10億円、P3で180億円といわれている。費用の中では人件費が最大であるが、データ管理にも多額の費用を要しており、今後の改善点と目される。
Q 日本の薬品会社の特許が切れそうとのことであるが、ゾロ品の場合開発経費はどうなるのか。
A ジェネリックの場合は2~3億円だろう。したがって安く売れる。但し製剤の中身は同じだが、効能アップのためのノウハウはまねできないので、効能が低い可能性があることも知っておいて欲しい。
Q CPCの現状は、フェーズでいうとどのあたりか。
A P1とP2aが一緒になったような状態である。患者の免疫リスクをなくすため自分の細胞で行っているなど、大量生産は困難な現状である。商売として成り立つかはわからない。
Q この方面で日本が進んでいるのはどの分野か。
A 皮膚、軟骨、骨、角膜上皮細胞などである。需要が多いのは、心臓、神経(脳梗塞など)であり、癌免疫細胞もターゲットである。
Q 健康者ボランティアで事故が起こるとどうなるのか。
A 試験時に1回いくらだけである、保険が必要である。しかし事故が起こった場合、裁判をやれば勝つだろう。
Q コストで考えると、この医療産業団地はペイできるのか。
A 再生医療が誰をターゲットとするかにかかっている。自由診療で良いと思われ、現時点ではコスト意識は入っていない。ビジネス的に考えると突破口は米国などが考えられるが、全般的に見ると予防医療や東方医療も大切と考えている。
<所内見学>
医療団地全体の配置と、バイオメディカル創造センターの見学を行った。
文責 藤橋雅尚