電子共役系の構築法
化学部会(2007年2月度)講演会報告
日 時 : 2007年2月15日(木)
テーマ : 講演会
講演 電子共役系の構築法
京都大学教授 檜山 為次郎 博士(理学)
(京都大学大学院工学研究科 材料化学専攻 天然物化学分野、近畿化学協会会長)
(日本化学会進歩賞、・日本液晶学会業績賞受賞)
1)はじめに
講師は、檜山のつく冠反応を創出した。
野崎・檜山・岸(NHK)反応: クロム(Ⅱ)反応剤を用いる高選択的炭素-炭素結合形成反応
檜山反応 : エステル・マグネシウムエノラートとニトリルとの反応
檜山カップリング反応 : 有機ケイ素化合物のクロスカップリング反応
上記以外にも、酸化的脱硫フッ素化反応、アセチレンのカルボスタニル反応、多ケイ素σ共役分子の電子材料への利用など、有機金属化合物を用いる合成反応、生物活性化合物の合成研究など多彩な研究を行っている。本講演では有機ケイ素化合物の交叉カップリング反応についての概略と、カルボシアノ化に関する最新研究の一端の紹介がなされた。
(配付資料が無いため、反応の説明式等については公開情報の中から関連のものを抜粋)
2)有機ケイ素化合物の交叉カップリング反応
π電子共役モジュールの内、σ-π共役系の電子モジュールを用いて、ケイ素-炭素結合の活性化に成功した。右図はPd触媒の例であるがNi、Co、Fe、Pdなどの触媒のもとで、アリールハライド・アリールトリフラートと有機ケイ素試薬を用いるクロスカップリング反応である。
有機ケイ素試薬は通常きわめて安定であるが、ケイ素の置換基にヘテロ原子やアリール基を用いることにより、フッ素などのルイス塩基アクティベーター高配位シリケート種を形成させ、トランスメタル化活性な状態にする。
この反応はケイ素化合物以外(Mg、Zn、B、Sn)でも可能であるが、ケイ素の低毒性・低環境負荷の面から有用な反応である。収率についても98%以上が達成でき、光学活性や位置選択性を得ることが可能なことや、ケイ素部分の回収が可能なことなど有利な点が多い。
3)カルボシアノ化に関する最新の研究
歪みのかかった化合物でC-C結合をカットし不斉合成を行うことは野依先生が行った。
安定性の高いアリル-ニトリル結合をルイス酸と触媒を用いて活性化する触媒反応の研究を行っている。(右図はC-CNをアルキルアセチレンに付加する例である。)
この反応は立体障害の強いルイス酸を用いるとNi触媒がシアノ基に配位してくれることを利用する選択的な反応である。アリル-ニトリル結合を切って、アルキル化アセチレンに交叉カップリングすることが可能であり研究を進めている。
Q&A
Q 特異な構造を特定されているが、どのような分析により決定されたのか。
A NMRを利用している。(例を提示)
Q ケイ素を用いる交叉カップリング反応の選択性の理由をもう一度説明して欲しい。
A ケイ素が5配位となり、X-Si-Rが直線状態になっている図を利用して説明。
Q アルキルルイス酸を利用しているが、無機ルイス酸ならどうなるか。
A 無機のルイス酸は強すぎて使えない。
Q 二重結合を持つ化合物同士のカップリングを多数扱っておられるが、重合は生じないか。
A 置換基がついているので重合はおこりにくい。
Q ホウ素を経るカップリング反応はどうなるか。
A ケイ素の安全性を評価し、ケイ素-パラジウム主体で行っている。なおケイ素-ニッケルの場合は配位で終了してしまう例が多い。
Q 天然物への活用が見込まれるがどう考えられるか。
A 私の仕事はこの反応を使い易くすることであり、他の方にゆだねたい。
(図は講演資料より転載)
文責 藤橋雅尚