プラスチックの技術革新
化学部会(2007年4月度)総会・研修会報告
日 時 : 2007年4月19日(木)
テーマ : 講演会
講演 プラスチックの技術革新
元九州大学教授 永井 進 博士(工学)
大阪市立工業研究所 プラスチック課長を経て、九州大学工学部 応用物質化学科教授
現在は(社)大阪工研協会常務理事
科学技術庁長官研究功績賞受賞:高分子アゾ系開始剤によるブロック共重合の研究
1)はじめに
アメリカの有力専門誌Plastics Technologyが創刊50周年を期して、50 Ideas that changed Plasticsと題して特集を行った。興味ある内容のためその紹介と、我が国における先人の功績ならびに、演者の研究経験について話す。
2)最近50年間での50の技術革新
Plastics Technology誌が選んだ50のイノベーションについて、まず企画されたことに敬意を表したい。講演資料に詳細がほぼ全訳に近いかたちで紹介されている。本要旨報告ではイノベーションの表題のみを紹介し内容の説明は省略する。(日本企業の関連分:太字)
a) 材料関係・・・PP、HDPE、PC、LLDPE、ABS、耐熱性スーパーエンプラ群、熱可塑性エラストマー、PET&PBT、PUR断熱材。
b) 添加剤・・・ハロゲン化難燃材、立体障害フェノール系抗酸化剤、立体障害基を持つ紫外線安定剤、化学発泡剤。
c) 材料の複合化・・・SMC、ストラクチュラルフォーム、炭素繊維、フィルムシート共押出、多材料射出(日精樹脂)、多層ブロー成形(東洋製罐)、スプレーアップコンポジット、発泡押出、パイプ・インフレ用スパイラルダイ。
d) プロセスの複合化・・・延伸ブロー成形、ガス支援成形(旭ダウ、旭化成)、金型内加飾、射出ブロー成形、二軸フィルム配向。
e) 成型器の改善・・・レシプロ型スクリュー、二軸押出機、パリソンプログラミング、バリアースクリュー、アキュムレーターヘッドブロー成型、全電動射出成形器(新潟鉄鋼)。
f) 金型・・・ホットランナー。
g) 成型法・・・圧空成形、回転式熱成形、回転成形、反応射出成形。
h) 検出、監視技術・・・メルトインデクサー、射出成型シミュレーション、キャビティー圧検出、インフレーション自動ゲージ制御、フラットダイ自動ゲージ制御、フィルム/シート厚みセンサー。
i) その他・・・超音波溶接、乾燥剤入り乾燥機(松井アメリカ)、取り出しロボット(セーラー万年筆)、水中ペレット化、廃プラの密度による分離、コンピューターカラーマッチング。
50の選択から漏れたイノベーションも多くあるが、どうしても紹介したいイノベーションが多数ある。それらの中から世界に先駆けて日本が開発した主な材料を選ぶと、次が候補として挙げられるので紹介する。
PAN系炭素繊維(大工試)、ポリアリレート(ユニチカ)、エバール(クラレ)、シンジオタクティックポリスチレン(出光石油化学)、導電性ポリマー(白川英樹博士)
3)Serendipityについて
研究社の英和大辞典によれば、Serendipityは「当てにしないものを偶然にうまく発見する才能」と書かれており、京大名誉教授の三枝武夫先生は、「発明発見のこころ-Serendipity」として、次のように解説している。
A) 予期せぬ現象に遭遇し、それをきっかけとして未知の分野を切り開く。
B) 自然の仕組みを解析しそれをヒントに新しい機能を持ったものを創出する。
C) 自然界にある特定の機能を取り出し、増幅して利用する。
Serendipityを行えるためには、A) 感受性、観察力、想像力、B) 論理的思考、理解力、解析力、C) 直感力、推察力、理解力、記憶力、思考の柔軟性が大切であるといえ、Serendipityの好例としてZieglerによるエチレン重合触媒の発見が上げられる。
この50年間、多くの専門家が技術革新に地道な努力を積み重ねて、発明発見を積み重ねることにより、プラスチック産業を支えてきたことに敬意を表したい。
4)重合開始作用を持つ官能基を内部に持つポリマー
講演者の行ってきた研究を紹介された。
アゾビスイソブチロニトリルはラジカルを生成するため、モノマーの重合開始剤として使用されており、一般式は次のとおりである。
アゾビスペンタン酸(H00C-R-N=N-R-COOH)の利用研究の一環として、ヘキサメチレンジアミンと縮合重合させて、アゾ基を持つポリマーの研究を行った。ポリマー化は試行錯誤の結果、アゾビスペンタン酸をクロライド化し、ヘキサメチレンジアミンと界面重縮合させることにより成功した。
この樹脂の物性を調べたがアゾ基の影響で耐熱性が不足しているため、単独の樹脂としての利用はできなかった。利用法研究のため、この樹脂を高分子重合開始剤としてスチレンの重合に利用したところ、スチレンの重合度がどんどん上がって行く現象が見いだされた。この現象はスチレン鎖の末端官能基が高分子アゾポリマーと結合して巨大ポリマーになっていくためと考えられている。
得られた非常に分子量の大きな樹脂の利用方法についてはこれからの課題であるが、このようなポリマーの発見が、Serendipityのきっかけになれば幸いである。
Q&A
Q レシプロ型スクリュー射出成型機を使っていたが、イノベーションとしてノミネートされていることを懐かしく思った。
Q アゾベンゼンについて研究した経験がある。芳香基を有するアゾベンゼンなどは安定。
-N=N-の部分で簡単に分解するとのことであるが、ラジカル分解はどのようにして起こすのか。
A 加熱するだけで簡単に分解してしまう。しかし溶液中ではマイルドな分解であり、一気に分解することはなく、ゆっくり反応するのが特徴である。
Q アゾポリマーについて、結晶化核材にふれられていないが重要性は低いのか。
A 問題点はまだまだあると考えている。
文責 藤橋雅尚