活性炭応用技術の展望
化学部会(2007年10月度)研修会報告
日 時 : 2007年10月25日(木)
テーマ : 講演会
講演 活性炭応用技術の展望
前田 武士 技術士(化学)・中小企業診断士
日本エンバイロケミカルズ株式会社 取締役 活性炭事業部長
1)日本エンバイロケミカルズ株式会社の紹介
1936年の武田薬品工業(株)による活性炭製造技術導入が起点であり、同社の生活環境事業部が母体である。2003年に武田薬品工業(株)が医薬品業に専念するため本体から分離し、100%出資子会社として独立した。その後2005年に大阪ガス(株)・大阪ガスケミカル(株)が全株を買い取って大阪ガスグループの一員となった。
大阪ガスの立場は、石炭ガスを製造していた経緯から石炭に関連する技術が発達している。現在は天然ガスに切り替えているが、コールタールから出発したファインケミカルズ分野と、炭素繊維をはじめとする炭素材分野を、大阪ガスケミカル(株)に担当させている。大阪ガスケミカル(株)の製品には、繊維状活性炭など日本エンバイロケミカルズ(株)と相互補完する分野が大きく、活性炭の総合メーカーを目指してグループに加えることとなった。
2)活性炭の種類について
○ 活性炭は、炭素を主原料とする物質を賦活処理によって比表面積をアップしたものである。
○ 賦活処理によって得られる細孔には次の種類がある。
・ 超ミクロ孔 ~1 nm 比表面積測定困難でありはっきりとはわかっていない
・ ミクロ孔 1~2 nm 気相分子などの小分子を吸着
・ メソ孔 2~50 nm 液相などで大きな分子を吸着
・ マクロ孔 50 nm~ 吸着の意味では役立っていない
○ 賦活処理
・ 水蒸気賦活(水性ガス化反応を利用) 小孔が開くので小分子の吸着に適す
・ 薬品賦活 (塩化亜鉛などを利用) 孔が大きいので液層での利用に適す
○ 形状と原料
・ 代表例として、粉末(原料:木粉など)、粒状(原料:椰子がら、石炭など)、繊維状(原料:フェノル樹脂、石油ピッチなど)があり、原料と用途により多岐に別れている。
・ 原料による差が大きいため、品質維持にはノウハウが必要。
・ 製品の平均的な細孔径は次のとおり。塩化亜鉛賦活(木質) 3.5 nm、水蒸気賦活(木質) 2.5 nm、水蒸気賦活(椰子) 1.8nm
○ 活性炭の製造工程
・ 粉状炭 原料→篩別→炭化→洗浄(アルカリなどの除去)→フラッシュドライ→製品
・ 造粒炭 原料の段階でピッチやタールを用いて成型する。
・ 繊維状炭 コールタールを酸素雰囲気で重合させる。(ピッチはベンゼン環を多く持つので孔が開きにくいが、条件調整により1nm程度に揃った孔が開く)
3)原料と品質維持に関して発生している問題
活性炭の規格には、JIS、日本水道協会規格、食品衛生法規格、醸造用資材成分規格などがあり大筋は同じだが微妙に異なっているため、個別に対応している。それぞれの品質を確保するためには原料の安定的な確保が大切であるが、近年大きな問題が発生してきた。
現在、マレーシアで木粉系、フィリピンで椰子殻系を製造している。しかし中国の活性炭需要増に伴う活性炭業界への進出、木材ボードの利用増加によるおがくずの需要増、テロなどによる治安不安、石油の高騰に起因して椰子殻が燃料に利用されるなどで、原料価格が大幅に上昇し製品価格が上がってきている。さらに、椰子の樹種がココナッツからパームへ転換しつつありその対応にも追われている。
4)新しい用途について
○ 分子篩カーボン(MSC)
・ O2とN2の分子サイズの差を利用して、N2のみが通過できる分子篩とする。
・ 中国でN2の需要が増えてきている。
・ 製造は非常にゆっくりと賦活して、サイズが分子径に近い揃った細孔を開ける。
○ 高容量電気二重層キャパシタ(EDLC)
・ 電荷二重層を作る高容量のコンデンサーとなる。
・ 電池に比して化学反応を伴わないため応答が早く、自動車分野で瞬間出力に使用。
・ 電解液に導体を浸した後、賦活して製造する。
○ 家庭用浄水器(塩素抜き)
・ 繊維状の活性炭をモジュール化して組み込むと、長期安定した吸着能力が得られる。
Q&A
Q 医薬品として活性炭が利用される例があると聞くが、どのようなものか。
A 三共製薬が腎不全用として販売しており、つるつるの球状炭である。ヒ素の溶出など厳しい規格がある。
Q 椰子は、実のどの部分が活性炭として利用されるのか。
A 中央部は食用、外側の繊維状部分は繊維や燃料用、ごく薄い中間部が活性炭用となる。
Q 椰子によって品質差があるといわれたが、どう違うのか
A 椰子の木の年齢(古い木の方が良い)や、収穫時期の影響を受け品質差が出る。
Q 電気二重層キャパシタにはどの様な活性炭が良いのか
A ある樹脂にKOHをいれて高温で焼いて製造する。(孔径は2nmが最適であるが、この孔径は水蒸気では開けられない) 他に、抵抗を小さくするための成層化、低温特性を高めるための官能基調整などが関連し、電気メーカーが分析評価する。供給側の化学会社は電気的な知識が少なく、評価や改善について議論がかみ合わない問題点がある。
Q 再生炭についてどのような状況か
A 浄水場などで使用済み活性炭の再生を手掛けていた。しかし、コストがあう大量使用の大都市で高度浄水が一般化し、オゾン処理後のオゾン除去用途が多くなった。このため使用期間が長期化した上、活性炭がこわれやすくなりコストがあわなくなっている。
Q 触媒用途などで、細孔制御が期待されるがどうか。
A コールタールに銀を入れて抗菌作用を持たせるなど種々ある。相談して欲しい。
文責 藤橋雅尚