広がる放射線利用 -ガン診断技術など最近の動向-
化学部会(2005年12月度)講演会報告-2
日 時 : 2005年12月17日(土)
テーマ : 講演会
講演2 広がる放射線利用 -ガン診断技術など最近の動向-
大阪ニュークリアサイエンス協会顧問
大阪府立大学名誉教授 理学博士 北川 通治
放射線・放射性物質の利用が拡大している
放射線の理化学的利用については、原子力図書館( http://sta-atm.jst.go.jp/ )を調べると系統立てて記載されている。主なものとして次が上げられる。
・08-04-01-02 中性子イメージングプレートとその応用
・08-04-01-07 SPring-8(放射光)施設による放射線利用
・08-04-01-11 放射線測定による年代推定
・08-04-01-13 考古学研究への放射線利用
・08-04-01-18 犯罪捜査における放射線利用
・08-04-01-22 光ファイバと放射線
・08-04-01-23 電子線硬化技術の紙の表面加工の応用原理
・08-04-01-25 中性子照射によるシリコン半導体製造の原理
・08-04-01-27 中性子放射化分析-原理と応用
・08-04-01-29 爆薬・薬物探知への放射線利用
国内における放射線関連の事業所は、2000を越えている。代表例として電子線による殺菌・滅菌への利用例は、医療用機器、衛生用品、食品容器、フェイスマスク、HEPAフィルター、浄水用フィルター、クリンルーム用無塵衣、実験用機材や培地など、多岐にわたっている。
我が国における、放射線の利用
医療用途は比較的よく知られているが、用途別に書き出してみると
・工業利用 : 吸着脱臭剤、シリコンの半導体化、ラジアルタイヤ、光機能材料など
・医療 : 生薬の殺菌、医用材料・用具殺菌、診断、癌治療、実験動物飼料殺菌など
・工業計測 : 土壌水分、非破壊検査、超高感度分析、大気浮遊物質測定など
・農業・環境利用 : 害虫駆除、検疫、有害物質処理など
・資源・宇宙利用
日用品として使用されているがあまり知られていないものとして、自動車のタイヤやクッションの製造、半導体の特性改善、ネオン管、点灯管、煙感知器、害虫駆除、検疫、有害物質処理への利用が上げられる。
我が国での放射線利用があまり知られていないわけ
唯一の被爆国であり放射線や被爆という言葉に対して強い拒否反応がある。また、マスコミが取り上げるのは、トラブル時であり産官学ともに腰が引けている現状である。とりわけ放射線やRIを使っていると言うことを産業界は口にしたがらない。
ONSAは放射線利用に関する知識の普及活動を目的としている。
具体的な利用例の紹介
医療用や食品容器の殺菌に利用されているのは紹介したが、食品への用途としてジャガイモの芽だし防止(長期保存)がある。世界的には広く利用されているのに対し、国内処理は照射後の安全性に拒否反応があるなど、販路が限られるため施設は一箇所のみである。他にも世界的には放射線を収穫品の殺菌保存(劣化防止)用に広く使っており、殺菌処理品が輸入されてしまっている例は多数あるが、国内処理は認められていない。
農業用に著効のあった例は南西諸島でのウリミバエの根絶である。これは放射線で不妊処理した雄を大量に放虫する方式で行い根絶の成果が得られた。
核医学検査
Scintigraphy SPECT
特定の臓器に集まりやすい医薬品に半減期の短いラジオアイソトープで標識した、いわゆる“放射性医薬品”を用いる。この方式では投与した医薬品が患部に集中することを利用して、診断(時には治療)を行う。
PET(Positron Emission Tomography)
陽電子は電子と結合して消滅するが、その時互いに反対方向に一対のγ線(511keV)を放出する。この性質を利用したのがポジトロン断層画像であり、X線CTと同じように断層画像を描きだすことができる。
他の診断法との違いを簡潔にいえば、CT,US,MR は「形態画像」(断層面の全ての構造が見える解剖画像)であるのに対して、Scinti SPECTやPETは「機能画像」(悪いところだけが光って見える画像)であるということである。PETで見ることが出来るのは、血流、酸素代謝、ブドウ糖代謝、アミノ酸代謝、各種神経伝達物質量と受容体量などである。例えばガン細胞はブドウ糖代謝が多いことを利用して診断可能となる。
<質疑>
Q 食品への応用で、香辛料への国内処理の許可が進まないと聞いているがどうか。
A 許可は近いと聞いている。
Q SPECTを利用する場合、医療関係者の被爆問題がネックになり普及が遅れているとの話を聞いたことがあるがどうか。
A 患者の被爆は一回限りであり問題ないが、医療関係者対策はきちんとせねばならない。放射性同位元素の供給については、半減期が短いことに対応するため全国2時間以内供給体制が必要であるが、ほぼ整った。
Q 放射性物資への国民の拒否反応対策はどうか
A 大きな問題である。時間をかけて有用性を説明し、普及する努力をしている。
文責 藤橋雅尚