基礎研究と技術 -NIRS研究会(近赤外分光法)にいたる経緯とその成果-

著者: 藤橋 雅尚 講演者: 岩本 令吉  /  講演日: 2007年12月08日 /  カテゴリ: 講演会  /  更新日時: 2010年12月27日

 

化学部会(200712月度)研修会報告-2

  時 : 2007128日(土)
テーマ : 講演会

 

講演2 基礎研究と技術 NIRS研究会(近赤外分光法)に至る経緯とその成果―

岩本 令吉 理学博士
元 工業技術院大阪工業技術研究所 所長

 

1)全反射分光法

大阪工業技術試験所時代に生体適合材料の研究開発プロジェクトに参加した。その際、生体への適合性評価の手法として材料表面分析法の開発研究を担当し全反射分光法と出会った。
全反射分光法とは、図2のように臨界角以上の入射角でプリズムと試料との界面に光を当てると、試料界面に発生するエバネセント波を利用して試料表面のラマンスペクトルや赤外スペクトルを測定する方法である。散乱光で生体表面を測定しようとして適さなかったが、研究過程でこの現象を利用したフーリエ変換IR分析法(FT-IR/ATR法)を用いて5.5nmの薄い表面層を分析できる高い能力を持つことを明らかにし、FT-IR分光計の高い分析能力を知った。

 図2 全反射

2)近赤外分光分析への取組

大阪工業技術研究所退職を機に、その後の仕事を念頭に置いてFT-IR/NIR分光計の工業的応用などに関係した技術動向を文献や海外視察によって調査した結果、近赤外吸収の解釈が未解決のままで残っていたのでこの問題に絞った。幸いKRIで職を得、NIRS研究会を立ち上げることができたので、FT-NIR分光法の工業的応用の基盤づくりに取り組んだ。

研究会が目的とする近赤外吸収データ集積によって、遠隔FT-NIR法の、①製造過程の中間物の品質評価 ②合成過程のモニタリング など、より進んだ応用が可能となる。NIRS研究会ではマルチクライアントプロジェクトとして、企業参加の協力を得て9年間続けた結果、有機・高分子化合物の近赤外吸収の解釈のための基礎的な知見を集積することができた。

3)NIRS研究会の目標と主な成果


 
主テーマ「高分子化合物の近赤外スペクトルの解析」、副テーマ「材料と水との相互作用」を選んで研究した。測定データの集積が全くない状態から始めたので大変であったが、Ethylene-vinyl alcohol共重合体中のOHの結合音吸収からOHの会合状態とフリー状態を解析できることを明らかにするなどの成功によって軌道に乗り始めた。また、エチレンービニルアセテート共重合体中の水分子のスペクトルが共重合体の組成によって異常挙動を示すことを発見し、その解析から一般の高分子と水との相互作用の態様を解明することに成功した。

  

図3 ナフィオン膜のスペクトル変化全反射

図3のように大気中で水分を吸収したナフィオン膜(燃料電池用電極膜の一種)の赤外スペクトルは脱水により顕著な変化が起こる。水分を含んだ膜中では水がヒドロニウムイオン(H3O+)になって電気伝導性を発現し、スルホン酸の当量だけH3O+となる。脱水によりまずフリー水が蒸発し、続いてH3O+が崩壊して生じたH+SO3-に結合してSO3Hとなることを実証できた。

Q&A

Q 医薬品業界は製造プロセスでの品質管理を重用視するが、製薬企業との協力はどうか?

A 参加していない。NIRSでは透過光のスペクトルを扱ってきたが、反射光が応用できる。

 

Q ナフィオン膜は超強酸の-SO3Hだが、カルボン酸ならどうか。

A カルボン酸は弱酸のため、図3のようなスペクトルは得られない。

              (図は講演資料より転載)

 文責 藤橋雅尚


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