研究開発企業(KRI社)の活動概要について
化学部会(2008年2月度)研修会報告
日 時 : 2008年2月14日(木)
テーマ : 講演会
講演 研究開発企業(KRI)の活動概要について
蜂谷 彰啓 株式会社 KRI 常務取締役
株式会社 KRIとは
KRIは受託研究を目的とした企業であり、1987年に大阪ガスの全額出資で株式会社 関西新技術研究所として創業した。モデルはSRI(Stanford Research Institute)である。最初の頃は大阪ガスからの受注が大半であったが、この10年で延べ1500社との取引を持つようになっている。現在の社名はKansai Research Instituteを略したもので2003年に変更した。主たる事業内容は下記であり、本社を京都リサーチパーク、東京にコンサルティング、大阪に分析評価センターを持っている。
① 材料分野、エネルギー・環境分野を中心とする研究開発の受託
② 経営戦略、事業戦略および技術・製品の開発戦略に関する調査・コンサルティング
③ 分析および試験評価
④ 日本のR&D動向分析・評価
社員は、180名であるが研究開発部門には大阪ガスの出身者はほとんどいない現況である。大阪ガスとの関係については、③の分析評価の分野でのみ大阪ガスからの受注割合が高いが、主力業務の①②ではほとんどが大阪ガス以外となっている。
受託研究業務について
受託研究業務の実施にあたって最も重要なものは秘密保持である。KRIの場合は大阪ガスが中立性の高い(同業他社が少ない)位置づけであることが、クライアントの信用を得るために大きく役立っている。
契約の形態はクライアントからKRIへの委託契約であり、契約の成立がプロジェクトのスタートとなる。一般的な契約は、研究員1名で1年間 3000万円が目処であり、成功を約束する形態とはしない代わりにプロジェクトの成果は原則として客先のものとしている。(成功報酬型の場合はリスクを見なければならないのでもっと高くなる) この方式は研究者にとって成果を自分のものにできないジレンマを生んでいる。しかし特許権を得たとしてもKRIには実用化する機能はなく、クライアントで実際に当該特許を使用しているかどうかの判断もしにくいことから、適切であると考えている。なお、特許は年100件程度を出願しているが近年は自社特許も増やす方向で努めている。
KRIを利用することによるクライアントのメリットは次のとおりであり、過去10年間で300億円を越える受託を得、リピートも多い実績である。
① 客先でまだ人材や設備が不足しているような事業の開発スピードアップ
② 新しいアイデアや成果の入手、研究の柔軟性
③ プロジェクトの開発失敗を含めたリスクの分散
図1 プラスチック使用割合の変化
保有技術と組織について
最も重要なものは人であり、求める資質は次である。
① マーケティングできる技術者(自分あるいは会社の技術を自分でマーケティングし受注)
② 自律・自走できる技術者(プロジェクトのリーダは受注者である)
③ 出口設計ができ、企業センス(顧客への提案能力)を持つ技術者
受託対象の研究については、基礎研究の分野は大学に任せることとし、応用に近い基礎から応用の領域をKRIが担当する位置づけである。委託企業には、応用から開発、設計、事業化を担当していただいている。
KRIの基盤技術は、
①新機能付与型材料・素材(有機無機合成からナノ合成など)
②構造・形態制御型材料素材(微粒子、薄膜、微細加工など)
③デバイスシステム(デバイス作成、触媒、光利用など)
④計測・評価・分析、コンサルティングである。
これら自社技術と技術者自身が保有している技術をもとに、クライアントを訪問して話を聞きながら展開し、提案・受注している。なお、技術者は全て年俸制でマーケティングへの寄与度、研究の実施度、個人・部単位での目標達成率を指標として毎年評価し、契約を更新している。
受託研究については公開できないが、自社独自研究でのトピックスをいくつか紹介する。高強度ポリ乳酸繊維分野で、汎用合成繊維より強度の勝るものを得ておりカーボンフィラーとのなじみ性のアップで改善を進めている。水素分離膜分野で、ゼオライトの結晶構造を壊すことにより水素を選択的に分離できる目処が出てきた。また光ナノインプリント分野で、新規光ナノインプリント材料を開発しており100nm程度なら可能となった。光ファイバー増幅器分野では、増幅器を世界で目標としている4mmの装置より一歩進んだサイズに小型化できる見込みがつくなど、多数の独自技術を持っており、これらのシーズを提案に活用している。
Q&A
Q 研究者の年収は業績により大幅に変わると思われるがどの程度か。また勤続はどうか。
A 最大で+50%、-20%程度である。勤続は会社が若いこともあり平均6年程度である。
Q やめていく例も多いと考えるがどうか。
A 技術には、流行り廃りがあり自分のシーズがマッチングしなくなった場合、他の研究者のシーズに興味を持って共同研究する道を選ぶものもいるが、やめていくものも多い。
Q 勤続年数が短い場合などコンプライアンスに懸念があるが、どうカバーしているか。
A 入社、退社時に契約している。なお特許が絡む場合は本人が発明者である特許を書かせている。
Q 年齢はどれくらいか。
A 経験者を中途採用していることから平均年齢は40歳代である。定年は60歳であるが本人のモチベーションにより60歳以上の方もおられる。
Q 社内での発表会はあるのか。
A 社内研究を除いて、秘密保持契約案件がほとんどであり行っていない。関係者の知恵を集めたいところだが担当グループ内に情報を止めている。
Q 得てきた案件に対して、どうやってグループを作るのか。
A 経験の深い部長クラスと受注者が相談し、最初のフォーメーションで決めてしまう。
Q 特許の利用率はどの程度か。
A 把握が難しいのが現状である。イニシャルレベルでの話はあり、その場合は20%を本人にペイしている。なおランニングフィーの話はまだほとんどない。
Q 人の移動が激しいと思うが技術の持続性はどうか。
A 無くなった技術もあるが、新しい人が入って教えてもらうことも多い。
(文責 藤橋雅尚)