食用油の廃物利用の現状

著者: 藤橋 雅尚 講演者: 大城 芳樹  /  講演日: 2008年07月17日 /  カテゴリ: 講演会  /  更新日時: 2010年12月31日

 

化学部会(2008年7月度)研修会報告

  時 : 2008717日(木)
テーマ :講演会

  

講演 食用油の廃物利用の現状

大城芳樹 工学博士 大阪大学名誉教授、元近畿化学協会会長

 

はじめに

地球温暖化の原因としてCO2発生の削減が上げられており、化石燃料を代替燃料に変更、CO2を化成品に変換する、地中あるいは海中にCO2を貯蔵するなどが上げられている。地球温暖化の責任が本当に化石資源だけであるのかという疑問はあるが、自然界で超長期をかけて形成された化石燃料を有限消耗型で使ってしまうことは問題であり、短期再生産型でCO2の循環ができるバイオマスエネルギーの活用が重要である。
バイオマスエネルギーの潜在量は、世界全体の総エネルギー使用量の710倍といわれている。一方日本では総エネルギー需要量の7%に相当するバイオマス資源量があり、その0.92%が利用されているのが現状である。

バイオディーゼルの歴史

本日はバイオディーゼル(BDF)を中心としてお話しする。BDFは19世紀後半から研究が始まり、1900 年のパリ万博でピーナッツ油を使って初めて実演された。その後軽油の普及で消滅していたが、1970年代のオイルショックで復活した。原料の油脂は脂肪酸のトリグリセライドであるが、軽油と比較するとそのままでは沸点・融点が高く、安定性・流動性が小さいため、BDFとしては構成脂肪酸をメチルエステル化して利用されている。

油脂と脂肪酸について

まず植物油と動物油に分けられるが、植物油だけでも、大豆油・パーム果肉油・パーム核油・菜種油・サフラワー油・小麦胚油などたくさんの種類がある。化学的にはいずれも脂肪酸トリグリセライドであるが、構成する脂肪酸はC12C22程度の範囲で二重結合も関連しているので複雑であり、さらにグリセリンとの結合位置についても種によって固定しているわけではなく混合物である。とはいえ、原料の種類により油脂中に多く含まれている脂肪酸の種類には特徴があり、コーン油はオレイン酸とリノール酸、パーム油はパルミチン酸とオレイン酸というように特徴を持っている。

      

脂肪酸の呼称について、学術名ではcis-9-オクタデセン酸と呼ぶことが標準であるが、一般に慣用名のオレイン酸と称されている。これはオリーブ油の主成分がオレイン酸であったことから来ており、化学名より便利なため使われている。化学構造の例を右図に示す。脂肪酸の二重結合はcis構造であるために曲がっており、トリグリセライドは複雑な立体構造である。

BDFについて

BDFに要求される性能は軽油の代替燃料であるので、融点が低いこと、沸点が軽油に似ていること、燃焼熱が軽油と大差が無いこと、粘性が低いことなどがまず要求される。これらの要求を満足させるために、トリグリセライドをエステル交換しメチルエステルにすることが適当である。反応法はエステル交換のため、アルカリ触媒法・酸触媒法・リパーゼ法・超臨界メタノール法・超音波攪拌法が提案されているが、現時点ではアルカリ触媒法が主流である。

要求される物性は、金属腐食・ゴムの膨潤などのエンジントラブルを起こさないために、脂肪酸・メタノール・水分含量が規制される。さらに燃料フィルターの目詰まりや燃料ポンプ内での堆積を防止するために、グリセライド・グリセリン・石けん・アルカリ金属なども規制される。さらに、原料油脂の主要物性(酸価・ケン化価・ヨウ素価・過酸化物価・カルボニル価など)が適切な範囲に入っていることも要求され、回収食用油を使う場合は特に製品の安定性の確保の点から大切である。

各国の現状と京都方式

世界的な目で見ると下表のように、ドイツ・フランスを初めとするヨーロッパ各国(バージンの植物油が原料)での利用が進んでいるが、アジア地区は全般に遅れている。特に日本・中国などは導入議論段階である。日本が遅れているのは、ディーゼルエンジンの音や振動と排気の汚さが嫌われていたことによるディーゼルエンジンの普及の遅れもあるが、法的な規制や石油業界の抵抗も大きい。

日本でのBDF利用は、自治体主導の方式がほとんどであるがその中でも京都市は5000 L/Dという、他より一桁以上大きい規模のプラントを持っていることが特徴である。京都市がこの事業を始めたきっかけはCOP3の開催が決定した際のアドバルーン目的である。ネックである廃食油の回収については、環境問題に熱心な市民団体と協働で実行できたことと、京都市が政令指定都市のため産業廃棄物に関して権限を持っていることが大きい。とは言っても現在に至るまでには、環境・通産・国土・大蔵(いずれも当時)などの中央官庁との交渉、さらに回収した廃食油品質の均質化に加え、BDFの品質評価方法の確立など様々な努力を積み重ねてきている。

今後に向けて

BDFは化石燃料由来のCO2発生の抑制という大きなメリットを持つが、デメリットとして需給バランス特に食料用・飼料用とのバランスの問題がある。他にも自然産品のため供給の安定性に欠けるなどがあげられる。
今後発展させていくためには、関係官庁の連携、税金問題(B100のみ免税)の解決、他のバイオマスとの兼ね合い、地産・地消(輸送によるCO2発生抑制)の確保、石油・自動車業界の協力などに加え、健康志向による食用油品質の変化への対応などが課題となる。 

Q&A

Q グリセリン残留が大きな問題になると言われたが、なぜか。

A グリセリンは、熱変性しポリグリセリンなどになり樹脂化する。これがエンジンのすき間に入ってトラブルを誘発する。

 

Q セメント製造などで、廃食用油を熱源としてそのまま利用する方法との兼ね合いは。

A 当然大きな課題である。世界的には非食品用のバージン油が主力になるだろう。

 

Q 自動車企業の反応はどうか。

A 水素燃料などに向かい関心が薄いのが実態である。

            (図・表は講演資料より転載)

文責 藤橋雅尚、監修 大城芳樹


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