関西を拠点に開発されたナノテクノロジー(炭素繊維、透明導電膜、無機MC)
化学部会(2009年12月度)研修会報告-2
日 時 : 2009年12月12日(土)
テーマ : 講演会
講演-2 関西を拠点に発明されたナノテクノロジー
中原佳子 工学博士 産業技術総合研究所ナノテクノロジー研究部門・客員研究員
(社)近畿化学協会 化学技術アドバイザーG 教育研究会主査
はじめに
産総研関西センター(旧大阪工業技術試所)におけるナノテクノロジーの研究は、1920年代のDr.P.P.von Weimarnによる金コロイドの研究(変色しない顔料の開発で結実)に始まった。その後対象分野が光学ガラス、炭素材料、微粒子粉体表面の界面化学などの研究につながって現在に至っている。これらの研究成果は新しい産業の創造に直結した実績があり、今後も二酸化炭素削減などの新しい分野への発展が期待されている。本日は産総研関西センターで開発され、実用化されている技術を紹介する。
PAN系炭素繊維
炭素繊維が強化プラスチックの性能改善に使用されていることは、ご承知のとおりであり、最近では最新型機であるボーイング787の駆体部分などに大量に使用されて、飛行性能の飛躍的な向上をもたらすなど、更なる発展の可能性を持つ技術である。この研究は1960年代に進藤昭男博士によってなされ、科学技術長官賞を初めとして数々の受賞を受け、特許収入も多額に及んだ実績を持つ。製造方法は、ポリアクリロニトリル繊維を200~300℃の空気中で酸化し、得られた黒化繊維を800~1500℃の不活性ガス中で炭素繊維とし、さらに2500~3000℃の不活性ガス中で黒鉛化する。黒鉛の結晶構造を持つことが物性発現の根幹であり、今後更なる発展が期待される。
透明導電膜
液晶表示板の製造に不可欠な、導電性を持つ透明な膜をガラス基板上に作成する技術である。この研究は1965~1970年代に勝部龍之博士によってなされ、科学技術長官賞を受けた。真空蒸着法により酸化インジウム膜を100nm台の厚みでコーティングする。当初は交通機関の窓ガラスの凍結防止目的しか利用されなかったが、電卓の液晶表示板への利用をきっかけとしてブレークした。
無機質マイクロカプセル
球形で外壁がシリカ等の無機化合物で構成されるマイクロカプセルであり、化粧品で伸びが軽く密着性や吸汗性に優れたボディーパウダー用の粉体成分などとして商品化されている。1978~1983年に演者が開発し工業技術員賞を受けた。製法は、珪酸カルシウムをW/Oエマルジョンとした後で水溶液と混合する。混合液からオイルを分離すると珪酸カルシウムのバルーンができ、中の液体成分を蒸発させることによりマイクロカプセルとなる。カプセルの外壁は右上図のように蒸発の際に水分子が通過した穴が残りポーラスである。右下図のように中空部に種々の物質を充填することによる機能の向上が期待される。
その他の研究
金を数nmサイズで酸化鉄の基板に結合させることにより、室温で空気中の酸素を活性化する触媒にすることができ、トイレの脱臭や一酸化炭素のセンサー等に利用されている。その他にも水素吸蔵合金(ニッケル-水素電池用)等の発明がなされており、現在もナノ分野での研究が進められている。
講演-3 独唱の活用
相原敏明 技術士(水道部門) 関西二期会
(図は講演資料から転載)
文責 藤橋雅尚 監修 中原佳子