最近の電池システムの動向 (産業技術研究所関西センター見学会)
化学部会(2010年6月度)見学会報告
日 時 : 2010年6月17日(木)
場 所 : 独立行政法人 産業技術総合研究所 関西センター
テーマ : 見学会
講演 最近の電池システムの動向
境 哲男 独立行政法人 産業技術総合研究所 関西センター
ユビキタスエネルギー研究部門 電池システム研究グループ長 工学博士
神戸大学 併任教授
はじめに
日本の産業は、半導体・液晶・電池の分野で、世界1位の時代があったが中国や韓国に追い越されているのが現実である。当研究所はニッケル水素電池の開発に貢献した歴史を持っていることから、日本の電池をトップランナーにしていくことを目指して研究している。本日は電池を取りまく状況と、電池の進んでいく方向性についてお話しする。
二次電池の高エネルギー密度化技術の進展と今後について
ご承知のとおり二次電池は鉛蓄電池からスタートし、図1のようにNi-Cd電池、Ni-H電池、Liイオン電池と進みながら高エネルギー密度化してきた。鉛蓄電池と現在のLiイオン電池を比較すると、重量基準のエネルギー密度は6~8倍になっている。この様な技術の進展は、それぞれの時代で高容量の電池を必要とする機器があり、その需要に喚起されて電池が開発されてきた結果といえる。
例えばLi-H電池は、携帯電話の需要の後押しを受けて、高機能・低価格化に成功した。今後の方向性としては、携帯電話は更に高機能化してテレビを見ることができるようになっているけれども2時間しか使用できないことから、現在の2倍の容量を持つ新型リチウム電池(LiMO2/Sn,Si)の開発や、空気電池(O2/Zn,Al)の開発が行われている。
日本における二次電池販売
日本における二次電池の販売数量は、Ni-Cd電池からNi-H電池へ、そしてLiイオン電池に主力を移し替えながら、順調に伸びていた。しかし 2000年頃から韓国や中国のメーカーとの低コスト化競争に入るなどの影響もあり、2001年には数量ベースで前年の22億個から17億個に下がった。その後、携帯電話用など小型電池の分野から、パソコンなど中大型電池の分野に移行して徐々に数量が増加している。
生産金額面では、図2のように2008年時点でLiイオン電池がほぼ半分を占めており、その90%以上が携帯用の機器(パソコンなど)で使われている。
二次電池の製造技術では、大型になるほど高度の技術を要求される。小型の電池(携帯電話用など)で中国・韓国に負けた結果、国内メーカーは大型化にシフトしてきた。今後、自動車用、自然エネルギー発電における出力の平準化用など、大型の電池の開発が求められており、日本は高度の技術を要するこの分野をターゲットにしている。
大型の二次電池
自動車に対する環境規制が高性能電池開発の推進力になってきた。1970年には、マスキー法成立に対応してEV自動車開発プロジェクトが組まれたが電池が高価すぎたため、結果として鉛蓄電池自動車が商品化されたのみとなり、エンジンの改良(排ガス浄化触媒を含む)に電池は負けたといえる。1990年から自動者排ガス規制が強化され、高性能電気自動車として、大型Ni-H電池やLiイオン電池の開発が加速し、1997年のハイブリッド自動車プリウス(Ni-H電池使用)の市販につながった。2011年からLiイオン電池登載のハイブリッド自動車の市販も開始される予定であり、年間販売台数も2015年には300万台を越えることが期待されている。
ハイブリッド車の進化系として、家庭で充電し短距離は電気自動車、長距離はハイブリッド車で走行する方式も有力であり、Liイオン電池の競争が激化している。この方式は(特に原子力発電の多い国で)電気を使うことによる二酸化炭素の発生抑制効果の活用と、燃料コストがダウンするメリットがある。
次世代電気自動車用の電池開発競争も激化している。開発には二つの方向性があり、一つは安全で安定した大型電池の開発、もう一つはパソコン用電池を積層しコンピューターで1個ずつの電池を管理して、不調の電池をカットしていく方式である。後者の利点は、中型のパソコン用電池は性能改良が日進月歩であるため、電池性能がどんどん向上していくことにある。一方前者の利点は安定した運転が可能なことであるが、一旦採用されると進歩が止まる傾向もあり、時代遅れになる懸念がある。とは言え大型電池は、鉄道用、発電用としても要望が大きい。
これからに向かって
電池の高容量化のためには、安全性の確保・資源問題(Li資源が南米と中国に偏在)の解決に加え、国際的な競争力を維持するために国家プロジェクトとしての研究開発が大切である。21世紀はエネルギー環境革命の時代と考えられ、二次電池は発展が期待されている。しかし、材料を制するものが電池を制すると見込まれるので、現在の携帯用Liイオン電池からの発想転換(Liイオン電池にこだわらない)を行ない、材料開発の温故知新(以前の材料の見直し)を含めて、新物質の探索と創出がカギを握っていると考える。
Q&A (技術的な Q&Aも多かったが省略)
Q なぜ、小型の電池の方が技術的に容易に製造できるのか。
A 小型のものは手工業的な要素が混ざっていても製造可能であるが、大型になるとそうは行かない。また、携帯電話などでは「不調の電池は交換で対応」など品質管理が楽である。
Q 電池寿命は1000回の充放電とのことであるが、1日1回として3年しか持たないが。
A ハイブリッド車の場合10%程度までしか放電しないので、実際の寿命はもっと長い。(Ni-Cd電池ではメモリー効果が大きいが、Ni-MHやLiイオン電池は中途充電しても問題がない)
Q 電池の寿命と充放電回数はどのような関係があるのか。
A 評価基準である初期容量を90%程度に抑えるだけで回数は大幅に伸びる。なお現在、毎年10%程度の性能アップが続いている。
(図は、講演資料から転載)
文責 藤橋雅尚 監修 境 哲男