都市緑化 見学・研修会 (上新電機、ブルーミンメドー)
環境研究会 見学会報告
日 時:平成23年6月22日(水) 13:00~17:00
主 催:環境研究会、近畿支部
場 所:上新電機株式会社 東大阪店及び本社、ブルーミンメドー
テーマ 都市緑化 見学・懇親会
目次
はじめに
1)ジョーシン東大阪店の環境対策(見学)
2)上新電機本社の屋上緑化(見学)
3)都市緑化と環境対策について講演
3.1上新電機の店舗開発への考え方(遠山雄一店舗開発部長)
3.2都市緑化の設計と多様化(渡邉拓也技術士)
4)ブルーミンメドーでの庭園見学と懇親会
おわりに
梅雨最中にもかかわらず初夏の暑さと快晴の平成23年6月22日(水)13:00に近鉄奈良線「八戸ノ里」駅近くの路上に待機していた大型バスに、総勢34名が乗車して見学会がスタートした。
「都市緑化」というテーマは地球温暖化と相まって大都市における大きな社会的課題であり、大都市「大阪」を「住みやすい健全なまち」に発展させていくためには、技術士にとっても真剣な取り組みが求められている身近な課題である。今回は、上新電機株式会社のご協力により、次の団体の共催で実現した。概要を報告する。
環境対応型店舗として、4月1日(金)大阪中央環状線 巨摩橋西交差点にオープンした『ジョーシン東大阪店』の環境への取り組み施策を視察した。赤色をベースにした独特の外装でよく目立つ、多種、多彩な地域環境保全に資するメニューが導入されている。
ジョーシン東大阪店の外観 玄関ホールでの全体説明風景
正面玄関を入ると、壁一面に主な5つの施策の内容が掲示され、太陽光による発電量がリアルタイムに数値表示で「見える化」されている。「スマートライフ」(地球にやさしく快適で経済的な生活)を提唱して、太陽光発電システム(80枚、発電量14.4kW)、壁面緑化、店内のLED照明などのハイブリッド照明システム、EV充電システム、緑化駐車場などが導入されている。駐車場の照明は、40%程度に間引きして節電している。(説明者:店舗開発部建設担当田中利幸課長代理)
左から
太陽光発電パネルの設置状況(目立つように壁面に設置) (屋上からの張り出しはLED照明
発電量の表示板
苔(スナゴケ)を活用した壁面緑化の状況(緑色が目立つようになるとのこと)
左から
緑化駐車場「ジェイ-ecoパーキング」(タマリュウで緑被率38%、土壌は保水性・保肥性確保)
EV充電システム(急速充電)を設置 (駐車場の車止めにはペットボトルのリサイクル製品を使用)
充電時間は30分、200円程度
日本橋の上新電機本社、7Fの屋上(10m×20m)に設置されている屋上庭園を視察した。
上新電機では「地域社会の人々が安心かつ快適で健康に暮らせる環境の維持と創造を社会的使命」を環境理念に、平成16年4月にヒートアイランド現象や乾燥化などの都市の環境問題を緩和するため、屋上緑化庭園「ジェイ・ガーデン」を完成させた。60種の一年草と宿年草と20~30種の樹木を組み合わせて、季節に関係なくいつでも花が見られるように都会のオアシスの役目を果たすように工夫されている。
ジェイ・ガーデン緑化工法(軽量盛土緑化工法)とは、抗菌性針葉樹皮繊維を基盤に混入して土の単位重量を軽くし、屋上のスラブに懸かる荷重を軽減すると共に、保水性と透水性をバランス良く調節した効果的な植生基盤を生成する工法であり、雨水と太陽光だけで生育させ、雑草の発生率を大幅に軽減して管理コストの削減を図る工法である。産業廃棄物やゴミとして扱われていたスギ(cypress)の樹皮を特殊加工して砂質土やパーライトを混合した100%自然素材のリサイクル多目的環境保全型工法を取り入れることに成功し、年間7,600kg-CO2(ケヤキ約270本分)削減効果が期待される。
左から
色鮮やかなヒメキンギョソウが見られる時期も(写真:渡邉技術士提供)
楚々としたヒメクチナシの花を見学
3.1上新電機の店舗開発への考え方(遠山雄一 店舗開発部長)
本社の休日(水曜日)にもかかわらず説明・お付き合いをお願いした。会議室から屋上庭園の風になびく花木を眺めながら、家電量販店業界の変遷と歴史、出身地別分布、昭和23年発足以来の経営理念の維持、西の雄としての上新電機の店舗状況(H23.3末現在201店舗保有)、地域環境への配慮、快適に暮らせる社会へ貢献する屋上庭園の設置等をお聞かせ頂いた。「唯一現有する日本橋出身家電量販店として阪神タイガーズを応援している」とのことであるが、関西に「元気を!」取り戻す原動力になって貰いたい。
渡邉拓也技術士(建設、総監)は(株)渡辺農園を経営されており、板垣禮二(株)イー・プランニング社長と協力して、上新電機の屋上庭園の構築、店舗の緑化対策等に尽力されている。渡邉技術士の永年の経験に基づき「都市緑化技術の新動向」と題して講演して頂いた。水と緑を愛し、この屋上庭園をネットワークの原点にとの情熱が強く感じられる講演であった。質疑応答を含めて概要を列記する。
○「都市緑化」の基本的な考え方は、高度経済成長期の機能性・経済性・緑量増追求時代から、緑の質を重視する時代に移行。そして各地の「花と緑の博覧会」における大規模な資金力と労力で一夜にして花模様を修景する時代に、更には、バブル崩壊後は都市でのかけがえのない緑の空間の確保、快適性の維持(建物と緑が50%づつ)、都市部のヒートアイランド現象の抑制、等の付加価値が求められるようになってきた。
○都市の建築物の屋上・屋根・壁面、地下街、水辺、急斜面などの特殊空間への緑の導入が進んできており、適応植物の種類も適用技術も成長後の維持管理の負担を軽減する方向に変化してきている。
○防草・防水シート、軽量土、抗菌加工したスギやヒノキの樹皮片・まさ土・パーライトの混合利用や土を使わない種子混合基材による高層吹き付け緑化、等の新材料や新工法が導入されるようになり、10cmの土厚で芝生の管理(踏圧軽減やエアレーション)も可能になっており、ニーズの多様化に対応している。
○雨水と太陽の光だけで、年中、景観的に花と緑が楽しめるようワイルドフラワーを活用した粗放管理(野生の草花の混合など)に工夫をこらしている。
○特殊な緑化の一例としては、校庭緑化では従来の張芝の他にまき芝、スポーツターフ、そして人工芝も有効であり、水辺護岸には浄化能力を備えた水生植物の植栽基盤となるヤシマットの活用も有効である。
○都市でのかけがえのない鳥や昆虫などの生物が移動し、集まり、潤い・癒しをもたらしてくれる水と緑のネットワーク化と連携によりエコシティーに繋がることを期待している。今日、神社やお寺に見られた緑の空間(スポット)が激減しており、動植物の生息空間を維持しうる「ビオトーブ」や「風の道」(道路・河川などがマンションの乱立で阻害)を確保してやることが大切である。
○植栽空間に風が抜けないと病虫害が発生したりする。築山を活用してアンジュレーションをつければ50cmの土厚で高さ3m程度の針葉樹も植栽可能となる。
○イノシシなどの野獣は、ローズマリーやラベンダー、マリーゴールドなどのハーブを入れると来なくなる。施肥は必要な時にタイミング良く与えることが大切である。
注)渡邉技術士より、植栽維持管理作業時の状況写真(写真-11及び写真-12)を頂いた。これらの写真を見て、敷地の半分以上にわたって新たな草木が植え替えされた。これほどに丁寧な植栽管理作業が根気よく継続されて始めて、季節を感じられる花が見られるのだ。それも我々が視察したほんの1週間前のことであり、愛情なくしては生き物と付き合うことはできませんと教えられた。
植栽維持管理作業の状況 (写真:渡邉技術士提供)
講演中の渡邉技術士 熱心に聴講する参加者の皆さん
日本橋から渡邉技術士が経営されている神戸市東灘区本山中町のレストラン「ブルーミンミメドー」に、バスを少し手前で降車して歩くこと1-2分で、見学者21名に来客を加えて総勢24名を、鬱蒼とした緑の大木に囲まれ、下界の煩わしさとは無縁な空間の花に囲まれたカナディアン風のログハウスが迎えてくれた。
相続した遺産が阪神淡路大震災で壊滅的な被害を受け、苦労の末、憧れのカナダ産を手作りされたとのことであるが、階下には日本古来の庭園と茶室、2階がレストラン、週末には若いカップルが誕生するウェディングパーティーの予約で満杯とのことである。
重厚な趣のあるログハウス
ログハウス前での記念撮影 ログハウスから庭園を (敷地面積は300坪弱)
木々の緑に囲まれた庭園内に、2カ所の祝舞台が設けられており、神父に導かれて新しいカップルが誓いを固めるには狭からず、広からずと見事にアレンジされて神秘的であり、場違いながらまだまだ元気に社会貢献しなければと感じた。小生も不思議な思いであった。
懇親会は、特別サービスのシャンペンでの乾杯で始まった。落ち着いた雰囲気の美人ウエイトレスから注いで貰った赤ワインの香りは素晴らしくまろやかで、地産地消に心遣いが見られる匠の料理に舌鼓を打ちつつ、多くの人との語らいとグラスを共にして、時間を忘れて楽しい一時を過ごすことができた。通常は、レストランの定休日であったが我々のために開けて頂いたのであろう。テラスに出てみると緑の香りの風が頬をなぜて通りすぎていくではないか。思いがけなく自然に明日への意欲を植え付けられた一日であった。
安ヵ川代表幹事の挨拶 末利幹事の理事当選のご挨拶
左から
アルコールが入って、渡邉氏のお得意の咽(ジャズ)
山本幹事が本日の企画総括が聞かれなかったのは残念であった
広大な敷地に広がる花木の一本一本までに手入れの行き届いた庭園とログハウスを見学し、心を引きつけるほのかな甘みのあるワインと下味の効いた料理に、時間を忘れて過ごした。小生のように、コンクリートと鉄のマンション生活者には、ログハウスが周辺の木々に見事に調和して自然の豊かさと人の心への癒しを提供して、この場所で毎日生活できる渡辺技術士は羨ましい限りであり、しかも若いカップルの門出に協力される事業を進められていることに大いに敬意を表したい。
今回は、上新電機の関係者、板垣イー・プランニング社長、渡邉技術士と奥様をはじめ従業員の方々にお世話になりました。皆様が取り組んでおられる環境への配慮が大きな輪となって、わが国の資源・エネルギーの有効利用と持続可能な社会に展開されるように「環境研究会」の研鑽にご協力を賜りますようお願いします。
記録 石塚幹剛、監修 渡邉拓也