亜臨界水で廃棄物や未利用バイオマスを資源に変える
化学部会(2011年10月度)見学研修会報告
日 時 : 2011年10月20日(木) 15:00~17:20 (共催:近畿本部)
場 所 : 大阪府立大学
テーマ : 見学・講演会
講演 亜臨界水で廃棄物や未利用バイオマスを資源・エネルギーに変える
吉田 弘之 工学博士 大阪府立大学21世紀科学研究機構 特認教授
大阪府立大学 名誉教授
1.はじめに
本日お話する研究成果とプラントは、廃棄物や未利用バイオマスを、資源やエネルギーに変える研究として、文部科学省の21世紀COEプログラム(2002-2007)のひとつとして行われた。本日はプログラム開始から現在までの研究成果と実用化の紹介を含めてお話しする。
2.有機性廃棄物、未利用バイオマスの現状
平成20年度の産業廃棄物の排出量は約40000万トンであり、内訳は汚泥が44%、動物の糞尿が22%を占めている。都市ゴミは80%以上が有機物であり、リサイクル率は全国平均で20%程度である。生ゴミをメタン発酵により熱回収している例もあるが、まだまだ未利用の多い現状である。
3.亜臨界水とは
水を密閉容器中で温度を上げていくと、374℃、218気圧で臨界点となるが、100℃と臨界点の間の水を亜臨界水という。水の物性を調べると図1のようにイオン積が250℃付近で最大値を示し温度を上げていくと桁違いに小さくなっていく。この性質を利用すれば固体有機物をごく短時間で加水分解することが可能となる。亜臨界水のもう一つの性質として、温度が高くなると誘電率が小さくなり油分を溶解する能力が強まる。この2つの性質と、亜臨界水の酸化力は超臨界水と異なり非常に小さいため、過剰な分解に至らない特性をうまく利用すると、いろいろなことに活用できる。
4.有機物の資源化への応用
研究は魚のあらの資源化からスタートした。魚市場等から発生するあらは海洋投棄していたが、国際条約により禁止となり廃棄物処理が大変なため代替手段が求められていた。亜臨界水での処理を検討した結果、200~270℃ 5分で各種アミノ酸に分解でき、骨は200℃ 10分で粉体にすることができた。この基礎研究をベースにしてCOE研究でパイロット実験まで実施したが、残念ながらまだ実用化には至っていない。また、琵琶湖の外来魚ブラックバスやブルーギルを駆除し、資源とエネルギーに使えることもプラントを用いて実証したが、自治体は採用しなかった。
木材に適用すると350℃ 1分でセルロースの糖化(20%)が可能となる。米ぬか(日本では年間20万トン発生)の処理に応用すると、劣化しない米ぬか油を連続的に短時間で回収できる。有機性有害物質の不活化に利用することもでき、BSEの原因物質であるプリオンを亜臨界水処理すればアミノ酸レベルまで分解して、無害化できていることを動物実験で確認した。
特筆すべき研究として、亜臨界水処理により水溶性タンパク質(例えばBSA)から生分解性プラスチック(PBSA)を製造する研究がある。この研究の報告(Kinetics and mechanism of the synthesis of a novel protein-based plastic using subcritical water, Biotechnol Prog, 466(2008))はこの分野のインターナショナル論文Top10のTop1に選ばれた(BioMedLib, Sep. 17, 2010)。
その他にもアルミニウムラミネートなど金属とプラスチックの複合材からの金属回収や、液晶パネルから希少金属のインジウムやスズを回収することができるなど、幅広い用途が期待できる。
5.高速メタン発酵の応用とパイロットプラントでの研究成果の実証
本COE研究をスタートした当時からの研究案件であるが、下水処理に応用すると通常のメタン発酵は約1ヶ月を要して30~50%の消化率が得られる程度であるが、前処理に利用すると発酵期間を2~10日間に短縮し消化率80%を得ることができる。
パイロットプラントでは、消化ガスから硫化水素や二酸化炭素を除去し、得られたメタンを原料として、ガソリンエンジン車(バイクとゴルフカート車)を動かすところまで実証できている。
6.実証プラントについて
まだ数は少ないが、商用プラントとして、大阪エコタウンに設置された塩素系有機溶剤の脱塩素化プラント(70t/d、写真)がある。また、日本ハムとの共同研究で廃血液の亜臨界水処理による高消化性飼料の製造プラント(10t/d)がある。現在研究開発中の用途を含めて将来性のある技術と考えている。
7.パイロットプラント見学
講演終了後パイロットプラントを見せていただいた後、質疑を行った。パイロットプラントは連続式反応装置であり、共存固形物に対する工夫、様々な反応時間にも対応するための工夫などについて説明を受けた。なお、バッチ式装置も準備したが短時間の反応に対して昇温時間が長すぎるため、実用化は連続式にすべきとの説明を受けた。
メタン発酵で生成したガスについては、硫化水素などの不純物を除去するだけで発電できることを実証していた。ガソリン車の走行には活性炭で二酸化炭素などの副生物を除去した後10kg/cm2Gに昇圧して車中のボンベに充填する。この圧力設定により通常のガソリン車と同じ法的規制範囲となる。なお、ボンベにはメタンガス吸着用活性炭を充填しており5倍量のメタンガスを充填できる。満タン走行距離は50ccバイクで50km、360ccカート車で70kmである。
Q&A
Q 木材中にあるリグニンは、どのような挙動をするか。
A リグニンの分解生成物は種類も多く条件も厳しくする必要があるので分解させていない。
Q 金属を分離する反応を都市鉱山に応用できないか。
A プラスチックを分解し金属のみを残す方法で回収できる。まだ使われていないが、今後の研究課題と考えている。
Q 都市ゴミをメタン発酵して利用する際に障害となるシロキサンへの対策は。
A 豆腐系の原料を使っているので、このプラントでは不要である。下水汚泥のような場合は必要であるが、吸着法などで対応できる。
Q 硫黄や窒素系のガスはどうか
A 水への溶解と、活性炭への吸着処理で除去できている。
Q 本技術の採用実績が少ないのは、亜臨界水技術だけでは優位性が足らないためか。
A コストパフォーマンスの不足など様々の要因を想定できるが、この技術でなければというところからブレークしていくことを期待して研究を続けている。
(文責 藤橋雅尚 監修 吉田弘之)