アジアの観光地を旅し、日本を考える
日 時 : 2011年12月10日(土) 15:00~17:00
テーマ : 講演会
講演2 アジア観光地を旅し、日本を振り返る
稲葉 伸一 社団法人近畿化学協会化学技術アドバイザー
神戸大学工学部応用化学科 非常勤講師、青山学院大学理工学部 非常勤講師
1.はじめに
私は仕事での海外出張や、退職後に母を伴った家族旅行を、欧米を中心として行ってきた。近年、中国を含めたアジアを旅することが増え「日本に欠けているもの、失いつつあるもの」が見えてきたと感じている。今日は、ベトナム、カンボジア、トルコ、中国、シンガポール、インドネシアなどで写した多くの写真をご紹介すると共に、アジアから見える「日本」を語りたい。
2.新興国の力強さ
最近、アジアの時代だと言われ始めた。中国はBRICs、シンガポールは先進国、タイ・トルコ・インドネシア・ベトナムは新興国と思われるが、住民のバイタリティーにはものすごさを感じる。建設ラッシュや自然破壊も無いとは言えないが、宗教(仏教、道教、イスラム教、ヒンズー教)があり柔らかい印象を受ける。また、アジアの国々の基本は農業国である。高層ビルが建ち並び、建設中のビルがたくさんあっても、少しはずれるとそこには畑が広がっている。アジアの国々は農業を大切にしながら産業を振興しようとしている。
3.観光は産業になるか
アジアには民族芸能、郷土の土産物、独特な料理、自然そのものの価値、文化遺産などが多く、さらに底流に素朴な人柄がある。これらの資産は、国家滅亡の危機や植民地化の経験から醸成されたと思われ、伝統民芸文化の再興と観光資源化を図り観光と開発のためのインフラ投資も(中国などの化学工場による汚染問題や、資材を持ってきて堤防に積み上げるだけの美化もあるが)、着実になされているといえる。
世界文化遺産については、先住民族の遺産であっても自国の歴史(自国民族にはこだわらない)として、そして少数民族保護などのために活用されている。そこには、過去(歴史)は忘れないが、拘りはしないという基本線があり、歴史博物館での公平な展示などを見て意外に感じた(写真はホーチミンの戦争証跡博物館)。民芸品の販売でも、基本的に製造販売であり手芸の場面を見せ、巧みな口上(日本語も)と、素朴な対応や値切りの楽しみまで見せてくれる。
イスラム教の国では、1日5回の礼拝、アラーが唯一の神であると認める、ラマダン、聖地巡礼(巡礼を終えた人はイスラム教のルールに完全に従う)、貧しい人への施し(1回/年)が、ベースになっている。例えばトルコでは貧しい東を豊かな西が支えることで国が成り立っていることへの理解が必要である。
観光産業は、世界遺産、伝統文化(民族舞踊、音楽、衣装)、自然美、遺跡、博物館・美術館、歓迎(言語、案内、土産・買物)、食事、安全、清潔、冒険、インフラ(道路、空港、水、エアコン)、近代設備(建造美、宿泊施設、トイレ)を整備することで産業になっており、親日的である。
4.アジアの現実と日本の将来
アジアには、自分達が独立(革命)を勝ち取ったとの自信があり、歴史は日本より古い。協調と戦いの連続であったが貧しくても将来に夢を持つ、昔日の日本の姿がある。アジアに対し謙虚になり、上から目線での親日的を求めず、自分から親アジア的になっていく考え方が重要と考える。
(文責 藤橋雅尚 監修 稲葉伸一)