東日本大震災 復興支援に対する繊維技術の具体例

著者: 宮西 健次 講演者: 中村 勤  /  講演日: 2012年02月16日 /  カテゴリ: 講演会  /  更新日時: 2012年10月12日

  

【環境研究会第54回特別講演会】 

日 時:平成24216日(金)18302030
場 所:アーバネックス備後町ビル3階ホール

講演:東日本大震災復興支援に対する繊維技術の具体例

講師:中村 勤 技術士(繊維部門)
日本技術士会繊維部会長 西川産業株式会社  日本睡眠科学研究所

 

1.繊維関係団体・業界の震災復興支援等への取り組み

短期的には(起こってしまったことに対する対応として)衣料、寝具、ふき取りシート等の支援物資の面、マスク、防護服・保護具等、災害対策物資の供給など。長期的には(災害防止の面での対策として)より高性能・高機能な産業資材、防護素材の開発などへの取り組みが、実行あるいは提案された。

2.繊維の特徴

アスペクト比が大きく、しなやか。一次元の形態では、主に、短繊維、紡績糸、フィラメントがあり、二次元の形態では、織物、編物、不織布などがある。化学的には、天然有機繊維(綿、絹、羊毛など)、半合成有機繊維および再生繊維(アセテート、レーヨン、リヨセルなど)、合成有機繊維(ナイロン、ポリエステル、アクリルなど)、無機繊維(ガラス、炭素、金属など)がある。近年、産業資材用途で、炭素繊維やスーパー有機繊維(アラミドなど)が脚光をあびている。

3.東日本大震災について

京都大学の宮川教授によれば、史上4番目の規模(M 9.0)、複数の地震の連動と長い揺れの持続時間、短周期(高周波)に大きなピークをもつ、などの特徴があった。長周期の揺れの成分が少なく、構造物の被害は、揺れによるものは少なかったが、津波によるものが甚大であった。

4.震災対策と繊維 その1:防護物資用繊維

自衛隊の屋外活動服、消防服、マスク、手袋など。難燃性の他、雨中用では透湿防水性、暑熱対策用では通気性が、必要である。また、長期にわたる捜索用として胴付長靴、洗濯できる環境下にないことから吸汗速乾性のある肌着や、消臭機能を有する靴下などが望まれた。

5.震災対策と繊維 その2:ジオテキスタイル、構造物補強用繊維

ジオグリッドという、格子状に目の開いたメッシュ状繊維構造物がある。これは、盛土の補強などで使われるが、阪神大震災の時も使われていたところが崩れなかったこともある。ただし、地震の荷重は、圧縮とせん断が縦横方向にかかり、トータルとして斜め方向に最大荷重が発生するが、2軸メッシュでは、その方向がカバーできない欠点もある。

また、福井県の豪雨災害(H16)の時は、夏場で土嚢として使用されたフレコンバッグは劣化が早く、2カ月でボロボロになった。そこで、1~3年もつ耐候性フレコンが開発された。災害時の応急処置として設置使用したのち、本復旧工事でもそのまま残して使えるものである。高強度ポリエチレンは、メッシュシート化してふとん篭にも採用されたが、こちらも耐久性と高強度が売りである。

6.震災対策と繊維 その3:放射線、放射性物質対策

まずは、人体防護衣料が望まれた。フラッシュ紡糸不織布による、極めて目の細かい生地を利用したDu Pont社のタイベック®が有名。放射性物質の粉塵、飛沫との接触からの防護を目的に使われた。マスクはサブミクロンクラスの粒子透過阻止率で性能が規定されている。より高性能なマスクを得るために、ナノファイバーやエレクトレット加工の応用が進んでいくと思われる。  

放射線そのものからの防護は、有機繊維だけでは太刀打ちできない。一般的には鉛を使った防護服が知られているが、数十kgに及ぶ重さと、それでも完全には防護できない性能に不充足感があった。最近では、放射線を遮蔽するといわれる有機酸塩、無機塩を練りこんだもの、タングステンを用いたもの、インナー用で、特に細胞分裂が盛んな生殖器、脊髄周辺等を限定的に防護するもの(貴金属を用いた独立セル発泡構造)など、軽量なものが開発されている。 

また、放射性物質の囲い込み膜状構造物(シルトフェンス)、飛散防止用製品向け繊維、放射性物質の吸着や濃縮技術と繊維資材を用いたフィルタリングの組み合わせなども開発が進んでいる。  

    

7.復興と繊維産業

塩害を受けた水田跡地で、塩害に強い綿の栽培を行うプロジェクトがある。綿は0.6%程度の塩分濃度まで栽培可能(稲は0.15%)で、農地の塩分を下げていく効果もある。

また、炭素繊維(CF)など、最先端繊維を復興構造物などに積極的に使っていってもらうことも繊維産業が復興に寄与できるポイントであろう。

    

8.睡眠の話

震災後には、心理的ストレスから不眠を訴える方が多かった。不眠とは、初期のこころの不調からくる急性期(~8週間程度)のものと、それが身体の不調につながってしまい慢性化するものがあり、後者は治療が必要である。

睡眠とは、脳による脳の管理技術である。たんに脳が休息するだけのものではなく、脳自体が、修復・活性化を、睡眠の間に進めている。したがって、脳自体が、睡眠に必要な深さと長さを判断し、その質と量をコントロールしている。

 

<質疑>

Q:金属繊維は、着心地を考えるとあまり受け入れられないのではないか?
A:マルチ化、短繊維化(有機系繊維との複合)などで改良の余地はあるかもしれない。

QCF(炭素繊維)は、破壊時木端微塵に飛散すると聞いたが、安全に壊れることも重要ではないか?
A:確かにCFの曳揃糸などでそのようなデータがあるが、CFは通常、FRPとして樹脂などに織物の形で入れられる。
  その状態では樹脂が破壊時のガード役になると考えられる。

Q:安全安心について、色が変わる繊維もあるようだが?
A:ビジュアル化は方向。ハンディなセンサーなども。

Q:今後予想されるリスク(H5N1インフルなど)に向けての繊維産業の対応は?
A:サイバーテロ対応などの案件もあり、開発案件としては俎上に上がっているようだ。

Q:もっと、夏場など快適性を高めた防護衣料はできないものか?
A:改良はされつつあるが、作業管理(短時間で交替など)で対応していただく必要があるのが現状。

 

コメント

繊維は最先端の炭素繊維のように震災に対しても多方面で貢献できる。繊維部会で全体を俯瞰(ふかん)してまとめられたデータを、事例を交えて興味深くご紹介いただいた。

(監修 中村勤  文責 宮西健次)


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