JAXA角田宇宙センターと角田市スペースタワー・コスモハウス見学
著者: 三木 俊明 講演者: / カテゴリ: 東北地区 / 更新日時: 2012年05月11日
環境研究会 東北研修旅行 参加者報告
日 時:平成24年3月20~21日
場 所:宮城県
JAXA角田宇宙センターと角田市スペースタワー・コスモハウス見学
三木俊明 技術士(電気電子部門)
宮城県角田市にある角田宇宙センターを訪問した。戦前は海軍の火薬工場であったという当センターはJAXAの宇宙推進系の研究開発を主な業務としている。
上條謙二郎教授(元角田宇宙センター部長)のご案内のもと、同氏が開発された液体ロケットエンジンLE-7用液体酸素ターボポンプの構造説明と同ポンプ単体での設計確認試験、打上げ実機ターボポンプの性能検定試験を行う試験設備「高圧液酸ターボポンプ試験設備」を見学した。説明は同センターの青木宏技術領域総括及びスタッフの方々より受けた。
・液体酸素ターボポンプ構造と試験運転状況ビデオ
液体酸素ターボポンプの内部構造(図1参照)の説明があった。このターボポンプの大きさは自動車のエンジンより小さいが、ロケット飛行時には1秒間に180リットルの液体酸素(摂氏-183度)を180気圧以上に加圧してエンジン燃焼室に送り込むエンジンの心臓部である。内部の材質は極低温と高温に曝されるためインコネルやなどが使用される。軸受部は腐食しないよう金メッキされた樹脂の粉で潤滑されている。
本ターボポンプ試験設備の運転操作室に入ると、運転制御盤のモニター画面でビデオによる試験実施状況デモが行われた。轟音と共にタービン排ガス燃焼処理装置の先端には40mもおよぶ赤い火炎(水素燃焼なので透明だが周囲の空気を巻き込み赤くなる)が上がるとのこと。
・高圧液酸ターボポンプ試験設備
その後、屋外にある試験設備「高圧液酸ターボポンプ試験設備」を見学した。水素ガスタンク、液体酸素タンクなど多くのタンク群や配管に囲まれ、奥の一室に被試験ターボポンプを設置し実試験する建屋があった。この試験設備で合格したターボポンプのみが種子島、あるいは秋田県田代に送られ、ロケットに搭載される前の最終試験が行われる。
タービン排ガス燃焼処理装置(図2参照)として火炎が出るエリアにはスプリンクラーが装備され周辺への延焼を防ぐ構造となっている。
図2 タービン排ガス燃焼処理装置
・H-Ⅱロケット8号機の事故で回収されたLE7エンジンの展示見学
1999年、HⅡロケット8号機は打ち上げに失敗し、海に落下した。海底から回収されたLE7エンジン本体が展示されている。手で触れることができる国内唯一の実物ロケットエンジンとのこと。
残骸の調査から事故原因はターボポンプインデューサの羽根が旋回キャビテーションの発生による疲労破壊で破損したことがわかり、これらの失敗経験を活かした対策を行うことで高信頼性が確保され、その後のロケット打ち上げ成功に導いた貢献は非常に大きいとのこと。「失敗から学ぶ」ことの大切さを痛感した。
・大型液体ロケットエンジンLE-5、LE-7展示品の見学
屋外にはLE-5、LE-7(図3参照)の実物エンジンが展示されており、青木先生から構造説明を受けた。
図3 LE-7エンジン 図4 角田市スペースタワー
・角田市スペースタワー見学と上條博士の談話
実物大ロケットHⅡの模型があるいう角田市スペースセンター(図4参照)へ移動。ここは「宇宙」をテーマとした角田市のシンボルとして整備された一般向けの宇宙関連施設である。我々は上條先生の丁寧な説明を聞きながら施設を見学した。時間の都合もあり施設内部には入らずバスに戻った。移動中のバスの中では上條先生による、日本のロケットエンジンの歴史、それは上條先生の経歴そのものが日本の液体ロケット研究・開発であり、当時を思い浮かべられながら懐かしく思い出話をして下さった。
先生は角田支所に入った後、ロケットエンジンを米国から購入することになり、ご自身が1976年、米国のカリフォルニア工科大学に1年間研究員として赴任。この時の実績が米国に認められ、上條先生は米国からロケットエンジンに関する最新情報を容易に入手できる日本で唯一の研究者になったこと。ターボポンプの試験設備を作るのに予算の厳しい折、神戸製鋼と角田の研究者達が協力しあって安価で完成させたこと。種子島の実験場で大爆発を起こし、インデューサが飛び出し、対策に奔走したことなど研究開発の苦労の日々の一端を披露して頂いた。
その成果が今日の安定したロケット打ち上げ成功をもたらしたこと。特に1976年当時、米国NASAは日本での液体ロケットエンジン開発は無理だと言っていたなど数々の興味深いお話を聞かせていただいた。最後に、この研修会で同行した我々技術士からターボポンプの構造や製作上のキーとなる専門的な多くの質問が出され、技術士のノベルの高さを披露することができた。正に日本の技術力の高さを再認識する角田宇宙センター見学でした。