女川原子力発電所の状況について
著者: 今井 寿子 講演者: / カテゴリ: 東北地区 / 更新日時: 2012年04月26日
環境研究会 東北研修旅行 参加者報告
日 時:平成24年3月20日 11:20~12:20
場 所:宮城県仙台市 株式会社復建技術コンサルタント
女川原子力発電所の状況について
今井 寿子 技術士(電気電子部門)
■はじめに
東北電力株式会社原子力部原子力技術訓練センター所長古舘淳光様に、2011年3月11日の東日本大震災による女川原子力発電所の被害状況の概要及び緊急安全対策等の対応についてご講演を頂いた。(大谷順一原子力部部長様もご同席) 以下にご講演要旨、及び小職個人の所感を記す。
■ご講演要旨
女川原子力発電所の設備概要
東北電力女川原子力発電所には沸騰水型軽水炉(BWR 福島第一と同じタイプ)が3基ある。1号機の出力は52.4万kW,2号機および3号機は82.5万kWで、営業運転開始はそれぞれ昭和59年,平成7年,平成14年である。
女川発電所の被災~復旧の状況
地震発生直前の状況
1号機、3号機が運転中、2号機が定期点検を終え3/11 14:00に起動開始
被災状況
●地震発生(2011/3/11 14:46) 大津波警報 発令 3/11 14:49
・ 外部電源:送電線は5回線中4回線が停止(地震のゆれによる 送電線の支持碍子の破損、避雷器内部の部分放電に起因する送電停止)
・ 非常用電源:異常なし(待機状態)
・ 通信回線 NTT回線は不通だったものの、東北電力社内設備の保安電話は機能しており,社内外への通信手段を確保できた。
・ 1号機高圧電源盤焼損(ゆれによるしゃ断器の破損に起因 自衛消防隊により消火)
・ 使用済燃料貯蔵プール水飛散(管理区域内)、固体廃棄物貯蔵所内のドラム缶一部転倒
・ 敷地地盤約1m沈下(敷地高さ 14.8m → 13.8m)
・ 周辺道路崩壊(陸路遮断) 消防等外部からの救援不可
●津波襲来 最大津波高さ13m(2011/3/11 15:29) このときの敷地高さは13.8m
・ 2号機海水ポンプ室内の潮位計を通じて建屋内へ海水が一部流入(仮設ポンプ8台で排水実施)
・ 1号機ボイラー用燃料の重油タンク倒壊 海へ重油漏れ発生→オイルフェンスにて拡大防止図る
・ 2号機の非常用ディーゼル発電機を冷やすための補機冷却系3系統のうち,2系統が海水の浸水により使用不可。1系統が健全であったことから2号機の冷温停止状態を維持できた。なお,2号機の冷却は外部電源により行われ,実際には非常用ディーゼル発電機はバックアップの状況であった。
・ 大津波警報 解除 3/12 20:20
●冷温停止に至るまで(止める/冷やす/閉じ込める)
止める:地震直後 1~3号機とも制御棒は正常に動作、原子炉自動停止。
冷やす:残留熱除去系にて冷却を開始(2号機はすぐ常温・大気圧)1,3号機は炉水温度約280℃付近からの冷却。津波襲来後も冷却は継続。3/12未明には1,3号機とも冷温停止状態に到達。
閉じ込める:周囲に設置されたモニタリングポストにより、放射性物質の大気中への放出はないことを確認
●所内設備および周辺の復旧
・ 外部電源:鉄塔・受電設備の倒壊はなく翌日には2回線送電再開。
・ 道路の復旧(社員を含めた構内作業員が構内にあった重機を使用して復旧作業にあたる。女川町中心部へのアクセス路を確保)
・ 被災された周辺住民の受け入れ(避難所としての役割)実施
地震津波対策の実施状況
実施済み・実施中
・ 防潮堤のかさ上げ、建屋の水密化
・ 3/11地震の揺れデータの解析(地震の揺れが一部想定を超えていた)。解析に基づいた対策の立案~実施
・ 非常時の炉心冷却用電源については、高台へ空冷の非常用電源を設置等、多重化を図る。(軽油:発電所に非常用ディーゼル発電機を約一週間運転できる量を確保している) 電源車の導入
実施予定
・ ストレステストの実施、抽出された課題への対策実施
・ 福島第一からの情報収集、教訓を生かす
補足
① 女川原子力発電所周辺のモニタリングポストのデータ
3/13 1:50頃 21μSv/hの指示値を確認(福島第一の影響と考えられる。平成24年1月16日9時現在は約0.1μSv/h。)
② 敷地高さの決定経緯
敷地高さを14.8m(1号機建設当時の想定津波3m程度、2号機設置許可申請時で9.1m) コスト面での負担が増大するにもかかわらず女川原子力発電所敷地高さを想定津波を大きく超える14.8mとしたのは、この地域に生きる者として、津波への畏怖の念があったものと思っている。
③ 東北電力は、今後も女川原子力発電所について積極的な情報開示を推進していく。
■所感 (以下は、あくまで小職個人の勝手な思いです。)
淡々としたご講演の端々に、常に最善を尽くしてきた者だけが持つ覚悟と誇りが感じられた。休日にもかかわらず、また年度末のとくに多忙な時期にもかかわらずご講演をお引き受けいただいた古舘様、大谷様には、心から感謝申し上げたい。
本講演を含めた東北研修旅行を通じて、昨年3月の東日本大震災について報道はあくまで一部のことか伝えていないこと、これから多くの国税が投入される事柄について我々はあまりになにも知らないことを痛感させられた。また本講演録をご確認いただく中で、当事者ではないものが伝えられたことを正しく理解することがいかに難しいことか思い知らされた。
今回東北電力殿のご講演を拝聴し、原子力と向き合うとはどういうことか多くの示唆を頂いた。また、講演要旨の修正に大変お手を煩わせたにもかかわらず、以下のような主旨のメッセージまで頂戴した。「原子力についての賛否は平行線でエンドレスであることは承知の上。原子力に携わる者としては出来ることからしっかり対応し,それを情報発信することで皆さまのご理解につなげて行くことが大切であると思っている。」きっと悔しい思いもされているであろう中この姿勢を貫かれることに、ただただ敬服するばかりである。
これからも、正しく知り、正しく伝え、自ら考え行動することを一技術者・技術士としての最低限の責務と心得、日々の業務・活動の指針としたい。
■講演者コメント
原子力についての賛否は平行線でエンドレスであることは重々承知しております。
原子力に携わる者としては出来ることからしっかり対応し,それを情報発信することで皆さまのご理解につなげて行くことが大切であると思っております。そのような中,中立の立場の皆さまに弊社女川原子力発電所を取り上げていただけることを心強く感じております。
今後とも,ご理解とご支援,ご指導をいただきますようよろしくお願いいたします。