東北研修旅行報告会-2
著者: 和田 克利、綾木 光弘 講演者: 安ヵ川 常孝、綾木 光弘、石川 浩次、三木 俊明、藤橋 雅尚 / 講演日: 2012年05月29日 / カテゴリ: 講演会 / 更新日時: 2012年10月12日
【環境研究会 5月度報告会(近畿本部と共催)】
日 時:平成24年5月29日(火) 18:00~20:30
場 所:アーバネックス備後町ビル3階ホール
講演 東北研修旅行報告会-2
3月20日~21日に東北(宮城県)への研修旅行を実施した。
参加者25名全員が感想・報告を作成し、環境研究会のホームページ「PE-eco」に掲載している。
今回は、第2回の報告会として、5名から発表していただいた。発表者の報告内容は上記ホームページで紹介しているので、以下に研修の背景などを紹介する。
1)安全・安心と技術者(基調講演として)
講演者 安ヵ川 常孝 技術士(環境、建設、衛生、総合監理)
原発事故が一つのきっかけになり、いわゆる「安全、安心」がひとくくりに扱われている。第2期科学技術基本計画において、いわゆる日本の科学技術の理念として、「安心・安全で質の高い生活のできる国」が設定された。安心とは各人が持つ経験やものの考え方で決まるもので、個人毎に異なるものである。安全を科学技術基本計画に乗せるのは当然であるが、安心は科学技術がカバーできるものではないのではないか、ということが素朴な疑問としてある。
翻ってみて、技術士は技術士法に基づく国家資格である。技術士法では技術士の選考基準である科学技術に関する高等の専門的応用力を得るまでには相当の失敗を経験しているはずであり、自分の能力の全てを費やした試行錯誤の繰り返しがある。技術士であるということは、高等な専門能力を持っているということであり、相当な失敗を経験しているということである。
技術士資格ができてから半世紀がたち、相当な数の技術士が活躍しており、この技術士に蓄積されている失敗の情報や経験による、いわゆる高等な専門的応用能力の総和というものは大変な量がある。資源がないといわれる日本において、これらは相当な人的資源であり、この資源を生かすことができないのか、ということを日頃考えている。
福島の原発事故で分かったことは、原発の安全神話である。安全と安心をひとくくりにして、科学技術基本計画に理念として取り上げたために、いわゆる安全性を声高に言えば言うほど不安をあおることになってしまっている。今回の放射能でも、政府が数値を示して安全性を強調すると、国民みんなが不安になってしまう。安心を科学技術の理念に上げたため、我々専門家が根拠をもって安全と言っても、国民は自分が安心できないから安全ではないと考え信用しなくなっている。この状況を技術士の力で修復しなければならない。
技術士という国家資格は弁護士、公認会計士とは根本的に違うものである。弁護士などはあるルールに精通した人に与えられるもの。従って、団体としてまとまって同じ主張をすることができる。一方、技術士はルールがあるわけではなく、その人の高等の専門的応用能力という個人スキルが資格の源泉となるため、団体で行動、主張するのは不可能である。
ではどうするか。一人一人のスキルを高めて、一人一人が行動するしかない。この環境研究会がそのための場であって欲しい。スキルを高めるには情報を交換する必要がある。部門にこだわらず、他の人からの情報を自分のものにする。お互い高めたスキルを情報公開していく。先の発表にあったプレゼンテーションプレイヤーも環境研究会の一つの手法として伸ばしていきたい。
研修旅行の報告会を機会に、技術士とはどうあるべきか、我々に何ができるかというところまで討論ができれば良いと思う。綾木さん、石川さん、藤橋さん、三木さんのお話を伺うが、東北研修会の範囲にこだわらず、一人一人のお考えになっていることをそれぞれお話し頂きたい。
2)現地に行って感じたことと、技術士として何ができるか
発表者 綾木光弘 技術士 (森林)
○ 現地に行って感じたこと
女川と石巻の二つに分かれて、石巻の方へ行った。状況は考えている以上に悲惨だったが、体験していないものの報告は力がないだろう。直接経験された人の文章と見せてもらって感想を書いた文章は力感が違うので、今回感想はあえて省略させていただく。
森林の除染について現地にて新しい情報が得られないかと事前に考えていたが、森林の除染は全くテーマに上がらなかった。これは当然のことであり、森林の汚染は葉から土壌、河川を通って東京湾まで影響するものであり、環境問題としては非常に大事なテーマであるが、実際に東北の現場に行ってみるとまず住んでいる人の生活再建が最優先であり、森林は後回しにならざるを得ないという状況に納得した。
○ 技術士として今後何ができるか
防波堤がどこまでの高さまであれば今後の想定される地震の備えになるかが議論されている。非常に重要であるが、ここまでの高さにすれば絶対安全とは誰にも保証できない。
技術士として何ができるかを考えると、一つの手段で安全を100%保証するような技術を構築するという考え方はよくないと考える。津波に対して今後防ぐことを目的とした場合、単一の手段、防波堤が何mという議論ではなく、岸近くの海底形状の工夫や防災林など樹木で防ぐ方法等多重の防災対策をすることによって、始めて有効な防災の方法が提案できるのではないか。
3)環境研究会東北研修旅行の感想 ~津波襲来と防災対策~
発表者 石川 浩次 技術士 (応用理学、建設)
まず、三陸沿岸をおそった過去の津波地震災害記録についての言及の後、今回の東日本大震災での被害について詳細な解説があった。
また福島原発と女川原発で被害に大きな差が出た要因や津波速報の問題点についても指摘があり、現在進められている南三陸町の高台移転計画や志津川地区での震災復興土地利用計画案について紹介があった。 そして技術士として今後の活動について、以下の提案があった。
日本技術士会が果たすべき復興計画のための技術支援活動
・自治外の復興計画の計画策定への技術支援
・実際の業務発注前の自治体職員への技術支援
・現地の被災状況の調査
技術士として先ずやるべき事
・日常の建物・宅地の危険度判定の実施
・防災教育の日常実施(特に小・中学生)
・強震動発生時の緊急避難活動の実施
・震災発生時の学童帰宅の安全路の確保
・要介護者・弱者救済を中心とした、非常時の避難活動の実践
・斜面地・護岸・海岸施設等の防災診断の実践
・新たな「津波災害防災マップ」の作成と災害時の活用策の実践
技術士として「東日本大震災」に対しやるべき事
・東日本大震災の現地災害調査の実施
・地方自治体の復旧対策・復興計画への支援
東海・東南海・南海地震の襲来に備えて
・「東海・東南海・南海地震は必ず襲来する」の普及活動
・過去の津波被害調査の実施
・現在の防波堤高さの見直し
・「防災教育」実践活動と避難訓練の実施
・地震発生時の高所避難箇所の見直し及び地下施設の浸水対策の検討、地下施設からの緊急避難誘導法の再検討
・長大斜面地の液状化発生予測と対策工法の提案
4)JAXA角田宇宙センターと角田市スペースタワー・コスモハウス見学
発表者 三木 俊明 技術士 (電気電子)
宮城県角田市にある角田宇宙センターを訪問した。戦前は海軍の火薬工場であったという当センターはJAXAの宇宙推進系の研究開発を主な業務としている。試験施設の見学では以下の展示について、青木宏氏(工学博士)と上條謙二郎東北大学名誉教授に説明いただいた。
・液体酸素ターボポンプの見学 ・液体ロケットエンジンLE-5、LE-7の実物展示
H-IIロケット8号機の改修されたLE-7エンジンの展示があった。1999年 H-IIロケット8号機は打ち上げに失敗した。失敗原因はターボポンプインデューサーの羽根が旋回キャビテーションの発生による疲労破壊で破損したこと。この失敗経験を生かしてその後のロケット打ち上げを成功に導いた。
上條博士の談話1976年当時、NASAから日本で液体ロケットエンジンの開発は無理だと言われていたが、上條博士は成功させた。日本の技術力の高さを示す一例といえる。
JAXA最新情報として、H-IIAロケット21号機打ち上げ成功。成功率95%で世界トップ水準。次期ロケットH-IIIについて2022年までに打ち上げを目指す。80億円/回かかるコスト削減が課題とのこと。角田宇宙センターの見学では日本の宇宙ロケットの打ち上げ技術のレベルの高さを再認識した。今後、コスト競争力を高めて、宇宙への夢の実現へ引き継がれていくことを期待する。
5)宮城県での研修と福島県
発表者 藤橋 雅尚 技術士 (化学、総合技術監理)
宮城県と福島県を見て、百聞は一見にしかずとして、映像を中心に被災地の現状の報告があった。以下その一部を紹介。
○ 仙台への道中
がれきこそ片付けられているが、一面の空地であり、飛行機から見た景色と一致していた。この付近は放射性物質の影響は受けていないが、塩害による農地の回復はまだまだと思われた。
○ 女川町
津波被害跡(津波時は標高17mの撮影地点も浸水)
中央右のビルはひっくり返った状態でモニュメントとして残される方向とのこと。(その後の茶色のビルと白色のビルは、報告会時点で撤去済み)
○ 福島県
A,B,C,D,Eの順に視察。
D地点(伊達市)
二本松市から伊達市付近Dを経由して相馬市に向かう行程で、時々不思議な水田を見た。一部は昨年耕作したことが明白であるが、すぐ隣に1年程度は放置されたと見える水田がある。推察であるが昨年度試験的に作付けした田と、作付けを見送った田ではないかと思われる。
E地点-1(相馬郡新地町)
水田であったことがわかるが、その先に行くと重機が所々に見える程度で放置されている。水田跡とは思えない程の荒れ地になっており、道路も鋪装がはがれたままである。
E地点-2
中央の林の右寄り遠方に海が見えているが海までは遠い(パノラマ加工:視野約150°)
コメント
今回は東北研修旅行についての第2回目の報告会であり、ディスカッション形式を予定していた。時間の都合で計画通りにはならなかったが、有意義な発表であった。なお、東北研修旅行参加者25名全員の報告と、被災者でもある技術士の震災レポートを紹介しているので、ご覧いただきたい。
作成 和田克利、綾