プレスネット工法による法面補強
【環境研究会 見学・講演会報告】
日 時:平成24年6月30日(土) 14:00~17:00
場 所:長谷寺の現場、井前建設株式会社 会議室
テーマ プレストネット工法による法面補強
1.長谷寺及び 法面崩壊防止補強工事現場の見学
案内者: 株式会社 相建エンジニアリング、木越正司 社長、銅銀清憲 部長
井前建設株式会社 北田 浩 氏
長谷寺は7世紀に建立された真言宗の名刹。今はアジサイが美しい。
本殿に向かう登廊、今はアジサイが美しい 本殿の舞台から
この地域は火成岩で崩落しやすいが、一方では文化財の保護、景観保全の配慮が強く求められている。プレストネット工法は「初期崩壊防止型 法面補強対策工法」であり、且つ施工後は自然と調和する法面緑化を実現できるため、当地で工事を行った。
他の地域でも自然と調和させるため、現場ごとに応用しながら事業を進めている。
① 3年前に斜面地を同工法により施工。すでに自然を回復している。(写真参照)
② 今年3月に境内の墓地を拡張するため、同工法で施工。すでにかなり自然を回復。
③ 境内の石垣に崩落の恐れがあり、景観を保全しての補強工事を検討している現場も見学。
長谷寺境内図と見学場所 ①②③
① ロックボルトとキャップ、鋼棒、ネット 3年前施工(ほぼ自然回復)
② 3ヶ月前に完工 自然力による植生の復旧状況
③ 石垣の外観を保存して、斜面の補強を計画中
2.講演及び質疑
講演者 木越 正司 技術士(建設)、工学博士
プレストネット工法協会 会長
1)工法開発までの経過
木越社長は大手ゼネコンで、38歳で技術士(建設)を取得し、その後独立。斜面の保全に特化して、技術開発と普及に努めてきた。
コンクリートを使う従来工法に代わる技術に育てるため、大学に研究委託し、自らも工学博士を取得した。開発資金を捻出するため、20社から出資を募り、実現を図ってきた。
2)工法の特徴
プレストレスをかけたアンカーボルトを鉄棒でつないで法面を補強していく工法であり、この工法には多くの利点がある(カタログでは8項目を記載)。
工事では、取り付けた受圧板に先行してロックボルトで引張力をかけることで土中の拘束力を高めることにより、初期状態から崩落に対する抵抗力を与える工法である。
法面の強度が保持できていること確認するため、せん断試験機で抵抗力、せん断効果を確認し、特許も2件取得した。
これらの積み重ねにより国土交通省の新技術活用登録、認定を受けた。維持管理についてもボルトの増し締めによる対応など在来工法に対して優位性がある。
3)技術の改善と普及対策
豊富な施工事例を通じて、現場の多様な条件に合わせて、改善を進めてきた。また、台湾での試験工事の紹介では、短期間での施工実績など優位性の評価を得たことに加え、CO2排出量が少なくできることの評価を求められるなど、興味深い内容であった。
現在は「プレストネット工法協会」の会長として、さらなる施工性の改善、部材の開発・コストダウンなど、普及拡大に向け貪欲に取り組んでいる。
木越社長 講演会にて
質疑応答
冒頭、木越社長から「鉄に変わる材料がないか」と逆に質問された。
機械の据付にコンクリートでアンカーボルトを止める方式の改善のヒントを得られないか、CO2発生量を比較するための評価の仕方、進め方についての意見交換もあった。
また、近年の集中豪雨による地すべり対応の重要性が広がっていること、今後は現場施工の柔軟性や、緑化の優位性を発揮するために国土交通省だけでなく農林水産省との交流の必要性などにも話題が広がった。
多くの専門分野の技術士との交流は、帰りのバスの中でも情報交換が進み、楽しく有意義な見学会であった。
長谷寺本堂の舞台で
(作成 山本 泰三)