ダイセル 神崎工場 見学会
化学部会(2012年7月度)見学・研修会報告
日 時 : 2012年7月19日(木) 14:00~16:30
場 所 : 株式会社ダイセル 神崎工場
株式会社ダイセル 神崎工場の見学・研修会
講演1 神崎工場の説明と主要製品
林 文彦 株式会社ダイセル 神崎工場長
1.沿革
大阪繊維工業株式会社として1916年に設立しセルロイドの製造を開始。1919年にセルロイド会社8社合併により大日本セルロイド株式会社を設立し、同社神崎工場となる。1932年から包装材料事業に進出すべくセロハンを製造開始した(~1975年)。1951年独自の塗布技術により防湿セロハンを製造開始、以降KOP、KET、KON、XOPを上市した。
2004年にダイセルのフィルム事業部門をダイセルバリューコーティング株式会社(DVC)として分社化し、現在はダイセル神崎工場内にDVC神崎工場がある。また、ダイセルのR&D部門の中心である総合研究所は網干にあるが、機能フィルム開発センターは神崎地区に設置しており、本日ご案内する。
2.包装フィルム事業
神崎工場の主力製品は包装用フィルムであり、要求される性能は以下の通りである。
①内容物の保護能力:バリア性(防湿性、ガス通過性、保管性)。強度(引張、引裂、衝撃)。熱特性(耐熱、耐冷)
②加工適性:印刷、ラミネート、製袋
③商品性:光沢性、透明性、開封性、安全性、価格
食品包装を例に挙げると、保護性、流通性、商品性が求められるため、図1のように基材に複数の材料をラミネートして市場に供している。
講演2 ダイセルの機能性フィルム
露本美智男 株式会社ダイセル 機能フィルム開発センター所長
1.高耐久性ANR(アンチニュートンリング)フィルム
タッチパネルは、指などで押して表面が凹んだ際に、光の干渉によりニュートンリングが発生する。ニュートンリングが発生すると画面が見づらくなるので、一般的にフィラー方式(ビーズなどを入れて凹凸を作る方式)が採用されている。しかし、フィラー方式は後述のようにパネルの耐久性に悪影響を与えるため、当社ではフィラー方式とは異なる独自の技術で凹凸を形成し、ニュートンリングの発生を防止している。
フィラー方式で、耐久性が良くない(約10万回の打鍵で反応が弱くなる)件は、ビーズによる摩耗が影響していると考えられているので 、当社はビーズを使わない抵抗膜方式タッチパネル(図2)を採用し、打鍵回数100万回を越える耐久性を実現した(図3)。
図2 抵抗膜方式タッチパネル 図3 打鍵耐久性試験結果
この抵抗膜方式のフィルム(ITO)は当社独自の技術でありコーティングした後、溶媒の蒸発をコントロールすることにより、凹凸を持った相分離層を作る技術を活用して製造可能となった。タッチパネル方式の液晶は、これからますます利用の増える分野であり期待している。
2.高耐熱多孔質フィルム
相分離技術とエンプラを融合させ、高空孔率で、耐熱性・対薬品性に優れたフィルムである。図4に示す様に、線幅13μmで銀線を印刷可能であり、次世代の印刷配線技術として提案できる。
図4 多孔質フィルムの表面
この印刷性能は表面が多孔質であるため溶剤が抜けやすいことに起因している。孔の形状・サイズ・空孔率は制御することが出来、平均孔径1μmで最大空孔率70%を製造できる。他の無機材料との複合化による性能向上の可能性が大きく、多用な用途・応用性を提案できる製品である。
3.透明ハイバリアフィルム
高水蒸気バリア性で、透明性、柔軟性を求める分野は幅広くある。このバリア性は一般食品包装用フィルムの10万倍程度もあることから、電子ペーパー、有機薄膜太陽電池、食品包装など幅広い用途が見込まれており、バリア性能をさらに高める研究を続けている。
工場見学
2班に分かれて研究所と工場を見学し、詳細な説明に加えて個別質疑もさせていただいたが、細部は省略する。
Q&A
Q 水蒸気バリアフィルムの件について説明して欲しい。
A 一例であるがアルミナ系等の金属酸化膜が考えられる。 現在、バリア性は10-4g/m2/dレベルであるが10-6を狙っていきたい。
Q 包装フィルムでは大きな製造装置であったが、製造ロットのサイズはどうしているのか。
A 規定のサイズ表に従い加工を行っているが、要望のあるときは極力お客様の要望に沿って対応を行っている。
(文責 藤橋雅尚)