地球環境・資源問題の緩和に貢献できる繊維技術
【繊維部会・環境部会 合同講演会(近畿本部と共催)】
日 時;2012年7月31日(火) 17:30~20:30
場 所;大阪市 アーバネックス備後町ビル 3階ホール
講演-1 地球環境・資源問題の緩和に貢献できる繊維技術
講演者:松尾
達樹氏 技術士(繊維) 工学博士
SCI-TEX代表、元京都工芸繊維大学教授
環境・資源上の世界的課題を踏まえ、それに寄与できうる繊維技術を取りまとめた。
現在の環境エネルギーをはじめとする先端産業で、繊維の役割は大きい。
1)EVのバッテリーや家庭用や業務用の電力貯蔵等の用途が期待されているリチウムイオン電池のセパレーター材の典型例はポリオレフィンの微多孔膜(孔直径50nm)が使用されている
2)風力発電の翼の材質は、ガラス繊維や炭素繊維で強化された複合材料である。巨大設備になると直径は100m級になり、発電能力も3-5MW/基にもなる。大型翼の多くの場合、その材質は、炭素繊維単独かこれとガラス繊維とが併用されている。
その発電コストは、既存の火力発電にそれほど遜色ないレベルに到達している。
3)航空機では、その軽量化がそのまま燃費向上に繋がっているので、これまでCFRPの応用が進んでいる。就航が始まったB787やA350では、構造部材の約50%がCFRP化されている。特に旅客機の構造材へのCFRPの応用に当たっては、耐衝撃強度の向上が材料特性上のキーポイントであったが、層間強度向上技術(東レ)などによって解決している。
成形技術については、今後は成形コストを下げるため、設備費がかかるオートクレーブを使用しないVaRTM法なども徐々に採用されて行くものと思われる。
4)自動車産業ではCO2排出量削減のため、車体軽量化の要求が強まってきた。車体軽量化の最有力候補はCFRP製部材の多用化である。しかしこれまでは、材料として高価すぎることと、成形効率が低いため、その応用用途は限定されていた。最近、CFRPを中級車やEV車にも適用しようという動きが高まり、需要の伸びに対応して生産能力も増大している。
自動車へのCFRPの需要に対し課題は次である。
①炭素繊維のコスト対応性と、大量産生産対応性を如何に実現するのか。
②炭素繊維について、日本はこれまで世界で圧倒的なシェアを持っているが、台湾、中国、トルコなどでも新規生産が始まり、競争が激化する。
5)全般として、地球環境・資源問題の緩和に貢献できる繊維技術は、実に多方面にわたっている。これまでの供給側の実績・経験と、応用側の先進的需要開拓努力が相まって、強い国際競争力を有している。
今後、本方面においてもナノテク技術の応用が確実に進むものと考えられる。(例:電池の電極材ならびにセパレーター、繊維強化複合材料の高性能化、浄水化ろ過材など)
Q:送電線に炭素繊維が使われているとは思ってもいなかった。炭素は燃えるので発熱の問題があるのでは。
A:特に問題はなく、強度とモジュラスのために使っている。他の有機性繊維でも可能である。
(文責 山崎洋右)