持続可能なものづくりの将来シナリオ
著者: 綾木光弘、上田泰史、苅谷英明 講演者: 梅田 靖、藤本 悟、日野 克浩、木越 正司、山口 隆司、石丸 公生 / 講演日: 2012年09月21日 / カテゴリ: セミナー / 更新日時: 2013年03月03日
第39回技術士全国大会 合同シンポジウム
テーマ 持続可能なものづくりの将来シナリオ
日 時 :平成24年9月21日(土) 午後1時30分~5時
場 所 :ホテルアウィーナ大阪 3F 信貴の間
参加者 :66名
主 催 :公益社団法人 日本技術士会
統括本部 環境部会
近畿本部 環境研究会
目次
開会の挨拶 統括本部 環境部会長 松居 英輔氏
1.基調講演 持続可能なものづくりの将来シナリオ 梅田 靖 氏
2.パネリスト講演
2-1.持続可能なものづくり企業を目指して 藤本 悟 氏
2-2.自動車を取り巻く環境変化と、将来を見据えた取り組み 日野 克浩氏
2-3.プレスト(レス)ネット工法による法面補強とものづくり 木越 正司氏
2-4.橋梁の維持管理を題材に 山口 隆司氏
3.パネルディスカッション (コーディネーター) 石丸 公生氏
閉会の挨拶 近畿本部 環境研究会 代表 安カ川 常孝氏
開会の挨拶
松居 英輔氏 統括本部 環境部会長
今回の大阪での全国大会に、統括本部の環境部会と近畿本部の環境研究会の合同で、掲題のシンポジウムを開催できることは非常に意義があることである。パネラーの皆様にはお忙しいところ、このシンポジウムのために労を取っていただき感謝に絶えない。また、ご出席の皆様には、ぜひ今回のシンポジウムが意義ある試みとなるようご協力願いたい。長丁場のシンポジウムであるが、是非実りあるものとなるよう祈念している。
1.基調講演 持続可能なものづくりの将来シナリオ
講演者:梅田 靖氏 大阪大学大学院教授(機械系)、工学博士
(1)持続可能な社会における製造業の姿
今後、大量生産に伴う過剰消費が種々の環境問題の主原因と考えられ、製造業こそが「持続可能社会」を実現する鍵を握っている。その鍵として、循環型のシステム構築、製造業の構造変更、既存の枠組みでない製品やビジネス形態の構築が考えられる。
CO2排出量を70%削減させなければならない世界においては、現在の姿と異なった姿(=ライフサイクル産業)になることが必要である。
ライフサイクル産業とは、アップグレード可能な価値ある長寿命製品の製造、ものが提供する「サービス」、ライフサイクルコストを基本とした価格、製品のライフサイクルの閉ループ化を実現させたものである。
(2)ライフサイクル産業の先進例
ライフサイクル産業の実践として、適量・高付加価値・リデュースによるムダレス化が重要である。
製品の小型化に伴うプロセス装置の小型化や、部品の再生化ビジネス、モジュール化による製品のライフサイクル全体を捉えたビジネス等がある。
(3)将来のライフサイクル産業の構築のためのシナリオによる評価
「シナリオ」を使って製品開発、ビジネス、企業の将来像等を検討することが実施されている。これは、我々の取り巻く状況の流動化・激しい変化のため、大局的にものを捉える必要があること、暗黙の前提条件、問題設定では、対処できないためであり、その場合に、「シナリオ」に基づく将来像の描写が有効である。
シナリオは、将来予測というものでなく、将来のリスクや機会を的確にとらえ、対処するためのツールである。実際に、シェルは石油危機シナリオを立てて、実際の石油危機をうまく乗り越えた。
持続可能社会のシナリオの実行により、現在と異なる様々な想定が考えられる。その想定の一つに省エネ製品の普及がある。省エネ製品の普及段階において、現在の製品よりも大量の銅が使用されることから銅資源の枯渇リスクの可能性も想定される。この場合、銅資源の枯渇リスクを検証し評価する必要が出てくる。
このように、シナリオによる評価により、現在の社会では想定できない事象を抽出することが可能である。
(4)持続可能なものづくりとは
制約面(温暖化、資源枯渇等)と競争面(市場、競争力、グローバル化/ガラパゴス化)の両面を考慮する必要がある。
「ものづくり」の範囲、「ものづくり」の使命を改めて考える必要がある。
途上国の急速な経済成長があった場合でも、温暖化や資源枯渇問題が人間の幸福に大きな影響を与えないような安定点におけるライフサイクル産業の探求が必要である。
2.パネリスト講演
2-1.持続可能なものづくり企業を目指して
講演者:藤本 悟氏 ダイキン工業株式会社 CSR・地球環境センター室長
(1)新興国の経済成長と経営戦略
ダイキン工業は、売上高61%、利益は80%を海外拠点に依存している会社であり、特に新興国への展開が不可欠である。今や世界の空調市場は、新興国(BRICS)に拡大している。
(2)新興国の経済成長に伴うエアコンの普及と環境・エネルギー問題拡大
GDP拡大で新興国のエアコン普及が進み、需要の伸びが著しい。空調はエネルギーを大量に消費し、特にビルエネルギーの半分以上は空調で占められる。中国の電力消費量の伸びは、東京電力1社分に匹敵する年間5000~6000kWhもの巨大電力市場であり、エアコン販売だけでいいのか?自問している。
(3)日本の環境技術力による問題解決
空調に限って言えば、環境技術力は十分にある。特に、インバーター技術はDCモーターやアクチュエーター技術を含めて、日本の高い技術力で問題解決できる。
(4)障害は価格とビジネスモデル
インバーター搭載エアコンの高価格がネックで、新興国では当初売れないと言われていた。
インバーターの普及率は、日本100%、中国は7%であったが、この5年間で50%近くまで躍進した。
(5)基本思想は「新興国の発展に寄与し、共栄する」
従来の中国でのエアコン市場(価格の安いゾーン)と、ダイキンが手がけていた市場(価格の高いゾーン)の、中間に位置する新市場(価格の中間ゾーン)の創出ビジネスモデルを創出した。
(6)CSR・環境など総合的なソリューションの提供が生き残りの鍵
企業は、新興国における存在価値向上が重要で、エネルギー問題解決の提言を行う。製品の提供だけでなく、現地での人材育成、幹部登用、雇用確保、CSR推進の「率先垂範」をモットーとした総合的ソリューションの提供が生き残りの鍵となる。
(文責:上田泰史)
2-2
2-2.自動車を取り巻く環境変化と、将来を見据えた取り組み
講演者:日野 克浩氏 ダイハツ工業株式会社 生産技術部 機能部品生技室長
(1)自動車を取り巻く環境と将来
全自動車メーカーの若手技術者が一堂に会し、2030年の社会環境予測と自動車像について検討した。そして、環境ニーズへの対応法や夢の自動車実現のためのディスカッションを進めた。
その中で、①環境にやさしい、②安全技術向上、③車にこれまでにない付加価値をつける、の3点の意見集約ができた。
①に関しては、自動車に乗ることにより、空気をきれいにする車やボデイに集光機能パネルをつけ発電する車等のアイディアが出た。
②に関しては、本体のセンシング技術やそれに付加してGPSヤネットワークインフラによる高度の判断情報による、自動運転の技術等のアイディアが出てきた。
③の車の付加価値では、ベース構造(レゴブロックのようなもの)+オプションのモジュール追加・組み合わせにより、無駄のない顧客の欲する(付加価値のある)自動車を供給できるのではというアイディアが出た。
(2)自動車業界のものづくり現状と課題
大企業の海外進出に伴って海外に出る中小企業が多い。しかしながら、技術力はあるが海外進出できていない中小企業も多くある。現在、国内のものづくりのコスト競争力低下と空洞化が進んできている。ここに大きな課題がある。
(3)ダイハツ独自のサプライチェ-ン再構築と基盤強化
東大阪の中小企業は、モノづくり技術の宝庫である。ダイハツも東大阪にダイハツ東大阪モビリティーコラボレーションセンターを開設した。これは、高度商談の拠点である。国内の関連技術を結集させて、①~③までの将来技術を開発していきたい。
(文責:綾木光弘)
2-3
2-3.プレスト(レス)ネット工法による法面補強とものづくり
講演者:木越 正司氏 株式会社創建エンジニアリング代表取締役、技術士(建設)、工学博士
(1)斜面の崩壊対策への取組み経過
従来の斜面の崩壊対策は、斜面にコンクリートをふきつけていた。この場合、熟練工が実施する必要がある、メンテナンスが容易でない、緑化ができない等の問題がある。今展開しているプレスト(レス)ネット工法は、前述の問題を解決した工法である。
現在、プレスト(レス)ネット工法を、国内及び海外に展開を図っている。
(2)持続可能なものづくりを考える
1)「ものづくり」について
「ものづくり」とは、「物づくり」でない。発想、アイデアを具現化し、売ることである。
2)「持続可能なものづくり」とは
時代(時間軸)と共にニーズが変化していくことへの対応が必要である。また、以前のものより、高機能、高品質、低価格であることが重要である。
3)付加価値の限りない追求
その時代により、求められる価値は変化する。このため、社会情勢、環境価値等の変化に対応する必要である。例えば、現在では、CO2削減量等の数値化が求められており、今回展開している工法においても、CO2削減量を数値化し、公表している。
4)将来に向けたものづくりのあり方
価値の変化に対応が可能であることが必要である。また、貨幣価値以外の付加価値の指標の明示(数値化)等が必要になってくると考える。
(文責:苅谷英明)
2-4
2-4.橋梁の維持管理を題材に
講演者:山口 隆司氏 大阪市立大学大学院教授(建設系:橋梁)、博士(工学)
(1)進む橋梁の高齢化
大量生産されるものでなく、税金で作られる特殊なものである。作られてから50年以上を経過した橋梁が、今後増え続けていく状況にある。
(2)橋梁損傷の特徴
長期(50~100年)にわたって使用され、その後の外力評価は設計時には困難である。管理する橋梁の数が膨大で、疲労き裂発見が困難な損傷がある。一方、損傷の類型化が進められている。
(3)高耐久性橋梁
疲労設計や耐震設計に効率的なメンテナス戦略が求められる。明石海峡大橋のような2kmの橋梁から50mの橋梁まである。スマートストラクチャ、モニタリング技術、再生技術が必要。
(4)長寿命化に向けた課題・ニーズ
管理レベル(要求性能)の相違で、社会・経済的環境条件で寿命・維持管理のあり方は違う。
予算制約(LCC評価)、データの有効活用、技術の伝承、点検合理化(頻度、方法の適正化)が課題。
(5)長寿命化に必要な技術開発
予防保全技術として技術基準、モニタリング、がある。性能改善・性能回復技術、資産活用に関する技術(アセットマネジメント)、技術者養成のE-ラーニング、動機付けが挙げられる。
(6)重大な事項を防ぐには
予防保全として部材の損傷判定から性能診断へ繋げていく。情報の共有化が進んでいない。
FCM(Failure Critical Material)部材のケア、リダンダンシーの確保が必要である。
(7)維持管理におけるブレイクスルー
「何年この橋梁はもつか?」の問いに対して、データの蓄積、部材性能からシステム性能へ進む、信頼性工学、資産管理工学を経て、資産マネジメントへの道筋が必要である。
(文責:上田泰史)
3
3.パネルディスカッション
コーディネーター:石丸 公生 氏 技術士(化学)、
博士(工学)、株式会社 KRI元社長
パネリスト :上記 5氏
石丸氏:これまでの企業代表の方々のお話を聞いていて、持続可能なモノづくりに関しては、すでに進められているという印象を強くした。
藤本氏への質問として、エアコン分野では、技術的観点からみて、韓国・中国の技術に追いつかれているのか?また、エアコンのリサイクルは、他の家電とどのような違いがあるのか?
藤本氏:エアコン分野は摺合せ技術の部分があり、まだ追いつかれていない。当社では、5年分くらいの差別化技術のストックを保持して、優位性を保とうとしている。エアコンのリサイクル方式等は他の家電と同様であるが、リサイクル率が90%と非常に高いところに特徴がある。
石塚氏(建設):パネラーの方々の説明で固有の技術の大切さは非常によくわかったが、そうした技術の優位性にプラスして、日本の産業界全体を捉えたとき、政策誘導が非常に大事となってくるように考えるが?
日野氏:日本は材料費が高いが、これが安くなると競争力がつく。流通コストも含め、政策誘導による安価な材料入手、流通コストの低廉への誘導を望む。
藤本氏:海外でのマーケット創造が進むような政策誘導が大事。(一例として、中国に省エネ規制等規制ができるように誘導すること)
木越氏:CO2の評価や規制を厳密化するような政策誘導が大事。
川端氏(機械):日本の企業にとって、販売後のサービスやメンテナンス、各種データーの蓄積・解析が重要だと思うが?
日野氏:自動車は技術的にはコンピューターで情報を取り込めるが、個人情報とのせめぎあいと言える。
木越氏:維持管理は非常に重要な、サービスと考えている。
藤本氏:エアコンのメンテナンスは重要なことで、ITを利用して安く運用できる方法を用い現在実施しているが、さらに拡大展開を検討中。
川端氏:橋梁関連でのメンテナンスに関して、アイディアや望ましい方向性は?
山口氏:IT化を進めることで、実際に橋梁にセンサーを置いておくことが一般的であるが、設置自体に時間がかかる。こうしたセンサーの長期耐久性の実現が重要である。
上田氏:藤本氏への質問として、インバーター技術でエアコンの性能が大幅にアップしたと思うが?
藤本氏:今後の新規省エネ技術は、先進国モデルとして電化製品という枠組みから、設備という意識づけに切り替え、さらなる省エネを考えていく。新興国は、現在の先進国のモデルを普及させていくことが肝心である。
室中氏(環境):上田氏への質問として、資料P21におけるシュミレーションはどのようにやっていくのか?
P20のバックキャスティング法における何年か後のるべき姿を考えるうえで考慮すべきことは?
上田氏:一例をあげれば、自動車の製品普及シュミレーションとして、何年か後のガソリン車とHV車の比率の予測は、補助金等の配布動向で比率がどう変わっていくかを予測する方法等がある。
片山氏(金属):梅田氏、山口氏への質問。新興国に対抗して、これから安くて良いものを生産していかなければならないが、それを支える若い技術者を社会に送り出す立場にある大学の教員として、コメントをお願いしたい。
植田氏:これからの技術者像として、単なる技術のプロというだけではない、広い視野を持ったビジネス感覚のある人間を育てていきたい。
産業界へのお願いとして、ドクターの採用をぜひ検討していただきたい。どのようなドクターが良いのか、意見を聞いてみたい。
山口氏:土木分野は、もともと最先端の分野であったが、今は扱う内容が幅広くなりすぎて、かえって評価を低くしてしまっている。土木の原点に戻り、しっかりとした技術者を育てていきたい。
産業界への要望として、学生の採用に当たり、面接重視ではなく大学での専攻や活動を重視した方針に変えていただきたい。学生に社会へ飛び込むときの目標を持たせたい。
石丸氏:以下の問題提起をしたい。今後のエネルギー施策として、日本ではどうあるべきか、関西ではどうあるべきか、福島の失敗が、きちっと生かされていないように思う。パネラーの皆様の意見を聞きたい。
日野氏:今朝のテレビ番組でも放送していたが、ドイツの脱原発は30年前から議論していって、選択肢を百通り近く持ったうえでの結論である。日本はまだほんの2年の議論。ユーザー側にも選択肢を与えてほしい。
木越氏:電力の問題をもっとしっかりと考えるべきである。例えば、南面傾斜地の遊休地とかに太陽光パネルを設置するとか、方法はまだまだいくらでもある。
藤本氏:ダイキンでは、ここ数年で15%の省エネを実現させたが、そろそろ限界に近づいている。例えば、地熱発電の技術は日本がNo.1であるが、実用化という点では、インドネシアやアイスランドの方が進んでいる。技術開発の競争力を維持するうえでも、国内での実用化を進めないといけない。
石丸氏:それでは、大学側からその点についてお聞きしたい。
梅田氏:大阪大学では、エネルギー施策を提言するためのプロジェクトもできている。特に、環境重視でいくのか、安定供給重視でいくのかの選択肢について議論を深めている。
山口氏:土木関係では、洋上風力発電のプロジェクトが動き始めている。
石丸氏:近畿本部環境研究会のプロジェクト発足の説明(山本幹事が補足説明)
閉
閉会の挨拶
安カ川 常孝氏 近畿本部 環境研究会代表
産業形態は時代とともに多様化しているが、いつもエネルギーがそのベースになっている。政府は2030年のエネルギー構成について議論しているが、その前段階の2020年の議論がない。本年1月の環境研究会のシンポジウムで、今回の提言を初めて示した。その基本は、技術士として、中立的に、経験を生かして、さらに大局的提言ができないかと考えた。技術士が提案をすることは、その職務の大事な一部であると考えている。
今回のシンポジウムもエネルギー対応の根本方針を考える上で、非常に有意義なものになったと関係の方々に感謝している。
(文責:綾木光弘)