関西での電力安定供給のイノベーションを目指して
著者: 綾木 光弘 講演者: 鈴木 胖、長尾 謙吉、安ヵ川 常孝、大岡 五三實、石川 浩次、黒田 幸夫、山本 泰三、石丸 公生 / 講演日: 2012年10月18日 / カテゴリ: セミナー / 更新日時: 2013年03月03日
エネルギー・環境シンポジウム
関西での電力安定供給のイノベーションを目指して
日 時:平成24年10月18日(木)13時30分~17時
場 所:大阪科学技術センター 8F大ホール
参加者:60名
主 催:公益社団法人 日本技術士会近畿本部 環境研究会
共 催:公益社団法人 日本技術士会近畿本部
目次
1.基調講演 関西地域の特性と電力の選択肢について 長尾 謙吉氏
2.発表 大阪夢州での1000万kWのLNG火力発電所の建設計画について
2-1 計画の概要と検討経過 安ヵ川 常孝氏
2-2 計画諸元の概要 大岡 五三實氏
2-3 計画地の地盤特性と地盤改良工法、地盤環境・防災対策について 石川 浩次氏
2-4 戦略的環境アセスメント(SEA)推進のポイント 黒田 幸夫氏
2-5 地域の合意形成を目指した取組み方策
山本 泰三氏
3.パネルディスカッション (コーディネーター) 鈴木 胖氏
( コメンテーター) 石丸公生氏
1.基調講演 関西地域の特性と電力の選択肢について
長尾 謙吉氏 大阪市立大学経済学部教授(経済地理学)
専門分野は、経済地理学を専門とし、産業立地や都市・地域経済について研究。
① グローバルに考え、ローカルに行動するとは?
運動家や研究者を引きつける魅力的なフレーズだが、問題点はないのか?
グローバルに考えるということと、ローカルに考えるということを比較検討してみる。
ローカルに行動するということと、グローバルに行動するということをそれぞれ比較検討してみる。
ベスト・プラクティスは、地理的に多様となる可能性が大となる方向であると考える。
② 電力について
(日本国内で原子力が担ってきた)これほどの電力は、いくら急いで開発しても風力や太陽光などの再生可能エネルギーだけで作り出すことなどできないから、「現実的な方法としては、本当は下げたい輸入化石燃料への依存度を、逆に上げていくしかないだろう。」という著書がある。
そこには、これから苦しい時期が続く。しかしこんなときにこそ、効果的な選択肢を現実的に評価していくことが、この試練への対処を始めるための最善の道となるのである。とも記述されている。この考え方を取るべきだと、私も考える。
③ 関西経済の特徴
東京一極集中のもとでの相対的衰退。ただし、世界的にみて、規模はかなり大きい。
関西の産業構造の多様性は、ある意味ではバランスが取れているという側面もある。
しかしながら、東京一極集中は、商社や広告など他組織との連関に比重が高い業務で顕著である。選択的人口移動が進んでいる。
④ 社会資本整備と電力供給についての考察
社会的(共通)資本:道路、港湾、灯台、上下水道、公園など。
これらは、私的な動機付けのみでは整備が困難であり、資本の第二次循環が必要である。
⑤ 再生可能エネルギーの実践
非大都市圏の恵まれた条件の地域では価値が高い。岩手県葛巻町(バイオマスなど)、長野県飯田市(太陽光など)等の実例がある。
⑥ 電力供給体制の歴史と地理
大規模発電所の立地固着性とネットワークの特質を考慮する必要がある。そして、ローカルなベストプラクティスを目指していく必要がある。
2.発表 大阪夢州での1000万kWのLNG火力発電所の建設計画について
2-1
2-1 計画の概要と検討経過
安ヵ川 常孝氏 環境研究会代表幹事、技術士(建設、環境、衛生、総合)
環境研究会として、これまで関連の活動経緯を説明させていただく。
2002年から 特別講演会として、第1回:植田和弘京都大学経済学部教授、第3回:鈴木胖姫路工業大学学長(当時)等で、多様な技術者等の交流・ネットワーク化を行った。
また、2008年からは、ホームページ「PE-eco」を通して、講演要旨の公開を行い知識の構造化を目指した。一方、2010年には「関西を元気に! 技術士の提言」としてフジサンケイビジネスiへの連載や、関連シンポジウムを2回開催して、シンクタンクを目指して活動してきた。
そうした活動の成果として、このたび、大阪湾岸に総量で最大1000万kWの発電所をという提言を行なうに至った。今後有望な化石燃料としては、LNGしかなく、燃料費用の負担を考えて、今回提案の燃焼方式となった。
今回、ガスタービン発電(GCC)を提言したが、この方式は省エネ性、環境保全性、経済性、安定性(これまでの実績)の各項目について優れた方式であるといえる。大阪湾に50万KWの発電機を2つで1セットにし、それを10セット設置するというものである。
大阪湾の夢洲を第一候補として考え、地産地消の都市型発電システムである。
2-2 計画諸元の概要
大岡 五三實氏 技術士(機械)、元大阪ガス株式会社、徳島大学元教授
今回の提言の背景をまず述べたい。
目的と条件として、原子力発電削減に代る大容量電力の補完の必要性、老朽・低効率の既設発電所の更新の検討、高効率耐震・津波対策モデル発電所の検討、現関西電力のLNG発電所への更新と矛盾はしない、送配電網は対象外とするという内容がある。
そして、発電燃料としての天然ガスとLNGの市場性の特徴、現状と将来の見通しを検討し、エネルギー需要から見た高効率発電の必然性や大・中規模集中発電か、分散コジェネか、開発途上国への協力の可能性等の要素も検討した。
今回の検討では大阪市舞洲地区を発電所の候補に挙げ、出来るだけ能力を大きくする意味で1,000万キロワットとしたが、実際の実施計画に当たっては、能力を変更したり、幾つかの地域に分散することも考えられる。また、当然ながら現在進められている関西電力株式会社の更新計画とも整合性のある必要があろう。
技術的な検討事項として、天然ガス(LNG)によるGCC1000万kW(50万kW×2×10)を検討したが、環境アセスメントの総枠取りや安全性・信頼性、工期の短縮の意味でも、ユニット方式(50万kW×2)の建設展開も検討した。年間発電量として526億kWh(日本の4.8%相当)とし、年間LNG輸入量を630万トンと想定した。
発電方式として、高効率コンバインドサイクル(A-GTCC発電)、三菱M501-J形 TIT=1,600℃、蒸気冷却方式、能力500MW/基(将来)、発電効率55%(HHV)を想定検討した。主要設備として、復水設備として、復水冷却負荷 4,000MW(3,440Gcal 毎時)相当を想定し、空冷冷水塔方式でスプレイ冷却併用が適切と初期的には考えている。
また、ボイラー給水用補給水(純水)では、凝縮水無回収時:1,050トン(ボイラー給水量 7,300トン/h)規模か考えられる。ガス供給導管: 600A 7MPa 延長 30km
(流量 165万m3/h)を考え、LNG関連(参考)では、①LNGタンカー:6万~7万DWT(4~8隻)、②受入バース:2基以上:年間LNG荷上げ回数:約100回、③LNG受入タンク容量:23万kℓ×8基、④気化設備:気化能力240トン毎時×10基を考えた。
環境への影響として、燃焼排ガス量と排ガス組成、CO2排出量とNOx排出量や最大発電時放熱負荷(熱汚染)も検討した。
こうしたことを通じて、技術士に期待される業務内容としては、調査・計画および設計・施工コンサルティング、環境アセスメント、安全、衛生、災害対策、等の専門技術と考える。
2-3
2-3 計画地の地盤特性と地盤改良工法、地盤環境・防災対策について
石川 浩次氏 技術士(建設、応用理学)、元中央開発株式会社、 環境研究会幹事
まず、事業建設計画地における必要な地盤特性の把握が必要である。すなわち、地盤環境特性や、埋立地盤特性と地震時の液状化の可能性、必要な地盤改良工法、必要な防災対策等を検討する必要がある。大阪地下鉄中央線沿いの広範囲地盤特性、舞洲地区の地盤特性を検討した。舞洲地区では、重要構造物や重量構造物に対しては、12m以上の基礎杭が必要と考えられる。
地盤環境特性として、大阪市港湾局のデーターがある。それに基づき、埋立地盤改良及び液状化防止対策工法の提案が必要となる。
また、地震動と耐震・津波対策について検討要素として、近年、南海トラフ巨大地震(5連動予測)の見直しが、中央防災会議で行われ、各自治体でも、この巨大地震の地震動と津波高さの詳細検討と防波堤や埋め立て地盤の津波防災対策の見直しが行われている。
また、重要・重量構造物基礎と付属のパイプラインの地震時の動的特性・耐震特性を考慮した検討も必要である.その他の検討事項として、施工時の杭基礎工事の振動騒音対策や、施工時の汚水浸出防止対策、構造物運転稼働による地盤振動対策も必要となる。
2-4 戦略的環境アセスメント(SEA)推進のポイント
黒田 幸夫氏 技術士(建設、総合) (一財)日本気象協会関西支社担当部長
環境影響評価(アセスメント)制度
大阪府・大阪市の条例が1997年に法制定され、1999年より施行されている。発電所の場合も、事業が環境の保全に十分に配慮して行われるようにすることが定められている。
アセスメントの手続きとして、SEA(配慮書)が2013年より必要となる。内容的には、次の順の手続きがある。
方法書:知事意見(90日)、住民意見(2週間)、経済産業省の審査勧告(180日)
準備書:同様に(90日)(2週間)(270日)
評価書:経済産業省の審査)(30日)
発電所アセス手続きを迅速化するために、環境省の審査を経済産業省でも審査できる、発電所の更新時は手続きの簡素化する等の動きがある。
SEAとして、事業の計画段階での検討(配慮書)、環境配慮事項の整理→検討、→重大な環境影響の回避または低減が必要となる。
実施主体は、地方公共団体、国(環境省+経済産業省)である。その評価文書の作成プロセスも近々発表予定である。
望ましいSEAのために検討すべきこと
目標として、良い事業であり、従来の考え方にとらわれず事実に向き合い、地域全体の理解・納得・支援を得ること、環境の保全を一義に考慮し、丁寧で的確・迅速な手続きを訴求すること。
事業主体における技術士として、専門性があり、独立した(中立の)第三者であり、守秘義務(職業上の)も求められる。
SEA手続きの適切な活用方法として、情報の公開と共有を行う。
複数案の選択肢の絞込み、理解・納得・支援が得られる新しい協働の推進が必要となる。
また、適切な手順のもとに早期着工・建設を心がけ、技術対策の進展を図りながら、迷惑施設ではなく、電力価格の低減、安定供給に貢献するということで、政府も発電所のアセスの短縮化を支援することになる。
2-5 地域の合意形成を目指した取組み方策
山本 泰三氏 技術士(環境、総合) 環境研究会副代表
関西でのIPP(独立系発電)事業の環境アセスメントのこれまでの履歴として、関電大阪南港:1990年運転開始(60万kW×3)、大阪ガスIPP:1998年条例 新設アセス(GCC:15万kW)、大阪ガス泉北:2006年新設(GCC:27.5万kW×4)、関電堺港:1964年石油 →LNG→2006年更新アセス(GCC:40万kW×5)、関電姫路第二:1963年石油 →LNG→2009年更新アセス(GCC:49万kW×6)等の実績がある。
大阪・夢洲での経済性と環境性(試算)
SEA取り組みの推進状況
2012年.1月に環境研究会の提言(1000万kWの発電)を実施し、2012年.4月には「環境管理」4月号に論文発表「LNG火力発電所の電力安定供給に関する一考察」、5月にはホームページ「エコ・サポート通信」に「緊急報告」発表した。
このようにして、事業化検討のために検討組織のあり方を検討し、環境省、経済産業省、東京都、大阪市等へのヒアリングも実施した。
そして、早期着工・建設・運転のために、SEA手続き(環境配慮)の適切な活用を検討した。
具体的には、情報の公開と共有、早期着工・建設できる事業計画の設計に関しては、実績のあるGCC50万kW×ユニット型発電所で計画し、電力価格の低減(旧型火力の更新)、安定供給実現を狙った。
事業実施に向け、関係各位のご協力を願いたい。
3.パネルディスカッション
コーディネーター:鈴木 胖氏 地球環境研究戦略研究機関(IGES)関西研究センター所長、大阪大学名誉教授
コメンテーター :石丸 公生氏 技術士(化学)株式会社KRI元社長
長尾 謙吉氏 大阪市立大学経済学部教授(経済地理学)
パネリスト :上記 5名の発表者(技術士)
ディスカッションに先立ち、これまでの技術士会の取り組みを中心とする経緯説明がなされた。
今回のエネルギー問題は、2つの大きなテーマがあると認識している。一つは、再生可能エネルギーをどうするかという問題と、他の一つは、そのつなぎとしての化石燃料への依存をどのようにしていくのかというテーマである。後者は早期に対応しないといけないテーマである。その中心原料がLNGであるということができる。
また、これまでの経緯として、東京湾、伊勢湾、大阪湾の3つの湾での発電事情を比較すると、大阪湾は、他の湾に比較して、以前から火力発電での新発電所新規建設は難しくなっていた。このことにより、原子力発電の依存比率が上がったという経緯もある。
石丸氏;福島の震災以降、一般人も電力に興味を持つようになってきた。ただ、情に訴える議論が多く、エネルギーの本来あるべき姿をもっと冷静に、新興国の事情も含め、グローバルに考えなければいけない。関西では原発依存は能力的には30%に達している。また、実質は50%ともいえる状況であった。ここにきて、今後の対応として1000万kWの発電も可能であり、しっかりと議論する必要がある。
鈴木氏;それでは、これより会場からの意見や質問を受けたいと思う。
松川氏;関電の和歌山で、300万kW発電が採算性の理由で一時的にストップしている。先日、再開したいとの新聞記事が載っていたが・・・この件、どのように考えられるか?
鈴木氏;この件は、国の方針が決まっていない状況では、当事者は発言しにくいという事情がある。
大岡氏;和歌山県は再稼働を要望しているのではないかと思う。
今回の夢洲での設置案に話題を戻すと、排熱負荷の問題をどうするか?が課題である認識している。
安カ川氏;1000万kWの根拠としては、現在稼働中の発電機のリニューアル関連で500万KW、関電若狭の原発が使用出来なくなるのでは、というところから来る値が500万KWであり、合計1000万KWという値が出てきた。
鈴木氏;会場から、その他のご意見がありますか?
井上氏;この話題は、今後どのように繋がっていくのか?事業主体は、どこと考えればよいか? 関電? 大阪府・市? IPP?
安カ川氏;現時点で、事業主体については全く白紙状態である。これまでのやり方は、予算確保が先にきて、予算を確保した団体が自動的に事業主体となり、事業を開始した。
今回は、採算性や様々なことをまず検討して、纏めを作る。いわば事業主体は後から決まってくるような構図を考えている。
古川氏;原料のLNGの入手に関して、将来予測をどのようにしているのか?
鈴木氏;化石燃料の内、石炭を検討候補から除いて考えると、LNGは当面資源として十分である。ただ、まずは環境問題からの制限が、議論の最初に来ると考えている。本来原発は、その意味ではよい選択肢であったが、、、
藤原氏(機械);ドイツでは、自然エネルギーの検討が進んでいる。日本での検討の余地はあるのか?
安カ川氏;時間軸・空間軸の考えを入れないといけない。2030年に日本で、自然エネルギーがスケジュールの遡上に乗っていけるのか?ドイツでは、20年前から検討しており、その時間軸から行くと、日本では2050年にやっとそれが遡上に乗ることになる。
鈴木氏;風車でも、ドイツがトップを走っている。日本は20年遅れている。
藤原氏;それでも、自然エネルギーをLNG等のバックアップとして、両方パラで開発していくのが良いのでは?枯渇する化石燃料のエネルギー源は不安材料を抱えているのではないか?
石丸氏;石油は、40年持たないと考えられている。LNGは、80年はもつ。
鈴木氏;石丸氏の言われたように、大局的に説明しないと、唐突に、いきなり1000万kWのLNGでは、困る。
末利氏(化学);私はLNG案に賛成したい。さて、電力貯蔵のことでお尋ねしたい。NAS電池が東北電力で開発されたが、まだ使いこなせていいない状況だと聞いている。この電池の可能性についてはどのように判断されるか?
鈴木氏;二次電池の話であるが、Li電池も含め、電池の技術進歩の可能性が高いと考えている。期待できるのではと思っているが、今後を見守っていきたい。現時点では、Li電池の開発でも、電子の動き等の基礎原理がまだわかっていない状況であり、そこが明確にならないといけない。
鈴木氏総括;安カ川氏の説明にもあったように、どのようにこれから準備していくのか?public acceptance を得るために、技術士の役割が非常に重要となってくる。中立的に、かつ技術的に環境評価に入っていければと考える。
本日は、充実したパネルディスカッションを行うことができ、関係各位のご協力に感謝したい。
文責 綾木光弘