超音波霧化分離法の実用化機の普及について

著者: 藤橋 雅尚 講演者: 松浦 一雄  /  講演日: 2012年12月01日 /  カテゴリ: 講演会  /  更新日時: 2013年03月03日

  

化学部会(201212月度)研修会報告

  時 : 2012121日(土) 15:0018:00
テーマ : 講演会  

 

講演2 超音波霧化分離法の実用化機の普及について

松浦 一雄   技術士(生物工学)、工学博士、独立行政法人産業技術研究所 客員研究員
ナノミストテクノロジーズ株式会社 代表取締役社長

はじめに

第二次オイルショックの教訓から、バイオマスリアクタで得られるエタノールを効率よく取り出すことが出来れば、石油代替燃料にすることが可能ではないかということに強い興味を持った。エタノール発酵はでんぷん質原料から高い生産性で製造できるが、蒸留精製に要する熱量が全体の4050%を占めることから、効率の良い分離精製技術として超音波霧化分離法に着目し開発した。本日は、省エネルギー濃縮への応用と展開を含めてお話しする。

1.霧化分離について

液体を超音波等で霧化すると、気液界面が大きくなるので蒸発速度を大きくすることができることを利用し、得た霧を気中で加熱することによる高効率でのエタノール気化の研究からスタートした。その後、霧化に要するエネルギーは気化エネルギーの1/7程度であることから、省エネルギー精製への展開を含めて研究開発を行った。

第一段階として一般的な蒸留実験装置を改造し、霧化器→冷却器→受器→ガス加熱器→(霧化器)の系で、キャリアガスを循環しながら超音波により霧化させる方式で気液の平衡関係(図1)を調べた。蒸留による気液平衡線図(実線)とは設定条件が異なるので厳密な比較はできないが次の特徴が見えた。
   
・低濃度部では気液平衡線図よりエタノール濃度が低い
   
・高濃度部では気液平衡線図よりエタノール濃度が高い
   
・温度が高い程、気液平衡線図に近い平衡状態を得られる

    図1 エタノール水系での気液平衡

 

しかしその後の研究の結果、霧化ミストのサイズの影響が大きいことが判明(nmサイズのミストはエタノールリッチ、μm サイズのミストは水リッチ)したことと、設定していた冷却用冷媒(-5℃で冷却)ではnmサイズのミストを捕集しきれていなかったことなど、問題点がわかりデータの取り直しを行なって、図2の気液平衡図を得た。
(注意:図1,2で、▲と●の割り付けが逆)

図2のデータから次がわかり、霧化分離法について特許の取得を行う事ができた。
  ①温度が高い程、気液分離効果が低い(図1とは逆)
  ②10℃の場合,エタノールを100%分離できる
この結果については、水同士の水素結合(クラスター)が、エタノールとの水素結合より強いことから、低温程エタノールが優先して霧化される結果と考えている。

 図2 エタノール水系での気液平衡(補正版)

2.実用化について

霧化分離法は図3に示す分類ができ、種々の応用を提案できる。第1象限はここまでお話ししてきた内容である。第2,3象限は、海水から水と塩の分離、糖液の脱水(濃縮)、発酵で得た有機酸の濃縮、温泉水からの有用成分の分離、アンモニアのストリッピング、エタノール添加ガソリンでの無駄な蒸発ロス防止のためのガソリン中低沸成分の除去、第4象限ではガスマス分析への適用など、様々な省エネ設備を提案できる可能性を持っている。

 図3 超音波霧化分離の、用途の分類

超音波霧化分離法の採用に際して他の方法と比較する必要があるが、技術面でのポイントはいかにしてミストを小さくするかである。技術面の評価が終わった後はメリットの評価となるが、コスト面については海水の濃縮において蒸留法を100とすると、RO法は20、ミスト法は12となり安価に目的を達成できることを提案できる。
さらにコスト面以外の要因として、低温での操作のため品質劣化を防止できること、省エネ性が高いこと(霧化用の電力だけであり、蒸発用の加熱などが不要)、余熱工程不要に伴いスタート・ストップの時間が短いこと、霧化のレスポンスが早くしかも動力源が電気のためオンラインでの制御が容易であること、などを上げることができトータルでメリットを比較していただければありがたい。

質疑応答

Q ミストサイズの影響が強いので分級設備が必要と考える。分級しないですむ方法はあるか。
A 分級については現時点でコストが殆どかかっておらず、設置してはいるが問題は小さい。

Q 水のクラスターについて、一次元で表現しておられたがそれで良いのか。
A 3次元ではあるがnmサイズまで微粒化するため、1次元で表現できると考えている。

Q 調味液など液体の種類によって、表面張力の影響が大きいと考えるが温度との関係は。
A 温度の影響はあり、必要な場合は温度コントロールをしている。

Q ミスト粒径のシャープさと、分離効率の関係が大きいと思うがコントロールをどうしているのか。
A 測定値はあるので設計段階で配慮し、テスト運転で確認している。

文責 藤橋雅尚、監修 松浦一雄



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