中小企業の海外展開と問題点

著者: 藤橋 講演者: 谷川 友彦  /  講演日: 2013年04月17日 /  カテゴリ: 講演会  /  更新日時: 2013年05月17日

 

近畿本部 化学部会(2013月度)講演会報告

  時 : 2013417日(金) 18:3019:40
  所 :公益社団法人日本技術士会 近畿本部 会議室

 

講演中小企業の海外展開と問題点

谷川 友彦  前 無錫德松科技有限公司 董事長、 元 株式会社 MORESCO 常務取締役

1.株式会社MORESCOの紹介

株式会社MORESCOは、1958年に松村石油株式会社から研究開発部門が分離独立して設立した株式会社松村石油研究所が起源である。MORESCOは水と油と高分子のスペシャリストとして、オンリーワンのものづくりで新たな可能性に挑戦している。主力製品は特殊潤滑油やホットメルト接着剤(図1)であり、国内2工場、国内関係会社4社、国外関連会社7社で構成している。東証1部に上場であるが、連結売上200億円レベルの中小企業と考えてもらって良い。

  図1 製品別 売上高割合

演者は、研究や営業・企画部門を担当してきたが、平成9年から海外事業担当となり海外関係会社設立に携わった。今年3月でMORESCO全ての業務から退任したが、海外展開を担当した経験を主体にお話しをさせていただく。

2.海外展開にあたって

製品・技術は次の過程を経て発展し成熟に向かっていく。
  ○技術導入により国内で生産
  ○国内販売を通じて製品を標準化しながら市場を確保
  ○競争力がついてくれば先進国や発展途上国への輸出を通じて販売を拡大
  ○コスト競争のため海外生産を開始
  ○成熟に近づく時点で新製品を開発し国内生産に回帰
この過程を実現するための道筋を図2に示す。

  図2 海外展開の道筋

3.タイ現地法人の設立

初めての海外法人を1995年タイに設立した。きっかけは、現地代理店の要請とライバル企業の進出であった。進出にあたり初めてのことで不安があり、小さく産んで大きく育てる思想を置いて、次を決定した。
  ○損失の限界値を設定
  ○責任者の選定(技術、販売、財務、マネジメント)
  ○将来問題への対応の方針

当初資本金は2000万円(その後、与信額1億円にアップ)とし、特殊潤滑油の現地生産と販売を開始した。しかし1997年のバーツ崩壊の影響を大きく受け、タイのマーケットだけでは支えきれない状況になった。このため、日本への逆輸入や近隣諸国への輸出を推進。新工場建設を機に同業他社品のOEM生産、工場共同運営を経営方針とし、発展してきた。

タイの市場環境は、10%以下の華人が経済の8090%を握っていること、外資製造業には業務制限があること、従業員はたてまえ社会(本音を言わない)で学歴社会であることなど、適応すべき課題は種々あったが、ASEANAFTAへの対応、研究開発機能の設置と強化、製品ラインナップの拡大などにより対応できた。

4.技術提携による、台湾への進出

輸出販売では採算が合わなくなってきたことや、技術サポート面に課題があったので台湾企業と提携して現地生産を実施した。しかし、既存商品の競争力低下や顧客が大陸に進出したことによる空洞化に直面し、大陸に共同で進出する合意を結んだ。

5.中国への進出

台湾企業と共同でFS(現地調査)を開始した。JETROの協力による現地調査と現地政府ヒアリング(上海、昆山、蘇州、無錫)を行い、無錫に決定して会社設立手続きを行った。しかし、現地政府担当者(窓口担当者としての付合いではなく共同作業者として)からの情報収集不足もあって十分なFSが出来ておらず、最初から資金不足に陥るなど日本と中国との常識違いへの戸惑いを含め、問題多発に苦しんだ。

最大の失敗は、建物がスケルトン(工事には内装や清掃は含まれていない)であったことであり、内装費として建物の30%に相当する費用が追加となって資本金が底をついた。他にも設計・管理・工事の分担はあっても機能していないこと、工事日程には詳細設定が無いこと、クレームはつけられた箇所への対応のみ、社員と工事会社の癒着など多々問題があった。

経営開始後も台湾サイトとの経営方針の相違、資金不足への対応、年間30%もの離職があることなどに悩んだ。しかし将来の経営地盤を固めるため幹部社員を対象とした日本での長期間の教育(1~2年)により意識を改革した。親会社の主導権や利益配分の矛盾への対応には、販社を分離して対応した。

太湖の水質悪化とアオコ発生に起因する環境保全のため、化学工場の新設と生産能力を増強を規制している。本当の原因は農業排水や生活排水にあると言えるが、生産能力を上げたいのなら工場移転も検討せざるをえない状況にあり、現在検討中である。

6.その他の国について

アメリカは、契約社会と言われているがこれは破綻時に対抗するための準備である。、現地ではPL保険は消費者に直接売る以外は問題視していない。米国は消費社会であるが、日本よりものを大切に使うことや、間口は広いが入ろうとすると奥が狭くて新規参入が困難であるなどの特徴がある。

インドネシアはタイ同様華人支配の社会であり華人とのネットワークが大切である。また使用人は資本家とは全く違うことや、面従腹背であることなどに留意が必要である。

7.海外進出にあたって

いずれの国でも政府のコントロールと国民性によって中身は全く異なっている。日本の親会社が現地の事情を理解し、現地法人の経営方針や方向性について責任を持って判断し、明確に示すことが成功につながると考える。

私事に近いが、2010年の中国経済百名傑出人物(100選)に選出され表彰を受けた。外国人が初めて表彰されたが、なぜ選出されたのかは不明。日本人は3名であり人民大会堂で表彰式がなされるとのことであるので出席したことを報告する。

Q&A

Q 技術流出をどうやって防止しているか。
A 材料名を一部ブラックボックス化するなどの対策をしているが、ライバル企業への転職例もありどうしようもない。
  ホンダが模造品の品質を調べ自社パーツに採用した例もある。

Q 資金不足について、ゼネコンや銀行から借りる方法は無いのか。
A ドルは資本財のみが対象であるが、人民元での借り入れで費用や国内資材調達に利用可。

Q 太湖のアオコについて、対策はどうなっているのか。
A 流入河川はあるが、流出河川のない湖のため浄化機能が低く改善は困難と思う。
  水道水源を太湖から揚子江に変更し、周辺の化学品使用を規制して対応している。

(文責 藤橋雅尚、監修 谷川友彦


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