色材とは、おもしろきかな!
近畿本部 化学部会(2013年6月度)講演会報告
日 時 : 2013年6月27日(木) 18:00~20:00
場 所 : K of K’s 参加者:18名
講演 :色材とは、おもしろきかな !
堂道 剛 技術士(化学部門) 富士色素株式会社
1.色材を使用する分野
色材は顔料、塗料、印刷インキ、化粧品、各種添加剤、繊維、紙、建材、電子部材の電子先端材料(LED照明、有機EL、色素増感太陽電池など)に至る、原材料や中間製品など幅広い領域で使われている。
2.色の発現と、顔料・染料
色の三原色(赤・黄・青)は加色すると黒の方向に進む(減法混合)。一方、光の三原色(赤・緑・青)は加色すると白の方向に進む(加色混合)ことはご承知のとおりである。
色は色素の表面で、反射される特定波長の光の色を見ることで発現する。色材とは色をつける材料・着色材のことであり、染料と顔料がある。染料は色材の中で水や油に溶けるものを称し、顔料は水や油に不溶のものの総称である。インクなどの場合、図1に示すように、顔料は色素の粒子による反射や拡散の影響を受けずに、色素粒子を透過できた光を見ており、染料では溶解した染料分子の持つ電子トンネルを透過した光を見ている。
図1 顔料と染料の光学的性質
3.顔料について
顔料は溶解していないので、染料と比べると化学的に媒体の影響を受けにくい特徴があることと、ナノ加工技術を活用して種々の機能を付加できる特徴があることなど、大きな可能性をもっており、開発が進んでいる。顔料を分類すると図2のようになり、有機顔料をさらに分類すると、複素環式顔料、アゾ顔料、金属錯体顔料などに別れる。
図2 顔料の分類
染料についても、分子の溶解性を小さくして顔料に加工することにより新しい機能を付与出来る。溶解性を小さくするための方法として、強力な水素結合を付与して溶解性を奪う方法、分子量を増大させる方法(R-N=N-R → R-N=N-R-N=N-R , R-N=N-CONH-R-NHOC-N=N-R など)、レーキ化により不溶性塩を生成させる方法など、多彩な技術が展開されている。
4.顔料の分散について
顔料の粉体は、結晶などの一次粒子(0.1~1μ)が乾燥工程で凝集し、二次粒子(凝集体)となっているので、分散させて一次粒子に戻す必要があり、通常次の三段階のステップで行う。
① ぬれ(湿潤):顔料表面の空気層を溶媒、樹脂等に置き換える。
② 解砕:分散機を用いて、顔料凝集体を一次粒子まで解砕する
③ 安定化:一次粒子まで分散した顔料を、顔料表面の電気的反発力と吸着分散剤、樹脂の立体的反発力にて分散系で安定化させる。(図3参照)
図3 分散した粒子の安定化
顔料粒子がブラウン運動の影響をうける100nmレベルまで解砕(60~70nmが最も良い)し、分散剤をうまく加えると、塗膜のばらつきや表面の凸凹がなくなり白ぼけが発生しないなど安定性が良くなる。このように顔料を粒子レベルで設計すると従来にない特徴が発現する。
5.顔料分散技術 応用例
5-1 カラーフィルターレジスト系への応用
表面伝導型電子放出素子ディスプレイ(SED)などに顔料分散技術を適用した。SED(surface-conduction electron-emitter display) とは電解放出ディスプレー(FED)の一種であり、パネルに使われる色素膜の公差は1~3μmが求められる。本件は実用化寸前まで進んだが、最終段階で採用が見送られ残念な結果となっている。
5-2 インクジェット用のインクへの応用
高耐久性(20年インクなど)と色彩効果の良い色素が求められており、要求される性能を満たすため次を行った。
(A)インク顔料の粒子径をそろえる
(B)樹脂によるカプセル化をおこなう
分散技術を適用した結果、次の実績を得ることができ採用となった。
①インク皮膜中の顔料の光散乱が減少し色彩性が改善
②カプセル樹脂によりインク皮膜の耐久性向上と顔料同士や印刷機材との接着性改善
③用紙への浸透性制御の付与。
図4 ナノカプセル化工程モデル
5-3 ゾルゲル法による二層被覆
超微粒子酸化チタン、超微粒子酸化亜鉛の表面をSiO2、(CH3-SiO1.5)nのナノ粒子で二層被覆することで、次の機能性が付与され化粧品に使用されている。
①分酸性向上
②他の油剤などとのなじみ性向上
③紫外線遮蔽性向上
④触媒活性の抑制
⑤光耐久性向上
⑥撥水性向上
⑦使用感向上。
5-4 ミクロ粒子を表面被覆することによる耐湿堅牢性の付与
照明用LED素子は、青色LEDと黄色の蛍光体を組み合わせることにより白色を発現する。黄色の蛍光体には、耐湿堅牢性が求められ二重被覆層技術の活用により実用化出来ているが、堅牢性の劣る安価品に押されて停滞している。
5-5 その他
タルクなど、フレーク系の原料に顔料微粒子をゾルゲル法により被覆させる方法の開発などコア技術としての分散技術の実用化が進んでいる状態である。
6.まとめ
色材は社会の各分野で古くから実用化されており、染料の合成、顔料の合成、分散技術活用、と進化してきた。今後は「ナノ粒子」「ナノ分散」をキーワードとして、捺染用インクジェトインク、有機薄膜太陽電池、有機EL、LED、色素増感型太陽電池、リチウムイオン電池、導電性インク、光触媒などに対する機能性の付与に関連する分野への発展が期待されている。
Q&A
Q インクジェットは滲むことがあるが、どのような対応が考えられるか。
A インクのカプセル化など処方で改善しているが、紙側の表面加工の改善も大きい。
Q 失敗例を報告いただいたが、材料メーカーとそのユーザーの意見の違いの克服は。
A ユーザー要求する条件を、どうクリアするかにつきると思う。
(文責 藤橋雅尚、監修 堂道 剛)