海外発電事業計画の具体化と環境社会配慮指針の役割
著者: 山本 講演者: 森 和義 / 講演日: 2014年02月13日 / カテゴリ: 講演会 / 更新日時: 2014年02月20日
公益社団法人 日本技術士会近畿本部登録 環境研究会 第64回特別講演会要旨
日時;2014年2月13日(木)18時30分~20時30分
場所;大阪市 アーバネックス備後町ビル3階ホール
講演 海外発電事業計画の具体化と環境社会配慮指針の役割
講演者:森 和義氏 有限会社 森テクノマネジメント代表取締役
技術士(電気・電子、経営管理、総合技術監理)一般財団法人日本技術管理協会理事
森さんは10年近く、東南アジアなど海外・途上国の発電事業計画の立案に係り、日本のODA資金を受けて事業を作り上げる支援をして来られた。
1.途上国の電力マスタープラン作り
まず、それぞれの国の人口増加や経済発展の状況を整理し、国全体又は地域別に発電、送電などのマスタープランを作る必要がある。しかし、途上国単独でこれらの包括的計画を作り上げるのは立てるのは難しい。
マスタープランに盛り込むべき項目として、国家の経済計画、人口計画から、隣国との関係をも加味したエネルギー、電力の需要量、配電システムや料金体系、資金調達計画などをまとめた計画書をJICA、日本政府に提出する必要があり、これをサポートする業務に携わってきた。現在はミャンマーでの計画を海外コンサルとして支援しようとしている。
この計画には環境社会影響項目の抽出・評価とその緩和策も盛り込むことが必須である。
2.各国での計画事例
(1)インドネシアの例
a)需要量と供給量の推移を把握し、発電計画を立てる。インドネシアでは国内の安い石炭を使って発電計画を立てる例が多い。発電事業は政府計画の場合、ODA活用の場合などになる。計画のエンジニアリングサービスとしてフィジビリティスタディ(FS)を先行して行う場合もある。
この場合は事業性の評価として
①定量的評価として内部収益率EIRRやFIRRなどを重視する。
②定性的効果として事業の持つ意味、地域への影響・貢献などの評価やサイトの土地(発電、送電、変電)収容の見込みなども重要である。
b)インドラマユ火力は最新の石炭火力100kWで総事業費が2、200億円にも及ぶ事業であった。環境社会配慮ガイドラインへの対応は2010年に完成させた。事業は遅れ気味であるが、現在も続いている。
環境レビューはJICA助言委員会から出された。先に中国が建設した劣悪な石炭火力の近くに建設することから複合的影響を考慮すること、石炭の汚染対策としてモニタリングが必要なこと、自然環境への影響、送電線による生態系への影響、地域住民に対する補償や支援はJICAガイドラインに即していることなどが示された。
c)民間によるIPP(独立系発電事業)の場合は事業性や競争力のある事業であるか、強力なプロジェクト管理体制があるかなどが重要である。ジャワ島中部での石炭火力100万kW×2基で4,000億円の事業であり、日本の商社が参画して2012年着工したが、すでにかなり事業に遅れが出ているようである。
これは事業コストを押し上げることになり、安倍首相もかかわりを持っているが、先行きは厳しいとのことである。
(2)バングラデシュの例
天然ガスによる36万kWのGTCCが総事業費600億円で進んでいる。計画段階でのエンジニアリングサービス費は20億円で2010年に供与した。環境社会配慮はカテゴリAと重要度が高く、収益性も検討され、2016年運転開始を目指している。環境影響評価の手順はしっかりと対応できている。
出典:JICA評価書より作成
(3)スリランカでの事業
水力発電の計画であるが、生態系への影響が大きいことから、環境保全を優先させる必要がある。JICA助言委員会の意見は厳しいもので、実現が事実上ストップしている。
Q&A
講演時間が予定より早くなったので、夢洲での発電事業に係っているメンバーを含め、しっかりと意見交換できた。
Q:電力開発を目的として、環境配慮について
→JICAは無理をしない。環境配慮が全てに優先する。
Q:バングラデシュのGTCCの利用率75%、稼働率90%とあるが?
→利用率は全負荷に対する割合、稼働率は発電機がフルに動いていることを示している。
Q:体の政情不安などリスクが色々あるのでは?
→FSの中で全て取り上げてコンサルが提言する。インドネシアの場合はリスクを定義して、年俸にも記載している。経済さえイについても同様である。
Q:ジャワ島の計画は需要地から随分離れているが?
→需要地近くでの発電所計画も考えているようである。ジャワ湾には天然ガスが出るが、海外に売るようである。石炭も海沿いであればジャワ島から持ってくることができる。
当初は住民が住んでいなくて水のある土地で計画したが、送電による電圧低下も大きいし、50万Vでの建設費用も700億~800億円と巨額である。
→イランのLNGを持ってきて洋上で発電するPJTの検討が具体化してくる。日本のJOGMECなどが係ってくる。
Q:ジャワやバングラデシュの計画期間が長いが?
→エンジニアリングのスタートを含めている。ハードは3年以内で対応できる。土木工事などエンジニアリング要素が入っている。
→ODAの場合、計画の各段階で環境社会配慮など日本の承認を求める必要がある。
Q:インドネシアで中国が手がけた石炭火力が汚染物質が多いのは?
→当初、亜臨界の石炭火力を10数ヶ所で合計1,000万kW作る計画でスタートしたが、造水装置の故障や粉じん対策など問題が多く30%位しか動いていない。
Q:100万kWの最新型の石炭火力は?
→日本の高い技術を見せたかったのであろうが、予備品も高くなるし、しんどい。
Q:バングラデシュで下水道計画の支援に行ったが洪水のデータがなくて苦労した。
→電力の場合は電力省が絡んでいるので、ある程度データはある。下水は難しいでしょうね。
スリランカの場合はかつて英国の支配下での指導があったのか、データはあった。
Q:石炭のCCS(地下貯蔵)の検討は?
→まだやっていない。そこまで行っていない。
Q:モンゴルで石炭火力の計画があるが、褐炭で高性能の発電ができるのか
→石炭の質は重要である。液化、改質など、技術要素はあるが注意が必要。
Q:原発の輸出について
→日本ではコンサル会社も必ずしも積極的ではない。トルコはフランスのアレバ社と日本の共同受注である。日本技術管理協会では係っていない。
Q:途上国の電力需要の見通しは?
→需要増の流れは止められない。省エネの意識付けやトップランナー方式による最新設備(NEDOが係っている9の導入なども進める必要がある。経済、社会、文化などにも関連している。
まとめ(安ヵ川代表幹事)
貴重な体験をお聴きできて大変参考になった。
環境研究会が2012年1月14日のシンポジウムで提言した1,000万kWのGTCC計画が、2年後の2014年1月14日に環境影響評価法に基づくわが国第1号の環境配慮書として経済産業省に送付・公告した。
事業は環境研究会から株式会社エコ・サポートに継承した。現在環境省からの質問に回答する中で、事業の位置づけが明確になってきた。90日後の4月中旬には経済産業大臣意見が出てくる。技術士の任意団体での検討がここまで高く評価されたのである。
技術士は専門家としてリスクの抽出と評価だけでなく、政策にまで係る力を持っている。これからの展開が楽しみである。
(監修:森和義氏 作成:山本泰三)