大学発ベンチャー 株式会社カワノサイエンスの挑戦
著者: 上田 修史 講演者: 河野 誠 / 講演日: 2014年12月06日 / カテゴリ: 講演会 / 更新日時: 2014年12月23日
近畿本部化学部会(2014年12月度)講演会報告
日時:2014年12月06日(土)17:00~18:00
場所:KofKs’
講演:大学発ベンチャー 株式会社カワノサイエンスの挑戦
世界初の微粒子分析法:微粒子磁化率計・MAItyと粒径測定セル・ナノメジャー
河野 誠 氏 株式会社カワノサイエンス 取締役 研究開発部長 理学博士
1.株式会社カワノサイエンスを起業の経緯
発端は講師が大阪大学博士過程時代に、磁化率による新しい粒子評価法、ナノメジャーによる粒径測定法を開発した。卒業後に科学技術振興機構A-STEP若手起業家タイプに採択されて、大阪大学にて独自技術による粒子の受託分析事業と装置販売に向けての開発を進めた。平成26年5月、これまでの成果の一つとして会社を起業。受託測定からスタートし、2年後の装置販売を目指す。
2.粒子分析の現状
粒子評価法として粒径測定(粒度分布測定)が広く知られており、その測定には
①動的光散乱法
②各種顕微鏡観察法
③顕微鏡観察法によるブラウン運動解析(Particle Tracking法)
などがある。この現状には、「粒子径が同じでも成分が異なる粒子をどう評価する?」という課題がある。
3.これからの粒子分析
粒径による評価だけでなく物性評価が要求される。つまり、粒径が同じでも機能が異なる粒子の評価をすることである。また、正確に単一粒子評価をすることにより、
①製品の機能向上、歩留まり改善
②新たな機能の発見
③自社製品の“強み”を正確に把握などが可能になる。
4.磁化率による粒子分析
1)評価法の特徴
単一粒子毎に粒子の表面状態や内部組成を測定することにより、次のようなことが可能となった。
①表面被覆率
②粒子表面積
③細孔体積
④濡れ性・分散性
⑤組成均一性
⑥ラジカル・金属粒子(粒子内化学反応や特性の分析)
⑦粒度分布
2)磁化率について
磁化率とは物質の磁石としての性質をあらわす値で、次の式で示される。
M = cH M:磁化、:磁化率、H:磁場
不対電子やラジカルの性質の存在により常磁性を示すが、ほとんど物質は反磁性である。磁化率には規格化するものにより、モル磁化率、重量磁化率及び体積磁化率の3種類が存在する。このうち、単位体積当たりの磁化率である体積磁化率は次の加成性が成り立つのが特徴で、「粒子体積あたりの磁化率=粒子成分毎の磁化率の合計」となる。つまり、図1の式が成立する。
図1
粒子磁化率は表面修飾や吸着の影響で変化する(図2)。つまり、体積磁化率の加成性から、その変化量より、粒子の修飾量などを求めることができる。
図2
3)磁気泳動分析
電位差により粒子が移動する性質を利用する電気泳動法と同じように、磁化率を用いて磁気泳動が測定でき、その原理は図3で示す。
図3
4)磁化率測定で何が分かるか
◇品質管理の精度向上により、歩留まり改善、製造工程の最適化により利益率の向上が図れる。
◇新しい分析技術の導入で研究開発が促進され、他社に先駆けた製品開発が可能となる。 応用分野の例を下記に挙げる。
①インク:きれいに分散させるための加工をMAItyで数値化、品質管理の精度向上。
②化粧品・医薬:ファンデーションや原薬は粒子状で、高度な表面加工MAItyによる数値化で評価可能。
③多孔質材料:広い表面積が有効に働く材料に対し溶液に染み込む領域をMAItyで測定。
④電子材料:リチウム電池の電極性能を電極ではなく粒子材料の段階で磁化率にて評価。
5.ナノメジャーについて
1)特徴
①1粒子毎に粒径測定、②干渉縞で正確に校正、③迅速で正確な粒径測定、④着色溶液も原液で測定可能。
2)測定法モデル
図4
顕微鏡では粒子の平面像しか得られないが、ナノメジャーにより高さ情報も得られる(立体情報が分かる。図5参照)
図5
3)応用例
①トナーの測定
②血液中の成分分析に応用し、がん診断などに活用(図6)
図6
6.カワノサイエンスの現状とこれまで
1)保有技術として次の2点が紹介された。
◇ 磁化率による世界初の粒子評価技術
◇ ナノメジャーによる新しい粒子径評価技術
2)現状分析として下表を用いて説明された
7.今後、目指す事業の形
図7のビジネスモデルが紹介された。
図7
8.質疑応答
Q:粒子形状の影響は?
A:現状はまだ出来ていない。今後の検討課題。
Q:分級は可能か?
A:材質別に、将来は可能。
Q:異物検査としては?
A:配管からのサンプルで1万個の粒子数から1個を検出できる。
9.ソプラノ独唱会・忘年会
ご講演後、端山梨奈さん(プロのオペラ歌手、講師:河野先生の令夫人)によるオペラ・映画音楽・日本の唱歌などの独唱に酔いしれて、忘年会を楽しんだ。
作成:上田修史、監修:河野誠