植物工場の現状と今後の展望
著者: 奥村 勝、藤橋雅尚 講演者: 和田 光生 / 講演日: 2015年02月20日 / カテゴリ: 講演会 / 更新日時: 2015年05月09日
近畿本部 化学部会、登録 環境研究会、登録 関西食品技術士センター合同
第69回特別講演会
日時:2015年2月20日(金)18時30分~20時30分
場所:大阪ガスアーバネックス備後町ビル3階ホール
演題 : 植物工場の現状と今後の展望
講演者:大阪府立大学大学院 生命環境科学研究科講師 和田 光生(農学博士)
植物工場研究で産学官のコンソーシアムで中心的な役割を担っておられる和田講師に、植物工場の現状と大阪府立大学植物工場研究センターについて講演いただいた。
1.植物工場の現状
(1)植物工場とは
植物工場とは「環境および生育のモニタリングを基礎として、高度な環境制御を行うことにより、野菜等の植物の周年・計画生産が可能な栽培施設」と定義される。使用する光源により、太陽光利用型、太陽光・人工光併用型、完全人工光型の3つに分類される。我が国では植物工場(Plant factory)という呼称が一般的であるが、欧米ではPlant factoryは人工光型のみを示し、さらにfactoryという言葉はあまり好まれず、アーバンアグリカルチャー、シティファーミングなどと呼ばれている。また、太陽光型はグリーンハウスと言われるのが一般的である。
2014年現在、主にレタス等を栽培している商業生産の植物工場は、完全人工光型165、太陽光・人工光併用型33、太陽光利用型185箇所(参考)となっている。人工光型の市場規模は2013年予想で34億円であるが、2018年に201億円と見込まれている。
(2)植物工場野菜の特徴と課題
植物工場野菜の利点は、虫や異物混入が少ないなど衛生面の安全性、栄養成分・機能性成分の強化が可能、安定した周年生産性である。欠点は、初期コスト・ランニングコストが高いこと有機農産物に較べて消費者の評判が芳しくないことである。コストの内訳は、電気代、減価償却、人件費が大きく、コストダウンのためには、光熱費削減、設備費の削減、省力化、大規模化が必要である。高付加価値化でコスト高を吸収する目的で、低カリウム、低硝酸などの機能性強化や、ブランド化などの対応が進められている。
(3)日本の植物工場
日産5,000株以上の植物工場は、日本全国で約10か所ある。最大規模の植物工場は京都府亀岡市にある「スプレッド」(20,000株/D)で、光源は蛍光灯、震災復興地の宮城にある「みらい」(10,000株/D)はLEDであるなど、光源は蛍光灯かLEDである。
2.大阪府立大学植物工場研究センターの紹介
(1)植物工場研究センター
大阪府立大学は、オープンイノベーション型の研究開発として、平成21年度補正予算にて経済産業・農林水産両省の植物工場プロジェクトに採択された。役割は、植物工場についての要素技術の開発、栽培管理技術の実証、情報の収集と提供、人材の育成であり、平成22年に植物工場研究センター(PFC)を設立した。
PFCは学長が開設する機構直轄組織であるため、生命環境科学(農学)に加えて工学・理学・経済学・総合リハビリテーション学などの全学の様々な視点からの研究を行える大きな特徴がある。加えて、外部アドバイザリーボードによる客観的評価、企業との共同研究や外部研究機関との連携を行い、結果を公表して植物工場の解決するべき課題への対応を目指している。
(2)新世代植物工場の建設
平成26年9月に、プラント標準化とビジネスモデル化の実証評価設備として植物工場研究センターの隣接地に、新世代植物工場(PRJ)が完成した。1階1,272㎡、2階22㎡の2階建てで、1階は緑化室(播種~苗診断)・育苗室・栽培室、2階は空調機械室である。レタスでの栽培のスケジュールは、緑化6日、育苗14日、栽培18日の合計38日間である。栽培室は高さ7.8mあり、18段4ライン、16段2ラインを使って、日産5,000株を産出している。
LED光源は、赤・白・青色とFR(遠赤色)の混合光である。赤色(660nm)は光合成に有効であり、青色(450 nm)は植物の形を整える、白色は葉を緑色に見せるためで、栽培管理上有効な波長である。FR(800nm)は植物の伸長を促進させる役割があり、バランスをとって生育の最適化を図っている。
図1 栽培中(赤色系)
図2 葉を緑色化中(白色系)
栽培にあたっては、緑化室で育った苗は、苗選別ロボットにより優良苗のみを選別して育苗室で育てた後、栽培室に移す。栽培室は高低差が大きいため、温湿度制御は難しいが、新規ダイレクト送風システムにより、全体が均一条件になるよう工夫している。1レーンに栽培ベッドが36枚並んでおり、自走式搬送機(バッテリー内臓)を使って毎日2つ分横送りし、18日後収穫室へと自動搬送される。培養液は8トン3系統のタンクから供給し、成分を細かく制御して、全体としてのコスト40%減を目指している。
(3)人材の育成
平成26年度、農林水産省の委託を受け、日本施設園芸協会と共催で栽培の専門知識・技術にとどまらず、植物工場の担う役割から栽培技術、アグリビジネスとしての販売戦略まで、総合的な視野に立てる栽培技術者人材育成を支援した。参加しやすいように第1クールと第2クールに分け、座学・見学・実習を2回実施し、植物工場に関心ある事業者や個人の合計56人が参加した。平成27年4月からは学部生、数年後には大学院生や企業人向けの教育カリキュラムを開講する計画である。今年度からは、文科省受託の中核的専門人材養成の事業も始まっている。
Q&A
Q1:植物工場は湿度70%と聞いたが、かびとか藻が生育しないのか。
A1:かびは結露しないと発生しない。ベッドも毎回洗浄しているので発生しないが、壁に培養液が飛んで付着すると発生することがある。藻は培養液に繁殖するので、どこの工場でも苦労するが、培養液には光を当てないことで藻の生成を防止している。除藻のために殺菌装置を利用する場合もあるが、鉄やマンガンが沈殿し、培養液の組成が変化するので液管理が難しい。
Q2:培養液の管理は、どのようにやっているか。
A2:培養液は、植物が吸収するため成分が変化していく。培養液を継ぎ足す方式だが、定期的に分析して、大きく組成が変わった場合は新液に取り替えている。今後は、分析に基づき肥料組成を調整していく方法を進めて行く予定。
Q3:コスト削減のため、工数を3週間くらいにできないか。
A3:通常45日間だが、現在38日になっている。3週間での完成は現状難しい。
Q4:製品の食感は調べているか。
A4:官能検査が考えられるが調べていない。しかし生菌数や硝酸量は調べている。
Q5:自然に生育するものと同じ野菜を開発していくのか。
A5:自然と同じものにしていく考えはない。あくまで人工的に野菜を生育させる研究である。
Q6:オランダに勝てる植物工場になれるか。
A6:農業国のオランダに、太陽光型植物工場の分野で勝つことは考えていないが、人工光型植物工場では世界一と自負している。人工光型でアジア市場を獲得することに向かっていく。
講演会の風景
文責 奥村 勝、藤橋雅尚、 監修 和田光生