ポリアミド12系 エラストマー 及び ポリアミド12系 ポリマーアロイの構造と物性

著者: 藤橋 雅尚  /  講演者: 喜多 雅巳 /  講演日: 2015年8月8日 /  カテゴリ: 化学部会 > 講演会  /  更新日時: 2015年09月14日

  

近畿本部 化学部会(20158月度) 講演会報告

  時 : 201588日(土) 14:0016:30
  所 : 近畿本部会議室

 

講演1 : ポリアミド12系 エラストマー 及び ポリアミド12系 ポリマーアロイの構造と物性

  喜多 雅巳 技術士(化学) 元 株式会社ダイセル、大阪府立大学

1.はじめに

出身のダイセルでは、おもに研究に従事していた。機密事項もありデータも手元に無いので詳しい内容はお話し出来ないが、本日は19801981年に、ドイツのHüls AGに派遣されておこなった、PEEA(ポリエーテルエステルアミド)の構造解析と、PEEAとナイロン12のポリマーアロイに関する研究の一端をお話しする。

2.派遣先であるHüls AG について

派遣当時のHüls AGは、バイエル、ヘキスト、BASFに次ぐ化学企業といわれていた。石炭化学から発展した化学企業としてライン川経由で製品を搬出していた。主な製品は、合成ゴム(BUNA)PVC、有機合成品(PVC用可塑剤など)、ポリスチレン、ポリオレフィン(PEPP、共重合体)、エンプラ(ナイロン12を含む)、イソホロン誘導体などである。

3.Hüls AGでの研究

テーマは、「PEEA(図1)のモルフォロジーと物理的性質の相関に関する研究」であるが、Hüls AGの上司から、「PEEAは初めての素材のため、詳しい物性を把握していない。何を研究しても良いが、TEM(透過型電子顕微鏡)による構造観察法の確立はして欲しい」と言われた。

   図1 PEEA合成法

当時ナイロン1211のヨーロッパでの用途は自動車の燃料チューブ用途が主体であり、両者を較べると低温衝撃性でナイロン12が劣っていた。ナイロン12をアメリカでも展開するには低温衝撃性改良が必須であり、PEEAもその対策の一つであった。

まずTEM観察のための、電子染色によるPEEAのラメラ構造を観察できる条件探索を行ない、ラメラが見える条件を確立した。この手法でナイロン12PEEAのラメラ厚みを測定すると、ナイロン12PEEA共にラメラの厚みは68nm(モノマー4個の長さに相当)であり、熱処理しても厚みは変化しないことを確認した。続いてナイロン12PEEA混合組成毎の動的粘弾性とDSCの関係、PEEAのハードセグメント/ソフトセグメントの組成による結晶化度および融点の変化、ナイロン12PEEAの組成による動的粘弾性とガラス転移点の変化など、基礎データを積み上げていった。

次いで、TEMを使ってナイロン12PEEAブレンドの相構造観察の結果、図2に示すとおりPEEA相では界面からハードセグメントのラメラが内部に垂直に成長していることを確認できた。これは両相の界面の接着強度が非常に良好であることを示唆している。

   図2 PEEAとナイロン12の界面

まとめとして、ポリマーアロイの評価においては両成分の界面の評価が必要であること、界面の状況の評価にはTEM観察、界面の強度の評価にはExtension Dilatometryが有用であることがわかった。PA12PEEAポリマーアロイの界面接着は良好であるが、組成が5050近辺は両連続構造となるため物性は低下する事を結論とした。帰国後の話であるがHüls AG ではさらにPA12PEEAポリマーアロイに関する研究が行われ、その結果をまとめた報文の報告者の一人となった。

PEEAの利用について、1990年代は、消音ギアやカールルイスが使ったシューズのスパイク(使い捨て)などに使用されていた。現在は市場調査資料を元に計算すると、@1,700/kg程度となり、スキーやテニスラケット、サッカーシューズ底面のデコレートフィルムなど高価格でも使用可能な用途に利用されている。

Q&A

Q 分子量はどれくらいか。

A 30000程度である。

Q 50:50は物性的に良くないようだが、どちらかに寄せた場合どうなるのか。

A それぞれの特性に近づく。ナイロン12PEEAを少量加えたアロイを作ると低温衝撃性が改良される。

Q ナイロン1211の違いを教えて欲しい。

A 12の方が、若干吸湿率が低いが低温衝撃性はナイロン11の方が優れている。なお、ナイロン12の原料は石油系であるが、ナイロン11はヒマシ油を原料とするため天候による価格変動が大きいので,現在は12が主力である。

Q アロイは第3成分を使う例も多いがこの場合はどうか

A 界面接着力が強いのでこの場合は使用していない。

(文責 藤橋雅尚、監修 喜多雅巳)