透明導電膜の基礎と、塗布型透明導電膜の応用展開

著者: 藤橋 雅尚  /  講演者: 水谷 拓雄 /  講演日: 2016年4月21日 /  カテゴリ: 化学部会 > 講演会  /  更新日時: 2016年05月18日

 

近畿本部 化学部会(20164月度) 講演会報告

  20164 21日(木) 18:3020:00
  近畿本部会議室

講演 :透明導電膜の基礎と、塗布型透明導電膜の応用展開

  水谷 拓雄 技術士(化学)  日立マクセル株式会社 スリオンテック事業本部

1.はじめに

日立マクセル株式会社は、1961年に日東電気工業株式会社の乾電池・磁気テープ部門が独立し、マクセル電気工業として創業した。社名は電池に由来してMaximum capacity dry cellによる。国内で始めてのアルカリ乾電池の製造、カセットテープの商品化など種々の製品を手がけてきたが、現在はリチウムイオン電池、粘着テープやコンピュータバックアップ用磁気テープ、光学部品、精密電鋳部品などを製造販売している。本日はスリオンテック事業本部で手がけている透明導電膜についてお話しする。

2.透明導電膜の基礎

透明導電膜では透過率()と、表面抵抗(Ω/)が重要な物性である。透過率は高いほど、表面抵抗は低いほど良いが、両者はトレードオフの関係にあり、膜を薄くすると透過率は上がるが表面抵抗は高くなる。

透明導電膜の用途の中で、最も多いのは液晶ディスプレイである。考え方は図1のように透明導電膜を付したガラス基板の間に液晶をはさみ、ガラス基板に電圧を加えることによる液晶の変化を、偏光板を使って目に見えるようにしている。すなわち、光を通すことと電気を通すことの両方の性質が求められ、バランスが重要である。

  

      図1 液晶ディスプレイの原理イメージ  ()ジャパンディスプレイHPより

 

液状ディスプレイ以外の用途として、有機ELディスプレイ、タッチパネル、電子ペーパー、太陽電池、スマートガラス、静電防止袋などがあり、表面抵抗によって使い分けている。図2で、空色で示している電極用途(大略103/□以下)では、透明導電材料として(ITO : Indium Tin Oxide)を薄膜化している。

   図2 表面抵抗と用途の関係

3.透明導電材料について

透明導電膜は50年以上の歴史を持っているが、導電材料で見るとITOのシェアが世界出荷量(約3000万㎡/年:2014年)の90%以上という現状である。ITO原材料の中でIndium (ホウ素族)に課題があり、希少金属であること、原料がほぼ中国依存であること、高価で価格変動が激しいことなどの問題点がある。さらにITO金属酸化物のため、曲げる・伸ばす・曲面加工が難しいなどの欠点を持っており、代替材料の開発が続けられている。

ITOと置き換えうる材料として研究されているもの(①~)を紹介する。
①希少金属以外の材料系として酸化亜塩系(AlGaでドープ)、酸化スズ系(FSbでドープ)、酸化チタン系が研究されている。これらは金属酸化物という問題点を克服できないことに加え、低抵抗/高透過率の性能がITOに及ばない現状である。

   図4 ITOフィルムのSEM写真用途

金属酸化物以外の材料系を紹介する。
②炭素系(CNT:カーボンナノチューブ)はコスト高、分散して塗料化することが困難(細くて長い)であり、ITO並の低抵抗化も現状は困難であるが研究が続けられている。
③銀ナノワイヤ系はITOに最も近い性能を発揮できており、絡み合うことで導電性を発揮させる。課題は導電配線のマイグレーション(絶縁不良)の防止である。
④有機導電ポリマー系は、様々なポリマーを選ぶことができる特質がある。研究の結果ポリアセチレン系・ポリピロール系・ポリアニリン系は、導電性・透明性・安定性の全てを満足するに至らず用途は限定的であるが、ポリチオフェン系(PEDOT/PSS)はこれらを満足する特性が得られ応用展開に関する研究が進んでいる。物性は濃い青色(フィルムにすると透明~薄青)、水溶性、強酸性(pH12)であることから、使用にはノウハウを必要とする。
参考資料として特質の比較を表1にまとめるが、PEDOT/PSSの使いこなしの研究が課題と考えている。

  表1 スパッタITO代替材料の特性比較用途の関係

4.塗布型透明導電膜について

スパッタITOの欠点である可撓性を改善するため、塗布型ITOの利用が想定出来る。スパッタと異なりITO分散インクを作る必要があり、溶媒選定、分散剤選定と添加量、分散機選定及び分散条件の最適化、添加剤選定などが課題となるが、磁気テープ等の技術基盤で対応できた。ITOインクは粒子の均一分散性と高充填性により低抵抗化したが、結果としてスパッタフィルムの膜厚25 nm、表面抵抗200Ω/□、透過率84%に対して、750nm8000Ω/□、89.7%となった。厚みを増やしても表面抵抗が高いことから、添加物や樹脂が充填率を引き下げ、導電性を阻害していることがわかる。以上から塗布型ITOは、可撓性があることによる用途の拡大、加工費が安価であるなどメリットは大きいが、適用できるデバイスは限定的といえる。

塗布型PEDOTについても開発が進んでいる。スパッタITO膜を使ったタッチパネル用電極を製造する場合およそ15工程が必要であるが、塗布型PEDOT膜を利用する場合11工程であり、原材料、製造コスト共に安価であることや、骨見え(エッチングの後が見える)が無いなどのメリットもあり、ほぼ同等性能のものを半額以下で製造でき、残る課題は信頼性(耐光性と防湿性)の確保となっている。スパッタITOの完全代替となり得ることは現状困難と考えるが、銀()ナノファイバー系やCNT系とのコラボレーションなど、より高性能な透明導電膜を目指した開発が続いていることを結びとする。

5.Q&A

Q 透明にこだわらない使い方はどうか。

A 金属代替の電磁波遮蔽用途、伸びる導電テープなどが想定されている。

Q 使用材料と特化則による規制との関係(特にCNT)はどうか。

A 規制に対応した使い方になると考える。

文責 藤橋雅尚 監修 水谷拓雄