植物工場の現状と課題
公益社団法人
近畿本部 環境研究会 第76回特別講演会要旨
(共催:関西食品技術士センター)
日 時:平成28年8月1日(月)午後6時30分~8時30分
場 所:アーバネックス備後町ビル3Fホール
講演:植物工場の現状と課題
清水 浩 京都大学大学院 農学研究科 地域環境科学専攻 農業システム工学研究室 教授(農学博士)
1.日本農業の現状
日本の農業は、農業従事者の高齢化と、就農者の減少に歯止めがかからない状況が続いている。また、国際比較では、小規模農家の比率が顕著に高いという構造的問題を抱えている。
食料自給率の計算方法には、「カロリーベース」と「生産額ベース」の二とおりがある。日本の農業は、「カロリーベース」と「生産額ベース」の両方とも減少傾向が続いており、特に「カロリーベース」の食料自給率は現在40%程度しかない。これは、欧米諸国と比べ極端に低い状況である。日本の食料自給率の減少の要因の一つとして、食事内容と食料消費量の変化があり、食生活の洋風化が進んだことが考えられる。日本は過去に、穀物の国際価格が食料事情に影響を与えることを経験している。また、将来、食料の輸入禁止になる要因も考えられることから、食料自給率の低下は、日本にとって大きな懸念事項となっている。
近年、雇用者の共働き世帯が増え、それにより中食が増える傾向がみられる。
2.植物工場の概要
植物工場には、自然光型植物工場(太陽光利用型)と人工光型植物工場(完全制御型)の二つのタイプがある。露地栽培と比較すると植物工場は、外界から遮断されることにより、天候に左右されない、設置場所を自由に選べる、定量・周年栽培、労働の周年平均化、農薬が不要など多くのメリットがある。また植物工場の意義として、無農薬栽培、周年栽培、大幅な省力化、高い品質管理、気候に無関係(寒冷地、不毛地での栽培)、養液栽培(連作障害がない)等があげられる。
植物工場の設置数は年々増えており、平成28年2月時点では人工光型が191件、太陽光併用型が36件である。
3.植物工場の要素技術
植物工場の要素技術として、(1)養液栽培(EC,pH)、(2)光環境(量と質)、(3)空気調和(温度、湿度、風速)が重要であるが、その他にも重要な要素技術はある。
(1)養液栽培
養液栽培には多くの手法はあるが、植物工場で主として用いられているのは、下記三つの手法である。
① DFT(Deep Flow Technique):植物の根全体を濃度調整された液肥に浸す。また、液肥に空気を混合させ根からの吸収を促進する。
② NFT(Nutrient Film Technique):根の回りに養液をフイルム状に流す。
根の半分くらいが空気に触れており、ほうれん草のような酸素を好む植物に適している。
③ Rock-wool耕:植物の根をロックウール型に入れ、そこにチューブを通して、養液を送り込む。
(2)光環境
初期の植物工場では高輝度放電灯が用いられていたが発熱量が多い問題から、今では多段栽培が可能な蛍光灯が多く用いられるようになっている。その他、LED光源の研究も行われている。
(3)空気調和
基本的に従来の技術を転用できる。しかしながら、大規模化したときや多段化したときの温度コントロール、湿度コントロール、風速などの均一性に課題がある。
4.統合環境制御の考え方
環境要因が一つ決まると、光合成を最大にするため、その他の環境要因がある程度絞られてくる。例えば、光合成有効放射束(PPF)が決まると、光合成が最大となる温度、風速及びCO2濃度が決まり、風速が決れば最適な湿度が決まる。
5.今後の展開
(1)露地野菜との差別化:露地野菜では作れない野菜(高機能野菜、医薬品原材料・サプリメント)の展開を図る。
(2)光環境による機能強化:①青色光の植物生長への利用、②緑色光によるアントシアニン含量・ポリフェノール含量の増加や病害抵抗性の向上、③UV光による免疫機能の活性化。
(3)温度環境による機能強化:根圏低温ストレス反応を利用した機能性向上等。
(4)遺伝子組換え作物による機能強化:医薬品原材料の生産。
(5)養液制御による機能強化:カリウムが少ないレタス等。
(5)栄養補助食品(サプリメント)の生産。
Q&A
Q1:植物工場ではなく露地栽培の効率化でも良いのではないか
A1:精密栽培といい欧米で行われている。但し、太陽光をコントロールするのは難しい。外界遮断の植物工場の方がコントロールは容易である。
Q2:PPFとは? 測定器はあるのか?
A2:光合成有効放射束(密度)の略。測定器は販売されている。
Q3:野菜以外のターゲットは?植物工場で漢方栽培も可能か?
A3:大手ゼネコンが甘味料を目的に甘草を栽培している。生薬としてのビジネスはあまり活発でない。
Q4:植物工場での機能水の活用は?
A4:水は機能よりも成分が重要である。マグネシウムが多い海洋深層水の活用が試行されている。
Q5:植物工場先進国のオランダとの開きをつめるには? ボトルネックは?
A5:オランダのトマトは加工用のものが多く、求める要求が日本と異なる。またオランダと日本とでは気候も異なる。日本は日本人向けの品質で取り組む必要がある。
文責 山本 王明 監修 清水 浩