新しい扉を拓くナノファイバー

著者: 藤橋 雅尚  /  講演者: 八木 健吉 /  講演日: 2018年9月29日 /  カテゴリ: 環境研究会 > 講演会化学部会 > 講演会  /  更新日時: 2018年11月07日

 

化学部会・繊維部会・環境研究会合同 講演会(20189月度)報告

  2018929 日(土) 13:3016:30
  アーバネックス備後町ビル3階ホール

講演1.新しい扉を拓くナノファイバー

講演者 八木 健吉 技術士(繊維、総合技術監理部門)
一般社団法人 日本繊維技術士センター 副理事長

1.ナノファイバーへの流れ

合成繊維は1973年のオイルショック以降、消費者ニーズが変化し、衣料分野では軽量化・ソフト化素材、産業分野では高性能・高機能素材が求められるようになった。これを受けて繊維業界は細い繊維の開発を加速化し、極細繊維(Micro Fiber)の開発に向かった(極細繊維:直径23μm。絹:1213μm)。米国では2001年にクリントン大統領によりナノテクノロジーが国家的戦略目標に定められ、ナノファイバーが出現した。

ナノファイバーには大きな特長が三つある。
 ①高い比表面積により吸着性や接着力などが高くなる。
 ②圧力損失が小さくなる効果や光学特性の変化が生じる。
 ③分子配列がそろうことから、強度・熱伝導性・電気伝導性などの物性が高くなる。
これらの物性変化に対する期待値は高く、技術開発が進められた。図1に主なアプローチを示し、以下概要を説明する。

    図1 ナノファイバーへの主なアプローチ

2.フィラメント技術によるナノファイバー

海島(うみしま)型溶融紡糸法があり、その中に海島型混合紡糸法(ポリマーブレンド方式)と、海島型複合紡糸法(口金、流路制御方式)がある。図2は口金、流路制御方式の例であり、複合紡糸後脱海(だつうみ)により海成分を除去(アルカリで溶かすなど種々の方法あり)してナノファイバーとする。

  図2 海島型溶融紡糸の原理

ポリマーブレンド方式(東レ)は平均繊維径60nmの単糸が100万本単位で集まっており、木綿の2~3倍の吸湿性を発現する。この繊維は2007年から実用に供され、ワイピングクロス、研磨布美容用途、機能性衣料などに展開している。

口金、流路制御方式の新海島技術によるナノファイバー(帝人)は、滑りにくい、肌にやさしい、心地よいなどの特性があるため、周辺技術の開発が進み、生活用品分野やフィルター分野に各種製品が上市されている。この方式では、丸形断面ではなく異形断面(東レ:剛性など力学的特性や手触りの向上)のナノファイバーも開発されている。
その他、レーザー超音速遠伸法によるナノファイバーも開発途上にある。

3.不織布技術によるナノファイバー

不織布はポリマーを糸にしてウエブを形成し、接着結合工程により製造される。ナノファイバー不織布の製造方法として、ナノメルトブロー法(ポリマー押し出し口を囲んで加熱空気を吹き出し、気流により細化する方法)や、図3のエレクトロスピニング法(ポリマーの吹き出しノズルに高電圧をかけてナノファイバー形成)、遠心紡糸法など種々あり、液体用フィルター、自動車用フィルター、低圧損マスク、電池用の多孔膜フィルターなど様々な分野への用途展開がなされている。

   図3 エレクトロスピニング法海島型溶融紡糸(東レ)

4.解織技術によるナノファイバー

セルロースナノファイバーについても開発競争が激しくなっている。解繊方法として、粉砕や水中衝突などの機械的方法、高圧水流法、化学的方法などがある。TEMPO触媒酸化セルロースナノファイバー法は、2015年に森林分野で最高の賞(マルクス・バーレンベリ賞)を受賞した。日本製紙が工業化に成功し、2017年から石巻で稼働を開始している。最近でも王子ホールディングスが繊維幅34nmのナノファイバーで透明紙を開発するなど、世界的な競争が激しくなり、日本では産学官連携で技術開発や事業開発を行っている。

5.自己成長性ナノファイバー

酢酸菌の製造するナノファイバーは、ナタデココとして利用されており、発酵法も研究されている。また、触媒気相成長法によるカーボンナノチューブが実用化され、電極用導電助剤としてリチウムイオン電池の寿命向上に貢献している。

6.ナノファイバーの今後の展開

ナノファイバーは高機能物質として期待されており潜在的な需要は計り知れない程大きい。今後、成型加工や微細分散などの加工技術が進展して、市場規模の大きい自動車用複合材料や付加価値の高いメディカル材料で実用化が進めば、本格的な用途拡大が進むと思われる。課題として、セルロースナノファイバーやカーボンナノチューブなどの新素材の安全性の確認や評価が必要であるが、次世代の繊維として期待したい。

質疑

Q 遠心紡糸法について口金直径と圧力に関し、通常の場合との差を教えて欲しい。

A 遠心紡糸法については米国Fiberio社が開発し、日本では山口産業が装置を輸入販売していた。回転口金のノズル直径は通常の溶融紡糸と同様と推定されるが、圧力などの詳細は把握していない。

Q 炭素繊維は構造材として使われるが、ナノセルロースの構造材としての可能性はどうか。

A マトリックス樹脂への分散性(親水性と親油性の関連を含む)が課題である。市場規模の大きい複合材料用途向けに開発が進められているが、現時点では耐久性を含めて比較出来る域には達していない。マテリアルリサイクルの面ではナノセルロースは劣化しにくいことがメリットと言われている。

Q ナノセルロースではどのような安全性評価を行うのか。

A 産総研が主体となって、分析方法や、暴露評価などの安全性評価方法を検討中であると聞いている。

Q 種々あるナノファイバーの中で、同じ材質でも製造法による差はあるか。

A 例えば海島法では延伸されるが、エレクトロスピニング法では延伸されないので、適用できる用途に差が出てくる可能性はある。

文責 藤橋雅尚 監修 八木健吉